結果はいかに
「美月、恨みっこはナシだかんな?」
『それは、もちろん!』
「お前らは、何で自分の部屋で見ないのさ!」
賑やかに自室のパソコン画面に釘付けの受験生
2名に挟まれ、及川は文句を吐きつつも彼らの
真ん中で操作をして、それぞれの番号を確認し
合った。
その数日前、学科は違えど同じ大学を受験した
美月と岩泉は、試験前日に互いの苦手な部分を
確認し合って、本番に臨む。
「って、お前はまた寝惚けてこっちに来たの
かよ。」
同じホテルで前日は穏やかに過ごして、呑気な
彼女は岩泉のいたベッドで丸まって、彼に寄り
沿った形で心地良さそうに眠っていた。
それに気が付かず爆睡した自分の事は棚に上げ、
いつもと変わらぬ様子の彼女に岩泉は頭を抱え
たが、かえってそれがリラックス効果と化した
のか、会場も至って普段通りに対応。
及川に知られてしまったら、拗ねて面倒な事に
なってしまう為、もちろんその事は内緒にして、
岩泉の中だけの思い出として、心の中にしまっ
ておく。
顰めっ面でパソコン画面を見ているが、及川も
彼らの事を一番に気にしていて、番号が並んだ
ページになると、彼もそこからは真剣な目に
切り替わった。
「岩泉ちゃんの番号はあった。んで次は美月。」
『ハジメおめでとう、よかった。』
「まだ喜ぶのは早えだろ、自分の心配もしろよ。」
「岩ちゃん、落ち着いて。」
恨みっこ無しと言っておきながら、互いに自分
よりも相手の結果の方が気になって、岩泉の合格
に胸を撫で下ろす美月とは反対に、岩泉は未だ
に緊迫した表情のまま、ゴクリと唾を飲み込む。
及川がマウスを動かして3人で彼女の番号も確認
し、それぞれが顔を見合わせて、そこでやっと
それぞれの進路が決まり、彼らの悦ぶ声が部屋
に響いた。
「よっしゃああぁ!!!」
『これで、やっと解放されたー!!!』
「2人共、おめでとう!俺もホッとしたよ。」
緊張が解けたそれぞれが揃って畳に雪崩込み、
両手を広げて笑い合った。
それから、美月と岩泉の2人は親に連絡を取り、
明日一番に担任よりも先に、入畑や溝口に報告
を入れる事を予定に入れる。
「お前らも俺達も纏めておめでとう…だな。」
「これで、後は卒業までのんびり出来るわ。」
『みんな、決まったね。良かった良かった。』
そして翌日には、先に進路が確定した花巻や松川
にも祝福の言葉をかけられ、これでバレー部の
3年生はほぼ進路が決まった状態となっていた。
「お前ら、よくやった!」
「美月さんも岩泉さんも、合格おめでとう
ございます!」
朝練に顔を出せば、その報告を自分の事の様に
矢巾が喜び、溝口は彼らの努力を知っていた分、
涙ぐみそうになっていた。
2年の先輩達の後ろで聞いていた国見は、美月の
努力が実って喜ばなければならないのに、それは
同時に彼女が遠くに行くという事実も知らされ、
複雑な気持ちで祝福されている2人を見届ける。
同じく隣で聞いていた金田一は、国見の心配を
したが、彼はその言葉を耳にしても悔しそうな
素振りは見せずにいた。
「時間や可能性なんて、まだまだあるし。」
「お前、牧野さんが関わると途端にポジティブ
にシフトチェンジするんだな。」
2人が去った後に、国見が練習中にぽつりと呟く
言葉に金田一が反応を見せ、意思の固いチーム
メイトに苦笑いを浮かべる。
「2人共、おめでとうございます。」
嬉しそうに駆け寄って来た先輩に、国見もまた
周りと同じ言葉をかけて、目を優しく細めた。
『英もありがとう。』
「俺も、先輩達を見習わないと。」
国見と岩泉は目が合い、その目は自分も負けたく
ないと岩泉にしっかり伝わっていて、岩泉は国見
のその意思をしっかりと受け止める。
「お前のそんな部分見れるのは、面白えな。」
ニヤリと笑った岩泉に国見は笑顔で返し、2人の
やり取りを金田一は冷や汗を流し、焦る後輩を
不思議に思う美月は金田一は不調なのだろうか
と心配をしていた。
そこからは号令がかかって練習は再開され、彼ら
の邪魔にならない為にも美月達も退散をする。
進路が決まって気持ちが落ち着けば、この後の
限られた時間が惜しく感じて、それを放課後に
実感した美月は、岩泉の服の裾を無意識に掴ん
でいた。
「どうした?」
『なんか、唐突に寂しさを感じてきた。』
「お前、それ数週間前の面倒臭い及川みたいに
なってんぞ?」
「面倒臭いは余計だね!美月もやっと、俺の
気持ちを分かってくれた?」
それは、お馴染みの4人と一緒に合格を祝いに
食べに出ようとファミレスに向かった通り道。
隣で不思議そうに彼女を見る岩泉の言葉に花巻
は呆れた顔を見せ、及川は花巻に顔を顰めると
彼女に同意を求めていた。
「だとしても、もう出ねえといけねえ授業も
無えから明日からは行かねえぞ?」
「そうだな、俺も休む予定。」
『うーん、やっぱりそうなっちゃうか。
私は、どうしようかな。』
「美月が顔出すなら俺も行こうか?んでもって、
学生生活に後悔ないように学食も行っとく?」
『確かに、その後悔はしたくない…。最後に
オムライスは絶対に食べておきたい。』
「まっつんのそのさりげないエスコート、
悔しいけど尊敬する。」
ぽつりと羨む言葉を吐く及川に、松川は不敵な
笑みを見せて、コイツだけは敵に回したくない
と考える花巻は、顔を引き攣らせていた。
『学食メニューは明日悩むとして、今は期間
限定にするか…それとも定番にするか。』
「結局、美月は学校に行くんだね。」
「肉が食いてえ、肉。」
「金があったら、焼肉行くんだけどな。」
こうして、段々と話は逸れていき、彼らと他愛
もない会話が出来るのも残り僅かなのかと、
美月はふと考える。
目の前を歩くずっと自分の傍にいる事が当たり
前だった人物も、遠くに離れると実感すると
ぼんやりと彼女は及川を見つめていた。
その感情が湧く時に決まって思い出すのは、最初
に及川から告げられたあの夏の日で、寂しさを
堪えようと顔を上げる。
「お前は、またそうやって…。」
その度に美月のその仕草を見逃さない岩泉は、
彼女の気持ちを紛らわせようと、わざと彼女の
頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
「何やってんの、お前ら。」
「…何となく。」
「ちょっと、岩ちゃん!せっかくの美月のセット
が台無しじゃん!」
余計な事は考えんな、今を楽しんどけ。
小さい声でそう言った岩泉の気遣いに、美月は
何度、気持ちが救われただろう。
頼りになるもう1人の幼馴染みに、美月は感謝の
気持ちを向けて笑い、それが照れ臭い岩泉は
誤魔化すつもりで視線を逸らす。
及川と離れて寂しがる彼女を見て、切なさを抱く
岩泉とは逆に、及川もまた彼女の傍にい続ける
岩泉を羨んで、自分の立ち位置に嘆いた。
「岩ちゃんばっかり、ずるいや。」
「それは、こっちのセリフだ。」