独り占め

昼休憩の合図の鐘が鳴り、弁当を食べ終えたが
まだ食べ盛り故、まだ物足りない。
何か買うのは面倒くさいと、花巻がこの後の
予定をどうしようかちょうど悩んでいた頃。


突然、珍しい人間がひょっこりと教室から顔を
出して、キョロキョロと辺りを見回しながら、
誰かを探していた。


「牧野じゃん、何してんだ?」


彼女はか弱い女子を助け出してしまうくらい
男前な性格をしてはいるが、傍から見たら
レベルはかなり上で本人無自覚モテる
モデル系女子。


部活中とはまた違った雰囲気で、ふんわりと
した長い髪が揺れ、彼女の姿に気がついた
花巻のクラスメイトの男子達も彼女へ声を
かけるかどうするか悩む声が聞こえて来て、
もちろん辺りは少しざわっと騒ぎ出した。


花巻はそんな事はさせるかよと、すぐに椅子
から立ち上がり、彼等を阻止しようとする。
このクラスに知り合いなんて誰かいただろうか
と考えながら、野郎達を威嚇しつつ彼女に
顔を出してみた。


『あっ、花巻いた!』


彼女は自分の探していた人物を見つける
事ができ、少し緊張した顔が花巻を見ると、
ぱぁっと花が咲いた様に嬉しそう笑っていた。
それは子犬みたいな表情で、花巻はなんて顔
しやがるんだと思わず口元が緩みそうになる。


「お前がうちのクラス来るなんて珍しいな。」


『花巻さんに用事がありまして。
ご飯はもう食べましたかね?』


彼女の質問に花巻が首を縦に降ると、
このあと用事ないよね?と続けて彼女に
聞かたのでそれも彼は否定する。


『じゃあこっち来て!』


「お?…おぉ。」


花巻は美月にぐいっと手を引かれて、
彼も突然の彼女のお誘いに目を丸くして
驚くが、羨ましそうに見るクラスメイトを
横目に見れば、少し優越感を感じて、
鼻高々にその場を後にした。


美月が鼻歌を歌って片手に何か
袋を持ちながら連れていかれた場所は、
誰もいない、貸切状態の屋上だった。


もしかして、これは告白なのか!?と
彼女に期待をしたのは一瞬だけで、
岩泉の前で堂々と脱いでしまっていた
女なのでさすがにそれは絶対に無いと
一旦自分を落ち着かせる。


そんな花巻の気持ちも知らずに、美月は
ここに座ろっかと先にちょこんと座って
ポンポン地面を叩くので、花巻も彼女に
合わせて並んで座った。


『花巻見て、じゃじゃーん!』


そして、彼女は手元に持っていた袋から
嬉しそうに何かを取りだし、花巻もそれ
を目にすればすぐに目を輝かせた。


「おっ、シュークリームじゃん!
どうしたんだ。それ。」


『2人で食べようと思って。ハジメに
捕っちゃう前に花巻の所へ来てみた。』


花巻、シュークリーム大好きだよね?と
にっこり笑いながら花巻にそう言った
美月は、2個しかないから皆には内緒
ね!としーっと人差し指を口元に立てて、
いたずらをする子供の様に歯を見せる。


そんな可愛い仕草に花巻はたまらなく
なって、思わず口元を抑えた。


「牧野が作ったの?!」


花巻の問いには『違う。』と速攻で彼女は
否定をするので、彼はガクッと肩を落とした
が、貰えるだけありがたいとそれを受け取る。


『この前の水被った時に助けた女の子がね、
差し入れにくれたの。』


顔を赤くしたその女子からありがとうと
スマートに受けとる男前な美月を思い
浮かべるのは花巻には安易な事だった。


「あー、なるほどな。ってかさ、
岩泉とか及川にはあげなくてよかったわけ?」


せっかくの二人きりの時間なのに美月の
傍にいつもいる2人の名前をつい出して
しまい、こんな時でも2人を意識して
しまっている自分に花巻は少し情けなく
感じながらも、そんな彼の気持ちなんて
知らない彼女はなんでその二人?と
首を傾げた。


『ハジメは味わって食べないから
勿体ないし、及川は女の子からいつも
いっぱ貰ってるからいらないと思う。
シュークリームは花巻と一緒に食べる方が
絶対に美味しいもん。』


私は花巻と食べたかったんだよーっと
シュークリームを嬉しそうに頬張る
彼女がただただ可愛くて、そして愛しくて、
自分が良かったと言われるとは思わなかった
その嬉しさと照れ臭さから彼女から
顔を見られまいと反対方向へ背けた。


花巻もシュークリームを一口齧って、
再び彼女の方向へと目線を向けると
美味しそうにそれを食べている普段の
逞しい姿とのギャップに、花巻は彼女
を見て目を細めた。


「美月、髪の毛にクリームついてる。」


ふわっと風になびく彼女の髪の毛を捉え、
片方は頬を包むように手を添えてもう片方
の指でクリームを拭えば、それをペロッと
舐め取ると彼の思わぬ行動に彼女の頬は
赤く染まっていた。


『花巻、それ女の子が勘違いする奴だから
好きな子以外に絶対やっちゃダメだからね。』


目を少し潤ませながらそう言った彼女の
言葉にお前が言うかと花巻は呆れるが、
名前呼びはずるいと恥ずかしそうに髪を
かきあげる彼女の姿を見ると、胸の奥が
くすぐらた。


美月は勘違いしてくれたのだろうか


あ、やば。欲しいかも。


まさかの自分の時にそんな表情を見せる
のは予想外で「照れんなって。」と彼女の
腰元に触れて自分の元へぐいっと体が
彼女を勝手に引き寄せていた。


出来ることなら、このまま時間が止まって
しまえばいいのにと花巻は強く願いながら、
自分の気持ちはそのまま彼女に知られない
ように自分の心の中閉じ込める。


きゃっと肩が跳ねながらも自分に笑顔を
向けくれる彼女を愛おしいと感じながら、
花巻は彼女肩に頭を乗せて、今だけの
独り占め出来ている幸せを噛み締めながら
しっかりとその時間を堪能した。


屋上の扉から他のメンバーがひっそりこっそり
隠れながら2人の様子を伺っている事は彼は
まだ知らずに。


「くそー、マッキーの野郎…
ちゃっかり美月の腰に手を回してやがる」


「傍から見たらお似合いカップル
…てとこです?」


「は?どこが金田一。全然だし!
俺の方が絶対お似合いだし?」


「相手が花巻さんなのも納得いかないし、
及川さんだとしても腹立たしいですね。」


「国見ちゃん!俺ら先輩!!!」


「岩泉、よくここって分かったな。
お前のレーダーすげーよ。」


「問答無用だ…行くぞ。」


「あとこの空気の中入れるお前のメンタルな。」




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