愛をこめてあなたに
部室へ珍しく皆が同じ時間に、しかもいつも
より早い時間にレギュラーメンバーが到着し、
練習まで少し時間があるという事で及川の提案
で美月を呼び出して、彼が前から気になって
いたと言うとあるゲームをする事となった。
「美月遅いねー、せっかく面白いゲームを
見つけたってのに。」
「ルール確認で俺達だけでやるか?」
椅子に座った及川は美月を待ちきれずに
そわそわとしているので、花巻がそう言うと
「野郎だけはちょっと」と苦笑いを見せるので、
彼らも確かにと同じく苦笑いを浮かべる。
「まぁ、練習ってことでいいんでない?」
「確かに、いきなり牧野さんに言うのは
すごく恥ずいかもしれない。」
「じゃあ、俺もルールちゃんと分かって無いんで
ちょっと練習したいっス!」
顔に手を当てる矢巾と手を挙げた金田一がそう
言うと、じゃあ来る前に1回やる?と及川が
ルールを説明した。
すると、矢巾が金田一を真っ直ぐ見ながら、
ゆっくりと彼に向けて口を開く。
「愛してる。」
『…えっとー、お取り込み中だった?』
矢巾が告白をしている所で美月は謝りながら
静かに部室に入ってきてひょっこりと顔を
出し、困った様に頭を掻きながら二人を見た。
すると、矢巾が半泣きで違うんです!と彼女に
弁解してこの事情を必死に話した。
『愛してるよゲーム?』
「そうそう!」
愛してるよゲームとは「愛してるよ」と交互に
言い合うだけの今話題のゲーム。
ルールはとても簡単で相手に言われて照れた
り、笑ってしまったりした方が負けとなる。
「言われた側は、そのまま相手に愛してると
言ってもいいし、言った言葉を別の言葉に
言い返してもOKらしい。」
「とりあえず、照れさせたら負け。」
『うんうん、ルールはわかった。』
矢巾の説明の後に松川と花巻が付け足し、多く
勝った奴がアイス奢ってもらえるぞと岩泉に
言われ、美月の耳がぴくりと動いたら、
『もうゲーム始まってる?』と目を輝かせて
彼らに聞いた。
「まだだよー、美月が来たらやろうと
思ってたからさ。」
『順番とかあったりする?』
「特には決めてないよ。」
及川に美月も練習する?と言われて、じゃあと
近くにいた矢巾に声をかけて、彼の両腕を掴む
と、ロッカーまで彼を追いやるように押して、
バンッと彼女は音を立てながら彼を抑え込めば、
ロッカーの扉へ両手で矢巾を挟み、逃がさない
ように塞いだ。
『矢巾、愛してる。』
突然女子に、ましてや美月に壁ドンなんて
もちろんされた事なんてない矢巾は、彼女に
見上げられているにも関わらず、凛々しい顔で
見つめられているからか、それに耐える事が
出来なくなり、両手で顔を隠すように覆う。
「美月さん、抱いてください。」
矢巾のその言葉は周りの音に掻き消されそうな
小さな弱った声で、腰が抜けて立てなくなった
のか、へなへなと座り込んでしまった。
「矢巾さん、再起不能。」
「矢巾チャンが女子になってるし。」
「お前の男前モード、本当にこえーよ。」
「久しぶりに見たな、逞しい美月。」
違うの?彼女がケロッとした顔で振り向くと、
違わないけどと彼らは言葉を濁らせる。
「アイスが美月を本気にさせたか。」
岩泉がこの次どーするんだと聞けば、周りが
唸っているとそれじゃ俺がと手を上げるので、
今度は松川が美月をロッカーを背にさせ
彼女に逃げ場がない様に覆い被さった。
「愛してる。」
『うん松川、もう1回』
「美月、愛してる。」
彼女も恥じることはなく松川の首に「もう1回」
と彼の首に手を回し始める。
「2人が色っぽすぎて、俺無理です。」
「確かに、渡っちにこれは刺激が強すぎる。」
美月も松川もお互い譲らず、彼女が「一静、
もう1回」と耳元で言えば松川も彼女の囁きに
スイッチが入ってしまい、「美月、愛してる」
