いつも通り

他校との練習試合も好調に済み、いよいよ
インターハイ予選前日。

練習をいつもより早めに切り上げて、監督と
コーチの元へ皆が集合すれば明日の集合場所、
待ち時間など色々説明を聞くのは試合前の
いつも通りの一通りの流れ。


入畑監督にマネージャーからも激励をと言われ、
周りの視線が自分に向くと普段は堂々として
いる美月だが、この時ばかりは緊張をして
しまい、『いつも通りで頑張ろうね』と照れ
臭そう に小さく手を振ると、控えめな声で
ふんわりと笑った。


多数の部員の心はそんな彼女の仕草に
もちろんバッチリ射抜かれていた。


「美月の一言で及川の挨拶かすむな。」


「止めてよ、岩ちゃん!
自分が一番実感してるんだから。」


解散後、今回はシード枠にいる為、少し部員
からも心に余裕がある筈なのに、一人の男は
ピリピリとした空気で美月の前で腕を
組んでいた。



「いい?他校の男子に声かけられても絶対に
無視すること!」



『えー、無茶言わないでよ。知り合いは
流石に無視出来ない。』


明日の予定をあれこれ2人で話していれば、
そういえば言い忘れてたと、突然及川が言い
出した発言に美月の眉間に皺が寄る。


花巻と松川が2人の会話を横から耳にして、
「束縛はほどほどにな。」
「嫉妬は見にくいぞ、徹。」
と好き勝手に野次を飛すので、「うるさい!
お前らの代わりに代表して俺が言ってるだけ
でしょーよ!」と2人に目くじらを立て、再び
美月に目線を戻す。



「知り合いがタチ悪いの!」


『変な知り合いいないのに。』


「ウシワカがいるでしょ!」


『牛島君は変な人じゃないでしょ!
しかも、ただ挨拶するだけなのに。』


牛島を少し悪く言えば彼女が怒る所も及川に
とっては気に食わない部分。
そして、美月がアイツに笑顔を向ける事が
嫌だ!と及川は理不尽に駄々をこねるので、
彼女は呆れたようにため息を吐いた。


美月はこんな自分に話しかけるわけがない
と思っているのだが、どうやら及川はそうは
思ってはいない様子。


牛島が美月に好意を向けている事は、普段が
ポーカーフェイスの顔には出さない様でも及川
からすれば彼女を見る彼の目を見た瞬間に
一目瞭然らしく、極力2人の接触を避けたい。


そして所々、牛島と会話をすれば彼女を褒める
言葉を絶対に出してくるものだから、勿論そこ
も彼の鼻に付いていた。


美月は綺麗になっていくな。


牛島が美月に向けて言う、及川の中で
彼が発する一番嫌いな一言。
不意に思い出してしまい、及川は再び彼に嫌悪
感を抱いていた。


「アイツは馴れ馴れし過ぎるんだよ。」


美月はそんな及川の心の中までは分かっては
いなかったが、彼のモチベーションを下げる
行為はなるべく避けたかった為、彼の言葉には
『わかりました。』と彼女の方が折れた。


『じゃあ、こちらにも条件があります。』


そう言い彼女は目は笑わないまま、ニコリと
及川に向けて笑うので、彼は彼女のその表情に
少し怯んだ。


『会場で女の子達に声かけられても
私は絶対に及川を助けてあげない。』


美月の言う助けてあげないとは、他校の女子
が突然の不調やトイレに行く時など、緊急を
要する時に声をかけていた際に彼女が制限を
かけてくれていたのだが、明日はそれを一切
しないと。


同校の生徒ならまだ少し理解があるが、他校と
なると彼女も普段の様には上手くいかない時
もあり、その度にトラブルが起きそうになる時
には、彼女が上手くそれを回避していた。


『私の他校との絡みを心配している様
だけど…』


苦労してるのは及川だけじゃなく自分もなんだ
と言いたいのだろうか、じっとりとした冷たい
目で彼女はそう言い放ち、彼はまずいと少し
後悔をしながらも彼女の条件には承諾した。


『ぜーんぶ、ハジメか花巻か松川にお願い
しますからねー。』


「おぅ、聞こえたぞー。」


「美月に任された。」


「変わりに美月のボディガード
こっちでしとくわ。」


二人の会話をバッチリ聞いてましたと、少し
だけ離れた場所で片付けをしながら3人は
ぐっと親指を立てこっちを見れば、岩泉は
容赦なく行くと断言し、花巻は誰にも近寄ら
せねえとウインクし、松川は美月の傍に
ずっといるとさらっと発言している。


及川は、そんな彼らに「ズルくない?!」と嘆い
ていたら、美月はよそよそしく『及川さん、
明日はよろしくね』とぽんと肩を叩く。


さすがに彼女のその態度には耐え切れずで、
堪らず彼女を引き止めて、明日出来ない分、
及川はめいっぱい彼女を抱きしめた。
それは他にすぐに阻止されるのだが。


「調子に乗るなクソ川。」


「ほら、手を出したら岩泉こんなに早いん
だから徹は安心して。」


「ホント。松川の言う通り、離れた距離から
の安定の防御力。」


「いやいやいや、今は見逃して。
てゆうか他校に絡まれないように美月に
注意しておこうって言ったのお前らもじゃん。」





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