鉄壁の曲者
2階席から烏野と常波戦を観戦し、新体制の
烏野の様子を美月は一人一人逃すことなく
観察をした。
潔子から2人が戻ってきたと聞いてはいたが、
更にコーチも増えている事は聞いておらず、
烏養の存在に驚く。
『向こうのコーチさん、ワイルド系でなんか
カッコ良いお兄さんて感じ。』
「美月、しーっ。
向こうのコーチ褒めてばっかりだと溝口さん
に聞こえて落ち込んじゃうよ。」
「いや、お前ら聞こえてるからな。」
烏野が1セットを取ったところで、先程の邪魔を
されたリベンジといった所か、美月は金田一と
国見の目を盗んで、影山に向かってひらひらと
小さく手を振る。
彼女が『がんばれ』と声には出さないと声援を
送ると、彼はそれに気が付きぺこりと一礼を
した。
影山の様子に安心をした美月は今度は走って
伊達工側へ移動すれば、先に観戦していた
花巻と松川と合流をする。
「あれ、美月。烏野はもういいの?」
『エースとリベロはバッチリ見てきたし、
向こうには徹とハジメがいるから。』
まだ練習試合をしてない相手が見たいと美月は
松川に言いながら、小さなメモ帳を取り出し、
伊達工と桜下の応援の声を耳にしながら、試合
の気になる部分があればそれに書き込んだ。
『ゴーゴーレッツゴー、レッツゴー
伊達工。』
「…美月、止めなさい。」
伊達工の応援の独特なリズムが移って、
一緒に口ずさめば隣に立つ松川に注意を
された彼女は『ごめん、つい。』と謝る。
花巻はたしかに移るよなと笑いながら
彼女と同様、2人で口ずさんでいたら
再び松川に怒られた。
さすが強豪といったところなのか、初戦の彼ら
からは余裕が見え、タイムアウト中にふと1人の
選手が美月の視界に入り、目が合った。
彼は美月の事をどうやら知っている様子で、
「見つけた」と口パクで彼女に向かって言えば、
にっこりと笑ってこちらを見る。
彼女に向けて手を振っている人物は背番号が
6番と書かれているのが彼女にも見えていた。
『ん。あれは、二口君?』
「お前、伊達工にも知り合いいるわけ?」
『いないいない!情報取ってるから知ってる
だけで、話はしたことないはずなんだけど。』
確か2年生のWSだったはずだと自分の知る記憶
を辿りながら彼の情報を思い出す。
人より記憶力が優れている美月は、他校の
情報を得る時は普段の勉強する時と同じ要領
で、1度データを取った相手の名前は完璧に
覚え、それを忘れることはあまり無い。
しかし、色んな選手を観察し過ぎているので、
もしかしてどこかで会ったことがあるのかも
しれないと、彼女はそこで錯覚を起こす。
美月は首を傾げながらも自然と二口に釣られ、
そのまま手を振り返せば、彼はそれを狙って
いたかのように手を振る彼女を見てニヤリと
笑うので、何かを察した松川が「そういう事。」
と眉間に皺を寄せて呟き、彼女を後ろに立たせ
て見えないように壁を作った。
「わざときっかけ作ろうとしてるな。」
「あ?マジかよ。ふざけんなよアイツ。」
松川の言葉を耳にして、花巻も協力する様に
美月を見せないように壁を作り、視界が
塞がれた彼女は前が見えない!と飛び跳ね
ながら、試合を見ようとした。
「あーあ、面白くね。さすがにバレたか。
時々ウチの試合を覗きに来る青城のマネ、
めっちゃ可愛いから狙ってたのに。」
「二口、よそ見するな!」
「ハイハイ、すみませーん。」
試合に戻って活躍している二口はまるで彼女に
魅せるように余裕を見せながら、仲間と壁を
作り容赦なく相手チームから点数を奪い取る。
2人の隙間から覗く美月はもちろんその壁の
虜になっていた。
『やっぱりブロック凄いねー。打つとこが
なくて、相手チームの心折れそう。』
うっとりしている様に見えるだろうが、それは
二口にではなく、2枚並ぶ綺麗なブロックを
見つめているだけだった。
彼女の見るそれをわかってはいても、花巻と
松川は彼らを勘違いさせてしまいそうなので、
2人とも冷や冷やしながら彼女の様子を伺う。
自分達に向けてくれる時は心地良いが、相手に
向けられるとこんなに不快な気分になるもの
なのか、と試合よりもどうしても美月の方が
気になってしまい、我慢出来なくなった花巻は
ちらっと彼女の方へ振り向くと、お願いだから
と口を開いた。
「美月ちゃん、外で6番に声をかけ
られても絶対に無視しなきゃダメよ。」
『花巻が珍しく徹みたい。』
「オトコは狼なのよー。」
『どういうコト?』
「お前が言うかよ。」
「いや、松川にも言われたくねーよ!」
花巻と松川が肘をぶつけ合えば、それによって
彼女の視界が更に狭くなるので、やっぱり見え
にくい!と美月が少し苛立ちを見せて、
2人の狼の間に割り込むように入った。
2人の腕を自分に寄せてムギュっと抱きつけば、
彼女から受ける心地いい弾力に2人は彼女の
胸元に目線を下げて、そちらをついじっと見て
しまう。
そして状況を改めて確認すると、 そのまま気が 付かずに双方の片腕を掴んでいる彼女の柔らか いその感触を味わおうとすればら自然と無言に
なり、突然、静かになった二人に美月は
視界良好!と満足そうに試合を観戦した。
二口は彼女の姿が見えて、喜びながらも残念
ながら彼女の目線は7番の青根に徐々に移動
しているのが彼にも分かり、そして松川と花巻
を挟んで見ている姿を目にすれば、彼にとって
は面白くない状態になっていた為、その後は
彼女を見ること無く試合を続行した。
試合は伊達工の圧勝。
あっとゆう間にセットを奪い取り、次の試合の
時は見に来ない彼女を最後に一目見ておこうと
美月の方へ目を向けると、これ以上は許さ
ないと言わんばかりに、松川と花巻が二口の
視界から隠すように既に壁を作っており、
お互い無言の圧力をぶつけ合う。
「敵の壁が大きいと何か燃えてきた。」
「二口はさっきから何言ってんだ?」
いつか当たるであろう敵と睨み合えば、次の
試合に備えて背中を向けると双方、闘志を燃や
しながら次に向けて歩き出した。
「ぜってー、指一本触れさせねー。」
「こっちのブロック舐めんなよ。」
『ねぇねぇ、2人はこれからの試合の話を
してるのであってるんだよね?』