戦いの幕開け
自分の友人はいつも通りの様子だが、先に
アップをしている相手を見ると、自分達に向け
られた応援をかき消して、気合いが入った彼ら
に前回見た時と少しだけ雰囲気が変わった様に
見えてしまった。
「先、レシーブだから。」
『うん、了解。』
及川の言葉を頷いて聞きながら、美月は自分
を落ち着かせるために息を思い切り吸って深く
吐いた。
「らしくねーぞ。」
何かを感じとった岩泉に背中を押され、美月は
苦笑いを見せるが、その緊張の原因はかつての
可愛がっていた後輩と被ることは無かった親友
と公式戦で当たるのは初めてだからだ。
美月はバチン!と自分の頬を叩いて自分の
目を覚ませる。
『容赦なく…だね。』
美月が清水に視線を向けると、彼女も美月に
向けて、うっすらと笑みを見せる。
美月もそれに笑い返せば、交代の合図と共に
ボールカゴを持って走り出した。
「あんま、影山ばっか見てるとまた国見と
金田一がうるせーぞ。」
『大丈夫、わかってるよ。』
花巻から冷やかし混ざりの注意を受けて、美月が
可愛い後輩達の元へいけば、しっぽを振る犬の
ように2人が嬉しそうに彼女を迎える。
2人のコンディションを確認したら、美月は
安心したようにアップの邪魔にならない様に
端の方へと退いた。
『花巻も松川も絶好調じゃん。』
及川に褒めらると、花巻は及川に美月にも
Vサインを見せるので、美月も球を拾い
ながら彼の元へと話しかけた。
「誰かさんのマッサージのお陰かな?」
『お役に立てて、光栄です。』
松川の言葉に少し照れ臭そうにへらっと笑う
彼女に花巻も一緒になって癒されていると、
金田一にトスが低かったことを謝る及川の声
が聞こえてきた。
『徹も大丈夫そうかな?』
「岩ちゃんちょっと力んでない?」
声がする方へ3人が目を向ければ、及川が岩泉を
冷やかしていたので、それを見た彼女は苦笑い
をする。
「いいトコ見せようとしなくていいんだよ!
女の子は誰も岩ちゃんなんか見てないから。」
『徹も通常通りってことね。』
へらへら笑う及川を怒りながら、金田一が殴り
かかろうとする岩泉を押さえて宥めている所に 美月はため息を吐きながら止めに向かう。
『2人ともみっともないから止めなさい!』
記録付のためのノートで2人の背中を叩くと、 美月は片方の手は岩泉の背中をさすり、
もう片方の手は、及川をずるずると引きずり
ながら、監督達のところに向かい、その姿を
清水が呆然と見ていたので、彼女は少し恥ずか
しそうに顔を顰めた。
両者自分の位置に整列をして、合図と共に
お互いが挨拶を交わすと、そこからは美月も
清水もお互い顔を合わせることは無かった。
「10番に振り回されすぎないように。
コースを絞って止められるものは止める。
それ以外のものは拾う。」
監督の言葉を美月も一緒に耳にしながら、
彼ら一人一人に目を向けて頷いた。
『いつも通りすればいいだけ。』
「だねっ。」
美月の言葉に及川はニッコリ微笑むと手足を
ぷらぷらと解し始める。
「よーし、やるかぁ!」
そしてその動作をピタリと停めたら、
それじゃあ今日もと仲間を見つめる。
「信じてるよ、お前ら。」
及川の一言にチーム全体の空気がガラリと
変わり、美月の目も獲物を捕らえる
ように鋭くなった。
「美月もおいで!」と及川から声がかかり、
駆け足でその中に混ざると、彼の手に背中を
添えられながら円陣の中に手を差し伸べる。
『毎度思うけど、私が混ざって大丈夫?』
「いいの!」
「行くぞ」と掛け声と共にすぐに定位置に戻り、
彼女は普段の穏やかな顔つきとは違った様子で
席に座った。
試合開始の合図とともに烏野は月島のサーブ
から始まり、国見が綺麗に拾い上げれば、
