危機感を持ちなさい
アラームが枕元でリンリンと鳴り、美月は眠気
と戦いながらも、みんなを起こしてしまう前に
ずるずると這いながら、その音を止めた。
『あれ、私って寝落ちした…?』
昨夜のアラームをセットしてからの記憶は全く
無いまま、彼女は軽く欠伸をして、まだ少し
残る睡魔と戦うように、自分の目を擦る。
『ん?ホック外れてる?』
寝ている際に胸が苦しくなって、寝ながら自ら
外してしまったのか、背中の違和感を探ったが
上手くはまらず、起きているのはきっと自分
だけだろうと寝巻きのシャツを大胆に脱いで、
緩めた下着を固定して別の服に着替えると、
そのままぐっと腕を伸ばした。
すると、どうやら松川と岩泉は既に目を覚まし
ていた様で、「おはよう」と突然の声に美月も
驚いて息が一瞬止まる。
そして、そーっと彼女が後ろを振り返ると、
2人はこちらを見れおらず、自分ではなく携帯
の画面をじっと見つめていた。
『えっ、2人とも起きてたの?!』
「安心しろ。」「何も見てねー。」
交互に重なる2人の言葉は完全なる偽りで、
本当は美月の背中はバッチリと見ていたので、
恐る恐る聞いていた彼女の質問に、僅かに彼ら
の身体は跳ねたが、穏便に収めようとして平常
の振りをする。
2人の返事に安心して、お先に失礼と美月は
立ち上がると、準備の為に部屋から彼女が出た
のを確認すると、2人は深いため息が混ざった
深呼吸をして、互いに自分を落ち着かせる為に
それぞれの枕に顔を埋めた。
『みんな朝ですよー!』
朝食の準備が整ったら、みんなを起こすべく、
カーテンをバサッと勢いよく開け美月は皆へ
日差しを浴びさせる。
「うわっ、目に染みるわ。」
『花巻、おはよう。』
「この眩しさ、全然アリだわ。」
「美月さんが今日も可愛すぎて眩しすぎる
んですけど。」
『矢巾ありがとっ。』
「矢巾さん、ホント朝からウザイ。」
「おい、止めろよ国見!」
浴びた朝日が眩しくて、まだ眠っていた者は
顔を顰め、それぞれ昨日の練習の疲れが少し
残ったまま身体を起こし、及川だけはまだ
起きる気配が無く、すやすやと眠っていた。
『徹ー、起きてー、朝だよ。』
美月が彼の体を揺すって起こそうとしてみれば、
「お願い、あと5分」と美月に甘えるように
のそのそと踞る。
『時間切れ!起きてー!』
痺れを切らした美月は岩泉を起こそうとした
時と同様、彼に乗っかり、跨り起こしてみても
彼は慣れからなのか一向に起きる気配は無かった。
矢巾はそんな2人を羨ましいと思ったのか、
自分も真似すればよかったと少し後悔をする。
「どいてろ美月…」
ジャージの袖をまくり、殺気混じりの岩泉の
気迫に美月の方が驚いてしまい、ビクッと震え、
その場を彼に譲り美月は岩泉にバトンタッチ。
『エース、お願いします。』
美月が及川の元から離れたら、容赦なく岩泉は、
及川を思い切り蹴飛ばした。
「おい、クソ及川!!!主将が起きねーと、
練習始まんねーだろーが!」
「ぐはぁっっ!!!!」
いつもの先輩達の変わらぬやり取りに、金田一
と国見は少し引いた苦笑い。
「いい加減、普通に起きれねーかな。」と同級生
達は呆れ顔を見せた。
「それじゃー行きますか。」と松川が仕切る形で
みんなが朝食を済ませ、朝の支度をそれぞれ
始めた。
朝のランニングに付き合う美月はさすがに
体力に自信があっても現役男子の足には追いつく事は出来ない。
自転車を押しながら、みんなの元へ向かって
いると、ストレッチの時から大きな欠伸をして
いる及川を美月は見逃さず彼の様子を伺う。
『徹、寝不足?』
誰のせいだと思ってるんだ!
言葉には出せずに及川は口を歪ませる。
無意識の睡眠妨害だった為理由がわからない
美月は首を傾げていた。
「本当に何も覚えてない?」
『んー、私はよく寝たしなぁ。』
『お布団が気持ちよかったからかな』とふんわり
笑って見せる男からしたら堪らない彼女の言葉
に負けてしまい、 嬉しさからの照れ隠しで、
両手が塞がっている彼女の頬をむぎゅっと指で
摘んで、広げるように伸ばす。
『いひゃいよ、とーる!』
「ふーんだ、美月のお馬鹿!」
『私が何したのよ。』
「お前ら早く来い!!!」
岩泉の怒鳴り声にわかってるって!と及川が
その熱をとばすように走り出す。
ほんのり耳が赤くなってる様子を美月は目に
したが、結局理由はわからないままだった。
ダッシュで先陣を切る及川の声に、それに皆が
付いて行き、その掛け声と共に本日もハードな
練習は始まる。
美月もペダルに足をかけ、仲間の体調チェック
をしながら、後ろを見守るようにゆっくりと
自転車を漕ぎ始めた。
「及川、何ニヤついてる。まさか…
てめークロか?」
「んなわけないじゃん!
(岩ちゃんの野生の勘、恐ろしすぎる!!)」