と続けながら、片方は腰元にそしてもう片方は
太腿に手を這わせて持ち上げるように撫で回す。
それは許さないと判断した及川が彼らの間に
入り、「まっつんそれはアウト!」とすぐに
その先の行為は止められた。
「あーあ、いいところで。」
「いーわけねーだろ!」
『危ない危ない、負けるとこだった。』
「美月、アイスの為にやりすぎ。
あと、みんなが目のやり場に困るから激しい
タッチは無しにしよう!」
皆がこれにあやかって好き放題する前に及川が
釘を刺し、俺が見本を見せるから交代!と及川
が今度は美月と向かい合って、彼女へ
「愛してるよ、美月。」と爽やかな笑顔で彼女
にそう言った。
『徹、私の方が愛してるよ!』
「〜〜〜っ!!」
爽やかさを倍返しするかの如く、笑顔の彼女と
普段は聞けない言葉に及川は即ノックダウン。
ガッツポーズをする美月を見て、容赦ねーな
と花巻は苦笑いを見せた。
「手本見せると言ったヤツがすぐにへばってん
じゃねーよ!!」
「だって今の美月、めちゃくちゃ
可愛いかったんだもん!」
矢巾同様、顔を隠すように覆うと、しゃがみ
こんで「俺も無理ー!」と嘆き、それを見た岩泉
は、仕方ねぇなと美月と真正面に向き合った。
すると美月の方から愛してると彼に
先手を打った。
「美月、俺も愛してる。」
『ハジメ、いつもかっこいいエースで
居てくれてありがとう、大好きだよ。』
「これは駄目だ、確かに耐えれねー!」
言う側でなく聞く側にも回ってしまうだけでは
なく、彼女の嬉しい褒め言葉付きに岩泉も耐え
きれず、悔しくも彼女の二言目でギブアップ。
及川が「だから言ったべー!」と彼に向かって
文句をいえば、うるせえと2人揃って全く同じ
体勢で、仲良くしゃがみこんだ。
「じゃあ、俺?」
岩泉もあんな照れさせ方するのに恐ろしいと
花巻は顔を少しだけ引き攣らせるも彼女を
目の前にしたら、 顔が緩み、やっぱり楽しい
と笑っていた。
「美月、愛してる。」
『貴大、もう1回。』
「いつも可愛い美月が好きだ。」
『私はレシーブの取った時の貴大が、
すっごく輝いてて1番大好きだよ。』
1番という言葉が彼に効いてしまい、口元を
ぎゅっと固く締めて臨んでいたが、だんだんと
緩んでぶはっと吹き出してしまった。
「お前、最高すぎて適うヤツがいねー気が
する。」
そう言って花巻が自分の頭をぐしゃぐしゃと
撫でていると、俺たちまだですと残った国見と
金田一が手を上げる。
「俺、最後はやりずれーから先にさせて
もらってもいいか?」
「うん、別に俺は何でもいいよ。」
美月さんと金田一に呼ばれ、彼は緊張しな
がらも真っ直ぐな目で、彼女の目をじっと
見つめた。
「美月さん、あっ、愛してます。」
『あ…うん。』
さっきまで平気な顔をしていた彼女だが、再び
金田一と目を合わせた途端、みるみる顔が赤く
なっていき、私ダメかも!と手で顔を覆って、
しゃがみ込んだ。
「えぇ、まさかの金田一!!?」
『金田一の目が時々泳いでるから、一生懸命
なのが伝わっきて。そしたら、こっちもなんか
恥ずかしくなってきた。』
金田一も彼女の予想外の反応にどうしたらいい
のか分からず、オロオロとしていると、国見は 俺もやりたかったのにと悪態をつく。
「あー、俺達にはもう無い金田一の純粋なとこ
が勝った感じな。」
「緊張するやつの緊張が移ったパターンか。」
まさかの人物が彼女に勝ってしまい、周りは
呆気に取られ、そして練習が始まるチャイムが
鳴るのと共に練習開始。
途中から美月を照れさせるゲームに趣旨が
変わるも、勝ち続けた美月はアイスを無事に
奢ってもらう事が出来た。
『溝口さん、愛してます。』
「おぅ、…え!?はあ!!?」
「美月、ちゃんとルール言って!
そのままだとコーチが捕まっちゃう。」