勉強疲れはご用心

『花巻、お願い。言葉でどう表せば
良いか、ちょっと分からないんだけど。』


練習も終わりかけ、ボールに空気を入れ、綺麗
に磨き終えた美月は、たまたまその場にいた
花巻を呼び止めて、恥ずかしそうにもじもじと
しながらそう言うと、一つだけボールを取り
ぎゅっとそれを抱きしめていた。


『なんか、ムラムラして落ち着かなくて、
一発お願いしてもいい?』


「…わかった。とりあえず人気のない所へ
ちょっと移動するか。」


彼女の突然の発言に花巻は一瞬だけ固まるも、
目を潤ませた困り顔でお願いされて断る男
なんておらず、彼は二つ返事で了承し、彼女の
肩に手を回してどこかに移動しようとする。


「待て、待て、待て!!!」


「何を勘違いしてやがる!」


彼の行動を止めるように、一斉に花巻目掛けて
松川と岩泉が手に持っていたボールを思い切り
打ち込めば、容赦ないその衝撃に彼は痛みで
悲鳴を上げたのだった。


「お前らマジで痛てーよ!つーか美月に
当たったらどーする!?」


「安心しろ、絶対お前にしか当てねー。」


「今のは美月も悪い!」


紛らわしい言い方をしないの!と及川が彼女の
頭を軽くチョップすると、及川に叩かれた所を
さすりながら『だって。』と彼女も言い返す。


『他校の試合映像見すぎて、ちょっとばかり
体を動かしたくなってしまいまして。』


「あー、わかる。テレビで試合見てると
やりたくなる奴な。」


「だから、体を動かすんだろ?
美月に頼まれたらそりゃ突き合うしか
ねーじゃん。」


「花巻は少し黙ろうか。」


調子に乗る花巻に少しのイラつきを見せた松川
が背後から花巻を羽交い締めにし、花巻は彼の
腕を「ギブ!ギブ!」と助けを求める様に叩いた。


「最近、強豪校の勉強頑張ってるもんな。
休憩時間に暇さえあれば机に齧り付いて
ずっと本とノートの睨めっこ。」


『IHの試合相手発表あったし予選終わったら
すぐだからね。』


岩泉の言葉に及川は自分達の為に夜な夜な映像
や本などあらゆる情報を探してデータを取る
美月の姿をがすぐに目に浮かび、そこまで
してくれているのかと感動し、彼の胸はきゅん
と締め付けられる。

そして彼女の耳が自分の声を捉えないように
しっかりと抑えて、花巻を睨んだ。


「ちょっと、マッキー。美月は純粋なん
だから、変な方向に持ってくの止めなさい!」


「いや、あの言い回しは誰だって勘違い
するだろ。」


「美月はセッ●スだってした事無いんだから、
そんな事を言い出す訳が無いでしょ!」


「お前こそストレートに言うなクソ川。」


「美月の貞操事情に詳しい及川もなかなか
に気色悪いな。」



『え、私初めてじゃないよ?』


4人が興奮したようにああだこうだと話をする
が、耳が塞がれている美月からは完全に音を
シャットアウト出来るわけではないので、及川
に塞がれた耳を手で外しながら、微かに彼女が
とらえた言葉に答えると、周りがそのショック
で石化した。


『…1回きりだったけど。』


「待って、俺知らない。」


「俺だって聞いてねーぞ!?」


『だって徹もハジメも絶対に機嫌が悪くなる
から言うわけがないじゃん。』


「そうだけどー!」と及川が嘆き混ざりで言い
ながら、ただでさえ落ち込んで泣いてしまい
たい出来事なのだが、知りたくないが1回きり
の彼女の相手は誰なのか気になって、もどか
しい気持ちに及川は頭を掻き毟る。



「もー、怒らないから教えて!」


「美月は美月だ!」と他の3人も及川
同様に激しく頷き、無理やりに笑顔を作って
彼女を安心させ、その相手を及川は勇気を出し
て恐る恐る美月に尋ねた。

本心はあわよくば、その相手を殴ってやろうと
そこに皆が意気込んでいる模様。


『誰って、牛島君。』


う、し、じ、ま、く、ん?


美月が知っている牛島という人物はたった
一人の人物しかいない。


白鳥沢の…


一瞬、みんな笑顔のまま沈黙が走るが、その顔
はすぐさまに崩れ、地響きが起きそうなレベル
の音量で「はああぁ!?」と叫ぶと共にそのまま
皆が崩れ落ちる。

ちなみにそれを聞いた岩泉は立ったまま気絶。
美月は終わった事だからと及川の背中を
宥めるように撫でていた。


『あー怒るよね、やっぱり。』


「怒るも何もいつの間に。」


『高1だったかな…?曖昧なんだけど、
その頃の運動公園で会った時に。』


「そこは曖昧にしないで、美月ちゃん!」


「まさかのウシワカ、家とかじゃなく
外でしちゃったわけ!?」


花巻と及川が肩を掴んで必死になって言うので
美月はそんなに大事なこと?と首を傾げた。


「はぁっ!?正気かよ!!
場所ぐらい、慣れてねーのに
ちゃんとした所じゃねーとダメだろ。」


美月の事、なんだと思ってるんだよ!と
怒ってぎゃーぎゃー賑やかに騒ぎ出すので、
そこまで言われねばならない事なのかと美月は
怪訝な顔で4人を見つめた。


その場を冷静に傍観していた国見は彼女の
言いたかった事をすぐに把握し、彼女の肩を
掴んで、「牧野さん、俺が付き合います。」と
彼女を彼らから美月を遠ざける様に彼女の
背中を押して、別のコートへ誘導した。


『私が1回セッターしただけで、そんな
変な目で見なくてもいいのにね。』


「ですよねー。でも、岩泉さんとか
じゃないのはちょっと意外ですね。」


『3人でする時は徹がいたからね。』


美月も牛島もランニング中にたまたま鉢合わ
せした所をバレーの試合をしていたグループに
声をかけられ、2人で助っ人参加をしただけだ
と彼女は言う。


彼女へトスをしながら、話を聞いた国見は
気持ちよさそうにスパイクを決め美月を
見ながら、牛島の決める姿に見蕩れる美月を
想像したらそんな事はいつ起こってもおかしく
は無いのかと思うと、彼からはため息が出た。


「なるほどね。そういえば、牧野さん。
さっきの言葉はムラムラじゃなくて
そわそわじゃないですか?」


『えっ?あっ、そっか!やだ、私変態みたい
じゃん。簡単な日本が頭に浮かばない自分に
ものすごく幻滅した。』


「ふふっ。可愛いから大丈夫です。
でも言い間違いが今日多いですよ。
お疲れの様なので、帰ったら絶対に
俺達の為にもしっかり休んでください。」


『…はい、わかりました。』


周りのリアクションがあまりにも面白く、国見
は魔が差して、しばらくこの事を黙っておこう
と思っていたのだが、翌日あまりにも皆の不調
が酷いので、その日はすぐ彼らにネタばらしを
した。


「え…あ!そうゆうこと!!」


「おかしいと思った…寿命が縮んだ。」


「岩泉が今日飯を全然食わねーから
俺はそれにもビビったわ。」


「まぁ、よくよく考えたらありえねーよな。」







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