限られた時間の中で

2月に入れば、こうして美月達と並んで歩く時間
も1ヶ月を切るのかと考えると、及川の胸の中
には妙な寂しさが込み上がった。


「何か、一気に寂しくなってきた。」


『わっ、どうした急に。』


「面倒臭い予感しかしねえから、ほっとけ。」


突然感じた気持ちをぽつりと素直に言葉に出せ
ば、一人は驚いた顔を見せながらも心配をして、
もう一人はあからさまに面倒臭そうな顔をして
真逆の反応を見せる2人に、及川はマイペースに
胸を抑え、自分の思いを伝える。


「岩ちゃんのその冷たい目を浴びるのも、もう
ちょっとで見れないと思うと寂しい。」


「…既に面倒臭いヤツかよ。こっちはまだそれ
どころじゃねーよ。」


『2月って短いから、余計に早く感じるよね。』


「美月は冷たい岩ちゃんと違って、分かって
くれると思ったよ。」


言葉に出せば、余計にこうして並んで歩く時間
も惜しくなって、教室で及川と美月達が別れる
場所に辿り着くと、及川の口から深いため息が
出る。


「岩ちゃん、やっぱり今日一日だけ俺とクラス
変わらない?」


「いい加減にしろよ、ぶっ飛ばされてえか?」


『それだとハジメとは一緒じゃないでしょ?』


「美月の温かさに触れてたい。…って、マジで
殴ることないじゃん!」


「クソ川にイラってした。」


『まあまあ、ハジメも落ち着いて。そんなに
寂しいなら、久しぶりにバレー部3年で集まって
お昼食べる?』


さらに冷たい言葉と逆に、美月は温かい笑顔を
向けてそう提案をして、及川の気分で昼の予定
が振り回される事を億劫に感じるのか、岩泉は
眉間に皺が寄っていた。


「甘えんぼさんか。」


「そう言いながら、マッキー達も何だかんだ
来てくれてんじゃん。」


そして仲間に招集をかければ、春のように屋上
に集合は難しく、結局たまり場となるのは会議
に使っていた教室で、花巻によってドアが勢い
よく開かれた。


花巻は顔を顰めてパンを片手に、先に到着した
及川にそう指摘を入れて、及川もノリノリな彼
を指摘する。


「何だろうな、自習が多いから賑やかな空気を
求めてんだよな。」


『わかるわかる。ずーっと過去問と睨めっこが
そろそろキツくなって来たよね。』


花巻と一緒にやってきた松川もそう言うと、美月
も一緒だと同意して、その後は湯田達も教室へ
やって来て、一気にその場は懐かしい空間に
変わっていった。


「そういや、卒アルの集合写真は今週だよな?」


久しぶりに3年生全員が顔を揃えれば、話題は
近況報告や進路の話。それぞれが自分達の道に
必死だったので、なかなか集まっての会話は
していなかった。

そして次の話題となるのは、卒業写真。
3年生全員が集まって撮っていなかった為、湯田
が振った話にそれぞれが予定を確認していた。


「撮る場所はやっぱ体育館?」


「せっかくだから、横断幕と一緒に撮ろうよ!」


『じゃあ、手入れしとかないとだよね。』


「いや、もう引退したんだからお前は動かずに
後輩に任せて自分の事をしなさい。」


「多分、矢巾が後輩に声掛けてるだろうし。」


『大丈夫かな?』


「そうそう、だから大丈夫だって。」


どうしても、こういう時に準備しようとする事
が癖付いていた美月は、倉庫に放課後立ち寄ろ
うと計画を立てれば、松川にそう促され、湯田
にも説得をされる。


「美月の後輩への過保護っぷりは健在だね。」


及川も困った顔でそう笑い、本日も彼女のお手製
のお弁当を食べている岩泉のメインディッシュ
を勝手に摘む。


「…おい、何やってんだ。」


「美月の生姜焼きも今食べておかなきゃ。
あの時に食べなかったから!…って後悔したく
ないしね。」


「今お前が食ったことを後悔させてやろうか?」


『こらこら、もう私のあげるってば。』


「おー、おー、相変わらずやってら。」


「そっちも健在なのかよ。」


幼馴染みの世話焼きは今も変わらずだったが、
松川達の言った通り、確かな卒業アルバムの準備
をする余裕は無く、2週間後は自分の人生を左右
する、大切なものが控えていた。