その球はもちろん及川の手元に行き、前衛が
動き始めるので、周りは誰に攻撃を任せるのか
及川へ注目する。
『早速、良い流れじゃないですか。』
そのまま誰かにトスを上げることはなく、松川
が腕を振る横でネットの先へとボールを叩き落
とし、点が入る事によって、彼に向けて歓声が
あがる。
敵はいきなりのツーアタックに驚きを隠せない 様で、美月は周りを含めてのその反応
を満足そうに見ていた。
『驚いてる、驚いてる。』
及川の煽る言葉に日向がこそこそと田中に
耳打ちしながら、動揺を隠せない姿も少し
可愛く見えて、彼女はニコニコと相手チーム
を見ながら笑いかけていた。
『松川、ナイスサーブ!』
綺麗に入る松川のサーブを澤村が丁寧に拾え ば、それは相手チームの攻撃に変わってしまう。
案の定、影山と日向の速攻攻撃が迫ってきた
が、向こうの位置が悪く、それは花巻に簡単に
止められてしまった。
『花巻、ナイスレシーブ!』
及川に向かって飛んでいくボールを彼はまた
振り幅をつけて跳んだので、相手はまたツー
アタックを意識して及川の動きに惑わされ
ながら、動く。
周りが彼に惑わされている瞬間が美月に
とっては楽しくて堪らなかった。
スパイクの姿勢からすぐにセットの動きに
変わり、それはすぐさま一直線で岩泉の元へと
届く。
思い切りそれが地面に叩きつけられた時、 美月は満面の笑みで2人へ『ナイスキー!』
と声をかけた。
少し低いと岩泉のご指摘が耳に入りながらも
『2人ともいいかんじ!』と彼らに親指を立て
れば、2人も同じリアクションを返す。
「セッターの腕も攻撃も派手さもこっちだって
負けない!」
自分の所の空気に安心しながらも美月は時折
相手の様子も伺い、少し苛立ちを見せる日向と 田中を目にしながら、冷静な対応で彼らを落ち
着かせる澤村に美月はさすが!と彼を
心の中で褒めていた。
そして、影山の実力は当たり前に頭に入れ
ながら、攻撃の派手さという言葉に違和感を
感じ、少しだけ耳に残る。
再び松川のサーブが入り、西谷がすぐに
レシーブを返すと、ボールに向かって影山
の腕が伸びる。
田中が攻撃態勢で飛び出すので、美月も
つい彼の方へ目を向ければ、飛び上がる日向の
隙間からノーマークだった東峰の姿が見える。
ここでついにエースの登場かと彼女が東峰の
攻撃を身構えたら、それは見当違いだと言われ
るようにズンっと影山のアタックでネットを
越え、そのまま地面に落とされる様子が
スローモーションの様に見えてしまった。
「次も同じのやるんで、ちゃんと警戒して
くださいね。」
『ここにも負けず嫌いがいた事をすっかり
忘れてました。』
その技術の高さに悔しさを抱くが、彼女は
どうしても憎みきれず、寧ろツーアタックが 悔しくて、ムキになって同じ攻撃で仕返しをする
所が影山らしいと美月は可笑しくなって、
仲間に怒られないように、静かに肩を揺らして
笑い出す。
『ホント、私達の後輩は可愛いわ。』
どんどん正確に吸収していくキミがホントに
怖い。
及川がクソガキと怒っているところをあなたを
見て育ったんですけど、と彼女は呆れたように
言っていると、隣にいた溝口はそれを聞いて
吹き出す。
美月は次は何を見せてくれるだろうかと
楽しみにしながら、後輩の成長が面白いと
舌なめずりをしながら、影山を見つめた。
「なぁ、影山君。大王様のトコのマネージャー
の人、さっきまでふんわりして可愛かった
のに、今めっちゃ目付き鋭くて怖い。」
「バカ、お前。美月さんは試合に集中
してんだよ。カッコイイだろーが!
失礼な事言ってんじゃねーよ。」
「尚且つ、鋭さもエロカワイイ。」
「確かに、癖になる鋭さ。
さすが、潔子さんのご友人。」