年が明けても
結局、岩泉家で揃って朝まで過ごし、昼前には
半纏姿の2人が猫背で丸くなって静かにテレビを
ぼーっと見ている姿がどうも可笑しくて、美月
がそれをカシャリと撮影すれば、2人は何か?と
と同時にこちらを向き出すので、美月は思わず
吹き出した。
『後輩達が見たら驚く光景だなと。』
「ちょっと見せて、…って、かっこいい俺が
台無しじゃん。誰かに見せるのは禁止!」
「お前、ユニフォームよりも似合ってんぞ?」
「岩ちゃんに言われたかないね!」
昨日は静かに机と向き合っていた岩泉と美月の
2人だが、この男の登場によりそこからは一気に
賑やか。
「コレがあったかいから、自然と猫背になるん
だってば。」
『本当だ、あったかい。』
「でしょでしょ!?」
岩泉と美月の中のわだかまりが解消されたのは
彼が背中を押してくれたお陰だが、その対価と
いったところか、今もスマホ画面を見て笑って
いる美月の所に移動して、彼女の背中にぴっとり
引っ付いて、彼女の肩に顎を乗っけてとやたら
スキンシップを取る及川が気に入らなかった。
自分の半纏の中に美月を閉じ込めて、嬉しそう
に彼女に笑顔を見せるのは、あの時彼女に告白
をしようとした岩泉への宣戦布告か、岩泉は及川
と目が合うと、彼がニヤリと笑うように見えた。
「お前の今の顔腹立つな。」
「ねえ、今から初詣行かない?」
「おい、人の話聞けよ。」
美月とのんびり過ごせて上機嫌だと言った所か、
岩泉の発言を無視して、正月らしいことしたく
なった!と及川は突如提案し始め、マイペースな発言は今年もかと、美月も困った顔で笑った。
『そうだね、ここでゴロゴロしてるのも身体に
良くないか。』
「おみくじ引こうよ!」
「お前は、大凶を引くと見た。」
「岩ちゃんは人を年始早々不幸にしないでよ。」
岩泉は気だるそうにしていても、美月が行きた
そうに言葉に出さずに、そわそわとし始めた事
に気がついて、彼は半纏を脱いで出掛ける支度
を始める。
「ほらー、もう岩ちゃんがあんな事言うから!」
そして岩泉の予言は本当になってしまい、参拝
後に引いたおみくじに肩を落とす及川の背中を
美月はヨシヨシと撫でて、見事にちゃっかり
自分は大吉を引いていた岩泉は、紙切れ一枚で
うるせえと、余裕の表情を見せていた。
『でも徹、今底辺ならこの後は運気が上昇する
一方だし。』
「そういう美月も大吉じゃん。」
『うーん、ごめんね?』
「いや、美月が謝る必要がねえべ。」
励ます美月の及川への謝罪を岩泉が否定して、
及川は自分のくじをヤケクソ気味に括りつけて、
「御守りで何とかするし!」とずかずかと売り場
まで、彼はひと足先に一人で向かい、何を買うか頭を悩ませる。
いつも彼女は傍に居たから、今まで気にとめて
いなかったとあるものまで気になってしまい、
恋愛成就と書かれたそれと睨めっこしていると、
ずっしりと右肩に重みが掛かり、付き添いとは
違う聞き覚えのある低い声が囁く。
「お兄さん、恋のお悩み?」
「うわっ、なんだよいきなり!」
「相手次第では買わせねえけどな?」
いきなりの出来事に驚いて、反射で及川が一歩
身を引けば、彼に囁いた犯人の花巻がニヤニヤ
と笑みを浮かべて、及川の反応を楽しんでいた。
「マッキー、ビックリすんじゃん!…てか、
マッキーも来てたんだ。」
「おう、一応合格祈願しとくかって松川と。」
花巻のすぐ側には松川の姿もあって、ひらひら
と及川に手を振りながら、彼は2人の一連の流れ
を見届けていたらしく、松川もまた面白がって
笑っていた。
「及川は、何見てたわけ?」
「なんかいいのないかなーって。」
「おみくじで悪いの引いて、恋愛運不安になって
御守りを買おうとしたとか?」
「まっつんは、何で俺が大凶引いたの知ってん
のさ!?」
「え?マジで当たり?」
「後半は違う。」
「お前、こういう時ホント分かりやすい顔
すんのな。」
花巻と松川が揶揄うので、それに及川がムキに
