会いたいと願う人

花巻も松川も、最初の試験はまずまずといった
調子で志望大学も決め、また次の試練に臨む前
の最後の日曜日。


その日が自分の生まれた日ということもあって、
特別なこの日に一人で自室にいることに寂しさ
を感じて、なかなか勉強が捗らない花巻は机に
顔を伏せていた。


時期が時期な為、松川を誘い出すのも遠慮して、
すっかりテンションは下がっていく一方。


「侘しいもんだな、一人っつーもんは。」


昨年はまだ練習練習の日々で、その時も土曜日
だったが仲間が一緒に居た為、クラッカーを鳴ら
され、大量のシュークリームをプレゼントされた
その日が既に懐かしかった。


「あれ、牧野だけ違うの?」


『うん、花巻の胃もたれが心配だったから一応
胃薬持ってきた。』


「おっと、マジか。誕プレが胃薬…。」


美月が小さな小瓶を手渡して、呆然と自分がそれ
を見つめた日を思い返し、やり取りを見届けた
松川と岩泉が吹き出し、及川は腹を抱えて笑い
出した事も一緒になって振り返る。


『なっ、違うよ!?プレゼントはまた別にある
んだからね?!そんな、薄情な事しないし!』


「と言いながら、マジック贈ったりして。」


『違うー!マジックなんか滅多に使わないから
困るだけでしょ?』


「大丈夫。牧野がまともなのは、俺がよく
分かってるから。」


「まっつんはまたそうやって株を稼ぐよね?」


花巻が疑り深く美月を見れば、彼女は必死に
説明をして、美月がプレゼントしたシャーペン
は、使い始めてかれこれ1年を迎えていた。


当時美月に、しっくりくるものが無いのだと愚痴
をこぼしていたのを覚えていたらしく、自分の
おすすめだと誇らしげに贈ってくれていたもの。


くるくると回せば、満面の笑顔を向けた彼女が
思い浮かんで、日々を過ごしていくうちにここ
までに想ってしまう存在になってしまったのか
と、花巻は思い知らされる。


「アイツ、今頃何してるんだろうな。」


会いたくなったらすぐに会いに行ける及川や岩泉
の距離感がひどく羨ましい。
まだ、今の自分はそこまでは追いつけておらず、
そこだけは悔しさを抱いていた。


自分には恐れ多いと思って、話すだけで緊張して
いた出会った頃、そして内に秘めた逞しさに尊敬
した2年の夏。


そして、女子までも魅了する強い姿に自分も気が
付けば惚れ込んでいて、自分に振り向く事を願う
存在に変わっていた。


「…って、何勝手に思いを馳せてんだよ。」


そんな事をぼんやりと頭で考えていても、彼女
に会えるわけでは無い。
恋に悩む暇はなく、それよりも今の自分はもっと
大事な課題が残っているのだ。


むしゃくしゃした気持ちを抑えるためにも、花巻
は別の場所で勉強することを決めたのか、椅子
から立ち上がり、勉強道具を鞄に詰め込んだ。


いざ進め、図書館。いざ進め、大学進学!
浪人なんて御免だと彼は意気込んで、一番集中
出来るであろう、その場へと進む。


『あれ、奇遇だね。花巻も?』


そして彼は、些細な事で彼女との運命を感じて
しまうチョロい自分自身を嘲笑する。


自習室で隣にいた美月の姿に、嬉しさから声が
漏れて、彼に気がついた美月も嬉しそうに手を
振っていた。


「家だと集中出来なくてさ、気分変えようと
思って。」


『一緒だ、私もセンター終わって気持ちが緩み
そうだっからここでしようと思って。』


花巻がいると心強いねと言われると、単純な言葉
で胸を弾ませた花巻は、俺も心強いわと笑みを
返して、そこからは黙々と赤本と睨み合う彼女
の隣で、同じく彼も集中し始める。


