大切にしたいもの

インターハイ予選初日。

トラブル無く予定通り全員が集合をして、荷物
も積み終わると、皆バスに乗りこみ会場に向か
おうとした。


美月の隣を狙って、正々堂々とじゃんけんで
同じみの4人が小さく争っている隙に、緊張で
少し不調の振りを見せた国見が、彼女の横を
ちゃっかりと奪っていた。

金田一だけは彼が小さく舌を出した所を決して
見逃さず、じゃんけんに勝った及川も絶対に
彼は計算だと気がつく。


「あいつの根性、尊敬するわ。」


「国見ちゃん、先輩に遠慮して!」


周りの言葉は気にしていなかった国見は、手を
冷やさないように優しく摩ってくれる美月の
優しさに半分罪悪感が残るが、先輩達の嫉妬の
眼差しに視線を向ければ、それも見事に掻き
消される。


『国見が緊張なんて珍しい。』


「牧野さんが横だと大丈夫になって
きました。」


『もう少しで出発だけど、大丈夫?
気持ち悪いとかはない?』


「そこまでじゃないから、大丈夫です。」


後ろで及川が「仮病だ仮病!」と文句を言えば、
岩泉がいちいちうるせぇ!と及川に一撃を
噛まし、その痛みでぐぇっと変な声を出して
も、外から聞こえた女子からの「及川さーん!」
とラブコール混ざりの声援を聞けば、表情を
一変させ、窓から彼女達にありがとうと手を
振り返す。


美月は彼女達を見て、いつも通りでなにより
だと満足そうに微笑むと、彼女達は美月の存在
にも気が付いて彼女にも手を振るので、美月は
それに答えるように手を振り返すと、バスも
エンジンがかかり、出発した。


「牧野さんは、及川さんの声援
嫌だなって思う時とか無いんですか?」


及川は美月に誰か寄ろうものなら絶対に嫌な
顔を見せることがあるが、逆に美月は及川の
声援を聞いても、差し入れを代わりに頼まれて
も仕事が増えてしまうにも関わらず、絶対に
嫌な顔を誰かに見せたことは無い。


国見はそんな彼女に疑問を抱き、ふと彼女に
聞いてみた。
すると口元に手を当てて少しだけ悩むとあまり
無いかなと彼女からすぐに答えは返ってきた。


『さすがに試合関係の時間ない時は困るかな
…ぐらいかな?』


「牧野さん、本当に心広いですよね。」


『そうかな?』


「そうですよ。」


国見は苦手だったりするのかな?


及川に気を使って、彼女は国見の耳元に手を
当てて聞いてきたので、彼は「ちょっぴり」と
彼女と同じくひそひそ話で返事をすれば、
彼女はそっかと少し笑った。


『私はね、今1番大切なものって時間だと
思ってるから。ほら、差し入れ作るのも
時間って沢山使っちゃうでしょ?』


なにを喜んでくれるかな?って悩んでみたり、
美味しく出来るかな?て工夫してみたり、
時には失敗したり。


応援だってどうしゃべればいいのかな?
可愛く見られるにはどうしたらいいかな?
て皆は考える時間を沢山使っている


と彼女は時折自分の経験と重ねるように優しい
口調で淡々と話を続けた。


『だから、そんな大切に使った時間を絶対に
無駄にさせたくないし、してはいけない。
そういう応援が届くから、ちゃんと皆が
頑張れるんだよ。』


徹はちゃんと彼女達を受け入れる所、みんなは 苦手だろうけど私は好きと言い切って、ニッと
歯を見せて笑って見せる。


ちゃんとバッチリそれが聞こえていた及川は、 岩泉の肩にしがみついて照れを誤魔化し、
しがみつかれた方はウザイ離れろと鬱陶し
そうに及川の頬を押して押し退けていた。


『国見も将来モテそうだから、そこは
ちゃんと誠意を持って答えてあげてね。』


「…はい。」


『とりあえず、今日はいっぱい私も声援
送るから覚悟してね。』


人差し指で彼の鼻をつんと付きながら吐く、
彼女の優しい言葉を聞くとやっぱり国見は適わ
なくて、否定の言葉なんて出ない。
寧ろそんな彼女がもっと好きになったと愛しさ
の再認識をする。


うしろから花巻が「よっ、イケメン!」と美月を
茶化すように声を出せば、彼女は目は座って
笑わないままで、ああにはなっちゃダメと補足
してみたり、矢巾が俺は大丈夫です!と謎の
宣言をしてみたりで、一気にバスは賑やかに。


溝口の「静かにしろ!」の怒り混ざりの声に指で
耳栓をしながら彼女がひっそり国見の耳元に
また近づき、『もちろん国見の優しい所も
好きだよ』と付け足された褒め言葉に堪らず
彼は「俺はもっともっと好きです。」と返事を
して彼女の肩に軽くもたれた。


「と言っても美月が他校の奴らと
絡むのは禁止だもんねー。
そして国見ちゃん今日覚悟してね。」


「以下同文。」


「お前ら、もうちょい美月の心の寛大さ
を見習って。」


「いや、俺達みんなじゃねーか?」








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