「美月は、前日に現地に向かうんだろ?
俺も前乗りの方がいいよなー。」


『うん、ハジメと一緒に行く。その方が安心
かなと思って。2人で泊まる予定のホテルも
ちゃんと押さえたし。』


「…えっ、ホテル?」


「…まさか???」


美月突然の一言に聞かされていなかった周りは、
ん?と頭にクエスチョンマークを浮かべて、彼女
も周りに釣られて首を傾げ、同行する約一名は
我関せずと弁当を平らげる。
1番に荒らげた声で尋ねたのは、花巻だった。


「は?!お前ら一緒に泊まるわけ!?」


『うん。親は仕事があるから来れないし、
ハジメとなら夜も安全だろうからって。』


「美月のお母ちゃんは何言ってんの?
狼と一緒に寝るようなもんだよ!?それなら
…俺もついて行くべき?」


「あ?こっちも必死だから余計なこと考える
余裕なんてねえよ。それこそ及川が乱入したら
集中出来るもんも出来ねえだろうが。」


「ナニに集中するつもりよ?」


ぼそりと松川が呟いた言葉に、岩泉がギロッと
一睨み効かせ、それ以上は岩泉の逆鱗に触れる
と察した松川は両手を上げる。


「知らない、聞いてない、2人だけずるい!」


『でも、徹は私とハジメが試験が同じ日なのは
知ってたはずだよ?』


「うっ、でも岩ちゃんと泊まる部屋も一緒までは
聞かされてない。」


『そうだっけ?』


呑気にもぐもぐと咀嚼する美月に、及川は鼻息
を荒くするが、岩泉の立ち位置を自分に置き換え
たとしても、彼女はきっと同じ返答だ。


「そりゃ寂しくないはずだよ!」


「あー、うるせえ。」


岩泉にも適当に流されて、次は別の話題に変え
られてしまった及川は、どうしても敵わない2人
の距離感にもどかしさをを残して授業を迎え、
静かな教室で覚える生活に必要な英単語は、
なかなか彼の頭に入らなかった。


こんな子供っぽいヤキモチなんて…と言いたい
所だが、自分にも時間は限られていて、この先
の会える時間は確実じゃない。
そう思えば思う程、及川の譲れない気持ちは
強くなる一方だった。


「今日は岩ちゃんにあげない!」


放課後に猛ダッシュで美月の教室へ現れた及川は
岩泉にそう言い切って、片付けが済んだばかりの
美月を自分に引き寄せた。


「あ?そもそもお前のでも何でも無えだろ…って
おい!」


『わっ…ちょっ、ええっ!?』


今現在の及川徹は聞く耳持たず。
クラスメイトのブーイングも岩泉の言葉の途中
で美月の手を引き逃げ出して、反射で一緒に走る
彼女は戸惑い、及川に声を掛けた。


『徹、本当に今日はどうしちゃったの!?』


「いいから。ここからは、徹さんデーなのっ!」


階段を駆け下りて、子供っぽい口振りで返事を
してみても、自分の将来を応援してくれている
美月の将来の邪魔はしたくない気持ちも心の中
に残っている為、行き先は結局図書館。


『徹が図書館なんて珍しい。』


「調べたい本とかあったから。…これなら、
美月も気にせず隣で勉強出来るだろうし。」


隣にいるだけでいい、傍にいさせて欲しい。
女々しい気持ちに及川自身も嫌気がさす隣で、
美月は寂しいという及川の気持ちにそっと寄り
添った提案をする。


『じゃあこの後ドーナツでも食べて帰らない?
勉強たくさんしたら、甘いものが恋しいや。
残り少ない学生生活の中で、楽しい思い出も
たくさん作りたいしね。』


「…いいの?うん、行く。行こう!」


『あと、この前のセンターの応援に来てくれた
お礼、ちゃんと出来てなかったから。』


「そんなの、別にいいのに。」


『私が良くないの!』


優しく微笑みかける彼女に胸を弾ませ、及川は
図書館を出た時、久しぶりに彼女の手を握り、
その温もりを今は沢山味わいたくて、彼は周り
を気にして注意する彼女の声を聞こえないふり
をする。


突然甘やかしてくれる彼女の不意の優しさに、
胸は締め付けられると、ゆっくり目を伏せ、
この一時を大切にしようと幸せを噛み締めた。
自分の思いを伝えたら、辛くなるのは自分自身
なのだから。


「美月がメニューを迷ってもいいように、半分こ
してあげる!」


『徹のそうゆう所、好きだな。』


「ほんっとに、美月は!」




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