意識の差

部室から戻ってきた二人は、美月は着替えて
さっぱりした顔で、そして岩泉は何処か罰が
悪そうに少し頬を赤らめて戻ってきた。


『ハジメ、助かった。ありがとね』


「…お、おぅ。」


遅くなってごめんね!と急いで自分の持ち場
へと戻る美月を横目に、先程の状況を察した
花巻と松川は「おつかれ」「どんまい」と哀れみと
労いが混ざった言葉を交互に吐きながら岩泉の
肩を叩き、彼はうるせぇと口を尖らせる。


そこへ及川がやってきて、岩泉に更に追い討ち
をかける様に、岩ちゃんおかえりーと彼の肩に
手をかけて、「美月、今日何色だった?」と
からかいながら彼へ聞いてくるので、岩泉は
怒りのまま、ふんっ!と及川の顔面めがけて
肘を落とした。


顔面を抑えて、のたうち回る及川を他の二人は
自業自得だろと冷ややかな目で、もちろん
黙って見ている。


「それにしてもさ、アレはアレでやばく
ねーか?」


苦笑いを浮かべた花巻が指す方向の先には
美月の姿があり、細身の彼女にとっては、岩泉
のシャツは肩幅が合わず、大きすぎるサイズの
為、少しダボついていた。


しかも彼に借りている服は、よりにもよって
今日に限ってVネックだった為、胸元がいつも
よりも見えるスペースが大きくなっており、
その少し見えそうな隙間に、及川と松川の2人
は思わずゴクリと生唾を飲み込む。


「確かに…何か、妙にエロいよな。」


さっきの美月が濡れた状態も、彼等からすれば
大変素晴らしい光景だったのだが、彼シャツ
状態の彼女は、これはまたこれでたまらない姿
で目の保養になっている。


岩泉、ありがとうと感謝の言葉を声に出して
しまえば、確実に彼に怒られてしまうので、
二人は心の中でゴチになりますと感謝の意を
込めて、両手を合わせた。


「ちょっと、他の奴らには刺激強すぎなん
じゃない?」


美月が少しでも屈めば、その中がどうも見えて
しまいそうとゆうよりも、角度によったら隙間
から中がほぼ見えている状態だったので、その
状況に及川もちょっとアレはなーと眉間に皺が
寄っていた。


そして矢巾の鼻の下が伸びてる事に気が付き、
及川が岩泉にそれを指摘をすると、岩泉は再び
ため息を吐き、「タオルあったよな?」と彼女の
元へ向かおうとした。


「牧野さん。」


『ん、どうしたの?』


すると、岩泉が声をかけるよりも前に、国見が
彼女に声をかけており、彼女へとタオルを差し
出せば、それを彼女の首元に巻いて見える箇所
を綺麗に隠すように、タオルをシャツで挟み、
その端を中に入れ込んだ。


「それ、気になって練習に集中出来ないので、
タオルをしておいてくださいね。」


中が見えそうになっていますよと彼が注意を
して、やっと今の自分の状況を彼女は把握した
のか、首元へ視線を向ければ、ばっと焦る様に
顔を上げ、彼女の顔はみるみるうちに赤くなっ
ていった。


『ごめん、見苦しい姿見せちゃったね。』


美月は隠れた胸元のタオルをぎゅっと握り、
直ぐに国見に謝れば、彼は大丈夫ですと彼女に
にっこりと笑顔を向け、それに加えて「ごちそう
さまでした。」と挨拶をすると、顔色を変える
こと無くその場から去って行く。


彼女は恥ずかしさから手で赤くなった頬を押さ
え、去った国見を固まったまましばらく見つめ
ていた。


「珍しく、岩泉が先越されたな。」


「岩ちゃんには恥ずかしがらないのに、
国見ちゃんには顔真っ赤じゃん。」 


「後輩に完敗だな。」


一連の流れを見ていた彼らは、それぞれが岩泉
を冷やかし、冷やかされた相手はうるせぇ、
練習すっぞ!と及川に当たる様にタオルを
ぶん投げた。


『国見これもしかして、わざわざ自分のタオル
を貸してくれたの?』


「あ、はい。俺のです。別に洗わずにそのまま
返してくれたら、全然大丈夫なので。」


『ごめんね、ありがとう。助かったよ。』


「…洗わずだと?」


美月は申し訳なさそうにお礼を言っていたが、
花巻と及川は彼の行動が妙に何か引っかかり、
二人の会話を何気なく聞いていると、国見の
言葉に花巻の耳がピクリと動き、及川とこれは
と顔を見合わせる。


国見英、確信犯!


鋭く厳しい先輩達は、後輩の抜けがけ行為を
絶対に見逃すわけがなく、及川と花巻が別の
タオルを持ってすぐにその場に駆けつける。


松川は、お前らのその反射神経に尊敬するわと、
呆れたように、仕事の早い二人をただ見ている
のだった。


「国見ちゃん逮捕ー!はい、マッキーは
タオル交換して!」


「よっしゃ、任せろ。」


「ちょっと花巻さん、なんでそれで頭を拭くん
ですか!?」


「あ?洗って返さなくていいんだろ?」


「…お前ら小学生かよ。」





top