隣に美月がいる安心感で、時間は4時間はすぐ
に経過して、それに気がついたのは彼女のお腹
の虫が鳴った時。


「美月、そろそろ抜ける?」


その音に隣の顔を除けば、むずむずと恥ずかしさ
を我慢して口元を動かす彼女の表情が見えて、
花巻は堪えきれずに小さく吹き出す。


『もう、笑わないで!』


顔を赤くして、彼女が小さな声でコツンと彼の
腕に軽いげんこつを入れると、花巻はわかった
と彼女の肩を優しく叩き返して、荷物をしまい
その部屋を2人で後にした。


「ほんと、お前ってわっかりやすいよなー!」


そして図書館から外へ出ていけば、花巻は我慢
していた笑い声を出して、美月も笑い過ぎ!と
怒り出して、口を尖らせる。


「面白かったから、全然大丈夫。」


『それ、私は全然大丈夫じゃないって!』


いつもに増し花巻が彼女を揶揄いたくなるのは、
会えた事が嬉しいから。
緩む口元を隠したくて大袈裟に笑って、美月との
会話を彼は楽しんでいた。


『そうだ、花巻。誕生日おめでとう。
言い忘れてたよね?』


「え、覚えてくれてたの?」


時々しか顔を合わせていないと、自分の誕生日
なんて忘れているだろうと考えていた花巻は、
彼女と何気ない会話を出来ただけで充実した日
を過ごしていたと感じていた。


なのに彼女は突然、さらっとお祝いの言葉を彼
に向け、ごそごそと徐に自分の鞄を漁り出した
ので、花巻は思わず目を丸くさせる。


『ちゃんと覚えてるよ。前の時も思ったけど、
私がプレゼントしたペン使ってくれてたんだよ
ね?嬉しい。』


「おう、あれめっちゃ良いわ。書きやすいし。」


前回贈ったものを使っている事を喜んでいた美月
は、花巻のプレゼントを図書館に向かう前に購入
していたらしく、綺麗にラッピングされていた
袋を彼に差し出した。


「ありがと、開けてもいい?」


『どうぞどうぞ!』


プレゼントを開ける花巻を楽しそうに見つめて、
美月の眩しい瞳が彼をばっちりと捉えており、
途中で照れから負けてしまった花巻は、その
手渡されたものに視線を向けた。


「マジ、これは嬉しい!」


『気に入って貰えて良かった。』


今回も、自分が欲しいと願っていたペンケースが
その袋の中には入っていて、これを理由に勉学も
励める気分がして、花巻は目を輝かせて顔を
上げた。


この場に仲間がいたら、文房具くらい買えよと
突っ込まれそうだが、何となく買いに行くのが
面倒臭くて、放置していて壊れかけの私物。


『今回も使い勝手おすすめだから、使ってくれ
たら嬉しいな。』


チャックの開閉を難しそうにしていた花巻を彼女
は見ていたのか、彼女は迷わずそれを選んだと
彼に伝え、自分をよく見てくれている嬉しさも
混ざり、そんなにわかりやすい人間なのかと、
小っ恥ずかしさも同時に沸き上がる。


「俺、今日お前に会えてラッキーだったわ。
只今、もれなく感動中。」


『私も花巻の嬉しそうな顔を1番に見れたから、
ラッキーだね!皆に自慢しちゃいたい。』


それは、こっちの台詞なんですけど。


はにかむ美月に、花巻は心の中でそう訴えて、
この幸せな気持ちを独り占め出来るこの日が、
自分の誕生日で良かったと実感して、思わず彼
は目頭を抑える。


「美月、これからも仲良くしてこうな?」


勢い任せに告白しそうになる自分の本音を飲み
込んで、花巻は美月にそう告げると、彼女は
不思議そうに首を縦に振り、返事をする。


『こちらこそ、今後ともよろしくお願いします
…ってどうしたの、急に。』


「いや、何となく。」


どうしても、いざという時に慎重になってしまう
自分を情けないと思い、でも困る彼女を見たく
無いとも思う彼は、自分を冷静な人間だと褒める
事にしておいた。


「これ持って、俺は東京に行く。」


『え、花巻も東京行く予定なの?』


「…マジ?美月も??」


『そういえば私達、何だかんだ進路の話した事
ってなかったよね?』


「俺ら、すっげー今更だけど。」





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