自由なのも困りもの
練習合宿が終わり、その翌日は身体を休める為
練習はオフになった。
美月もさすがに疲れたのか、ゴロゴロと今日
は部屋で寛ぐように横になり転がっている。
それはきっときっちりした姿しか知らない、
普段の顔なじみがそれを目にすれば、絶対に
驚く光景だった。
「で、何で俺の家なわけ?」
『だって畳が落ち着くんだもん。』
『嫌だった?』と聞けば「嫌じゃない。」と及川
から首を横に振りながら返事が返ってくる。
美月が我が家のようにのんびりとする場所は
なんと及川の部屋。
自分の家はフローリングだから硬い床で長時間
転がってはいられないという単純な理由で只今、
彼女は幼なじみの家で横になっていたのだった。
「美月とデートでも良かったんだけど。」
『ごめん、今日は。とゆうか徹とはさすがに
周りの目が…。』
「知ってる。」
そう言う及川も文句言いながらも彼女が遊びに
来るのは満更でもなく、寧ろ内心は2人だけの
空間を喜んでおり、転がる彼女に慣れたように
自分は座椅子に座ってパソコンを眺めていた。
美月は左へゴロン、右へゴロンと転がれば
やる事がなくなったのか、本棚で何か無いか
漁るように探していたら、奥から何か見えた所
で「そこはダメ」と及川に止められる。
及川に渡された月バリを素直に彼女は受取り、
ペラペラと捲りながらうつ伏せで読むと、
それは読み終わって及川の方を見れば、試合
のDVDを見ているのか、パソコン画面に集中
していた。
暇を持て余す彼女は少しだけ魔が差して、背後
から及川に気が付かれない様に彼のうなじを
狙って、人差し指でそーっとなぞるように
触れてみた。
「んぎゃっ。ちょっと美月!」
『何、今の声!』
彼の反応が面白かった美月はケラケラと
お腹を抱えて笑い、及川は「もーっ!」と少し
怒りながら、触れられた部分を押えて顔を
顰めて美月を見た。
「それ、他の奴にはやらないでよ。」
『え、ダメ?』
ショートパンツとTシャツを着た彼女は膝を
曲げたら脚が大胆に見え、それは及川にとって
十分に刺激的な姿なのだが、美月はそれを
気にしていない様子で笑い転げていた。
及川は無防備な格好でここに来る彼女に、異性
扱いしてくれない悔しさの両方の意味合いを
込めて、「美月の馬鹿」と目を反らしながら
呟いたが、そんな彼の気持ちなんて構う事なく、
美月は再び彼の布団へ這ってゴロンと転がる。
「あ、また勝手に人の布団に。」
『ごめん、ついここが気持ちよくて。』
Tシャツが少し捲れている事に美月は
気にも
止めず、んー!っと彼女は気持ちよさそうに
背筋を伸ばした。
そして、ちょいちょい手を振りながら、未だに
膝を抱えて座っている及川を彼女は招く。
『徹も一緒にお昼寝する?』
「〜〜っ、もう!!」
おいでーっと目を細めて両手を広げる彼女には
決してやましい気持ちは無く、ただこの心地
良さを彼と分かち合おうとお誘いしているだけ
なのであって、それ以上の発展は残念ながら
無い。
及川からしたら目の前でご馳走をチラつかされ
ている状態で、未だに小学生の時の感覚のまま
から成長しない彼女へもどかしい気持ちが、
彼の心を乱した。
しかも休みが明ければ他の目もあるので、再び
さっぱりとした関係に戻る為、この距離感も
今だけしか味わえなくて。
及川は座椅子から立ち上がりずかずかと美月の
元へ向かうと、彼女の横に沿う様に寝そべり、
「誘ってんの?」と彼女の顎をクイッと持って
彼女に顔を近づけて詰め寄る。
『どうしたの、徹?』
「美月、これ他の奴だと襲われるよ?」
『徹は私なんかにそんな事しないから。』
今日はほんと気持ちいい気候だねーと呑気な
事を言う彼女は体をずらして、自然と自分の
頭を及川の胸元に沿うようにピトッと寄せる
どころか、彼の逞しい胸に顔を埋めて、手も
彼の胸に触れようとする。
それはかつての彼女が寝ぼけて布団へ潜り
込んできた時の感触と重なるものが。
人の気も知らないで。
「美月、俺だって…」
我慢出来ない!と心の中で叫び、触れた彼女の
手首を押さえながら跨ると、Tシャツの中へと
手を伸ばそうとしながら、彼女の唇に触れる
すれすれの所でタイミング良く足音が聞こえて
きた為、及川の動きはそこまでで止まる。
「暑ちー!」
「ホントに5月かよ!」と手で団扇のように仰ぎ
ながら、岩泉がアイス片手に部屋へ入って
来れば、及川の反射神経はもちろん素早く、
彼が部屋に入る頃には美月から離れて彼の
横に立ち上がっていた。
「あ?何でそんなとこで突っ立ってる?」
美月にアイスを渡しながらそう尋ねる岩泉の
肩を及川は震えながら両手でガシッと捕まえ、
この男のタイミングの良さを今日ばかりは
及川は彼に感謝をする。
「岩ちゃん、ホント来てくれてありがと。」
「お前に感謝される事程、気持ち悪いものは
ないな。」
「酷いっ!!!」
『2人ともアイス食べないの?』
アイスを取り出す美月の姿を岩泉が目に
すれば、その目の先は下がって足元に。
すると、彼はすぐに床に転がっていたタオル
ケット手に取り、バサッと黙って彼女の足を
隠すように投げるようにかけた。
「女が足を冷やすな!」
と母親じみた一言で岩泉が彼女を一括すると、
『あっ…はい。』と彼女も彼に従い、岩泉の
さり気ない行動を見た及川は、嗚呼、正解は
それだよね。と心の中でいつも通りのため息
を吐くのだった。