君達との差
合宿最終日はIHのパンフレットの準備で、
美月にとってはその日は忙しいスケジュール
となっていた。
朝の支度をして、朝食の準備をして、ロード
ワーク後に保健室の鍵を借りると今度は体育館
へと急いで走る。
『準備できたからみんな順番に来て!
まずは1年生から測るからねー。』
「美月、バテるから歩きなよー!」
『時間が無いのっ!』
みんなを呼び出せば、その合間に持ってきた
ドリンクとビブスを置き、及川の方を向く間も
なくノートと筆記用具を片手に今度は保健室
めがけて走り出した。
彼女が到着してしばらくしてからガラッと扉が
開くと最初に顔を出したのは、背番号を貰った
1年生の金田一と国見。
「よろしくお願いします。」
『はーい。』
じっとしてねーっと彼女が言いながら背伸びを
して、美月と少しだけぶつかる。
金田一は彼女との近い距離を恥ずかしそうに、
国見は少し嬉しそうに彼女に測ってもらう。
『2人ともほんと大きくなってるー!』
自分と目線が変わらなかったはずの中学の時の
2人の背丈を思い出しながら、美月が後輩
の成長をしみじみと噛み締めて2人それぞれの
情報をノートへと記録していた。
気がつけば見下ろすようになってしまっていた
彼女を横目に、国見がそういえばとふと頭に
浮かんだ疑問を彼女へと口出した。
「牧野さんて身長何センチなんです?」
『んー、何センチだったかなぁ。』
以前、美月を上級生の女子達と歩く姿を
見かけ、ここでは紛れる為、彼も何も不思議に
は思わなかったが、その時の美月は一際
目立っていたので彼は気になってしまう。
クラスの背の順でも後ろの方なので、それは、彼女の中では決して可愛くない背丈であったの
で悲しくなって、美月は話を誤魔化そう
としていた。
「せっかくだから牧野さんも測り
ましょうよ!」
その時、その場に一緒にいた金田一も彼女の
身長が気になっていたのか、国見の話に乗るように彼女を身長計へと誘導をする。
2人に気になります!と言われると、さすがに
彼女も断ることは出来ないので、彼らに言わ
れるがままに身長計に立てば、それじゃあと
国見が彼女の背を測った。
「えっと、168センチ。」
『嘘でしょ、1cm伸びてる。』
あと2cmでなんと彼女の身長は170cm。
バレー現役なら役に立つだろうが、今はただの
女子高生でありたい彼女は、全然喜ぶことが
出来ない。
寧ろ、こんな事実を知るくらいなら1cmくらい
サバを読み上手く誤魔化しておけばよかったと
彼女は落ち込み、金田一がそれを見て慌てた
様子で謝った。
「牧野さん、なんかすんません。」
『謝らないで金田一、逆に傷付く。』
美月はショックで靴を履き直して思わずフラッ
とよろければ、国見がすかさず転ばない様に
彼女を支える。
「全然気にしなくていいのに。」
そう呟く彼は美月の背後から抱きついて、
体制を持ち直した彼女の頭にちょこんと顎を
乗せた。
「牧野さんは俺にはベストな身長差。」
「だから大丈夫です」と彼女を励ます不意打ちの
可愛い後輩の行動に彼女の胸がキュンと鳴り
そうになると、矢巾が「はーい、次俺たちだ
よな!」と国見を狙って邪魔する様に乱入し、
そこまでねーと引き剥がされ彼は聞こえない
程度の舌打ちをした。
金田一も最近の彼の積極的な行動に冷や汗を
流しながら、先輩を刺激しないようにと練習
行くぞ!と彼の首根っこを引っ張りその場を
後にした。
「牧野さんは、俺達から見たら
全然ちっさくて可愛いんですからね!」
「可愛すぎて変なやつ寄ってこないか、
いつも心配になりますもん!」
『矢巾も渡も優しいね。』
3人の会話が聞こえていた矢巾も渡も必死に
なって彼女を本音混ざりのフォローをして
両手を振った。
彼女はその可愛い後輩達の優しさを お世辞でもありがたいと笑いながら受け止める。
『ほんとだ。ここにいたら、
私も小さく見えるのかも。』
ちょっと元気が出たと喜びながら、渡も矢巾も
身長伸びてるよーとノートに書き込めば2人も
自分達の身長と立ち直る彼女を確認し、嬉し
そうにガッツポーズをした。
「よっ!成長だね、青少年。」
目をキラキラさせる後輩たちの言葉に癒されて
いたのに、突然入ってきた初々しさの無い言葉
に肩を落とせば、そこにはおなじみの3年生。
可愛かった後輩たちへのときめきを今すぐ返し
て欲しいと思いながら、じっとりと美月は
冷たい目で彼等を見た。
「いやいや、美月ちゃん。あからさま
にガッカリしすぎ。」
『そんなことないですよ。お時間無いので
さっさと測りましょうか。』
「扱いが雑だな。」
「俺達は戻りますね。」
渡と矢巾が保健室から出ると、『まずは徹
から』と及川の手を引き、冷たくあしらって
も測る時はきっちり丁寧な彼女。
背伸びをしながら、見上げる彼女の仕草に
後輩同様、少し胸がキュンと鳴らせながら
及川、松川、花巻、岩泉の順番に測った。
「よっしゃ、伸びてる!」
「美月はもう俺達の傍離れれねーな。」
『むっ、何も言えません。』
てか、何で知ってるの?と彼女が首を傾げると
松川曰く金田一が美月を落ち込ませたことを
気にしていた模様。
「美月は身長関係なく可愛いんだから
もっと自信持てばいいの!」
「ぐおおぉ!あと1cm…いや、7mm!」
及川の言葉を遮ってどうしようも無い現実に
悲鳴をあげる男がそこには一人。
美月の悩みなんて岩泉の耳には全く入って
いない様子だった。
自分の頭を豪快にガシガシかきながら、悔し
がる岩泉を松川がドンマイと肩を叩いたら
イラついた態度でその手をうるせえ!と
払い除ける。
「まっつんが言ったら小っさい岩ちゃんの
イヤミになるだけじゃん!」
「お前のそれも充分なイヤミじゃねーか!」
『いやいや、ハジメだって充分高いから。』
1cmの伸びしろで落ち込んでいる岩泉を見て、
その身長を分けてやりたいと美月は
幼なじみとの似たり寄ったりの悩みが少し
滑稽に見えてくる。
仕方ないと自分の悩みは棚に置いといて、
全ての情報を書き加えたらノートをパタン
と閉じ、岩泉の元へ近づいたら自分へ向かい
合わせて体を寄せた。
『ほら、こんだけ見下ろせたら満足!
私が168センチで他の女の子なんて
私より小さい子ばっかりなんだから。』
彼の腕を自分で腰元に持っていけば、ほら、
問題ないでしょ!と次の用事を早く済ませたい
のかそのままくるっと向きを変えたら体育館
まで手を引っ張る。
『最高到達点、期待してるから!』
岩泉は突然の彼女との近い距離と彼女の腰元に ある手の感覚で一気に頭が茹だったのだが、
彼女に突っ込む間もなく、「おぅ。」と小さく
返事をすれば、美月のされるがままに
手を引かれた。
「美月、絶対自分に言い聞かせた
でしょ。そこも可愛すぎ。」
「俺達からしたらあの身長差が安定なんだけど。」