なっていると、後から岩泉と美月が及川に合流
しようと向かっていて、彼女はチームメイトと
出会えたことを嬉しそうにしていた。
「なんだ、お前らも来てたのかよ。」
『花巻も松川もあけましておめでとう!』
笑顔で挨拶をする美月に釣られ、2人も挨拶を
返すと優しく微笑み、彼女に会えてご満悦。
彼女も御守りが気になったのか並んであるそれ
らを見つめ、とある御守りを一番に手に取ろう
とした。
『あったあった、合格祈願。』
「まあ、1番はそれだよな。」
『ん、どうしたの?』
「美月、なんでもないからね。」
先程のやり取りを知らない美月が首を傾げれば、
花巻はニヤニヤとまた笑いだし、及川は彼を肘
で小突きながら、誤魔化す。
そして、松川は我関せずの態度でちゃっかりと
美月の隣に並び、彼女と同じく御守りを物色し、
彼女に乗って同じものを手に取った。
『松川も買うの?』
「俺も買おうかな、美月お揃いにする?」
「まっつんは、さりげなく美月とイチャイチャ
しようとしないで下さい!」
「うるせえな、皆で同じの買えばいいだろ?」
「確かに、じゃあ俺も。」
「えー。」
岩泉は松川の魂胆を気にせずにそう言い出して
いたのだが、花巻は及川同様、それを阻止する
べく同じものを手に取り、松川は少し不服そう
にしていると、仲間外れが嫌な及川も何故か、
受験予定は無いはずが、同じ物を手にした。
「それなら俺だって買うし!」
『じゃあ、みんな一緒だね!』
じっとりと黙って見つめ合う野郎達の中、美月
は楽しそうに笑って、仲間と同じ御守りを大切
そうに見つめ、変わらぬ仲間と過ごせたことを
彼女は嬉しく思う。
『これさえあれば、最後の受験会場は離れて
いてもみんな傍にいる気がして、最強だ。』
「離れていても…か。」
陽だまりの笑顔を見れば、御守りなんて本当は
必要ないのではないかと思わされる程に、自然
と力は湧いて、妙な緊張感は解れていく。
試合以来に、久しぶりに向けられた嬉しくなる
言葉とその表情。
及川は、やっぱりこれだけは御守りに頼りたく
無いと考えながら、美月の頭を優しく撫でよう
と手を伸ばそうとした。
「美月ー!」
すると、及川のその手は彼女に届かないまま、
美月の言葉に胸を射抜かれていた花巻が彼女を
及川よりも先に腕の中に閉じ込めて、ぐりぐり
と彼女の頭に自分の額を押し付け始めたので、
美月は顔を真っ赤にして戸惑い、周りが急いで
花巻を引き剥がす。
『えっ、ちょっと花巻!?』
「マッキー、それずるい!」
「コイツ、時々ごく自然に行くところがすげえ
よな。」
及川が嘆く横で、松川も苛立ちを見せながらも
彼を感心し、岩泉は黙って彼に一発制裁を加え、
久しぶりに岩泉から食らった花巻は痛そうに
蹲り、美月は苦笑いを浮かべる。
「ホント、俺達成長しねえな。」
「信じられるか、3ヶ月経ったら大学生だぜ?」
「受かったらのハナシじゃない?」
「お前はまず他国で生き残れるかだな。」
「まっつんは恐ろしいこと言わないでよ!」
『絵馬でも書いとくか。』
賑やかに会話する仲間達はこの先も変わらぬ事
を美月は願い、夢を制すと横断幕の言葉を一部
拝借して、満足そうに皆を見た。
「青葉城西高校バレー部3年って、人数多い!」
『湯田達の分もついでに。』
「いやいや、欲張りか。」
声を出して笑い合い、十分に願いを伝えきった
彼らは、気がつけば一緒にその場を立ち去ろう
とする。
「で、結局このメンバーかよ。」
「腹減ったな、出店あんじゃん。」
『たい焼き食べたい!』
「美月、食いすぎて太るぞ?」
岩泉の厳しい言葉にショックを受ければ、花巻
はまたセクハラ発言をしようとするのが読めて、
先手を打つ及川が、そっと彼の唇に人差し指で
触れ、次は無いと彼を止めた。
「マッキーったら、言わせないぞ?」
「うわぁ…、新年早々やなもん食らった。」
『そういえば、松川と花巻はおみくじ引いた?』
「うん、花巻も俺も末吉だったわ。」
「お前ら、俺を馬鹿にしておいて微妙じゃん!」