まずは叩いてみる
『飛雄ったら力みすぎ。』
影山のサーブがアウトになると、盛大なホーム
ランを打った影山が顔を歪め、その様子を見て
いた美月は、くすりと彼が可愛らしく見えて
笑っていた。
及川と岩泉も力んだかつての自分の後輩を見て、
暖かい目で吹き出しながら、続けてお手本を
見せると言って及川は格好をつけながらサーブ
を打ち、リベロを狙って攻める先輩も軽やかに
西谷に取られてしまう。
『もー。気持ちはわかるけど、何で千鳥山の
西谷君を狙っちゃうかな。』
その動きは今でも健在なので、綺麗なレシーブ
の受け方に少し感動しながらもため息を吐く。
それを見ながら岩泉は怒鳴り、美月は静かに
及川に怒ると、彼は狙った相手の失態を誤魔化
すように及川は舌を出した。
それよりも美月が気になるのは、視線だけで
金田一にフェイントをかけ、惑わしながら日向
へと攻撃を仕掛ける鮮やかな速攻の速さ。
『飛雄はどこで覚えてきたの。』
前はあんな技できなかったでしょと美月は
後輩の突然の急成長に身体が震えながら驚いて
いると、焦る金田一に及川は声をかけていた。
「安心してとべ。」
打点の高い位置に金田一の攻撃を持って行き
ながらも、その言葉に少しずつ何かを掴みかけ
ている及川に気がついた美月は、そろそろ
かな?と相手の攻撃よりも及川の反応に意識
し始め、タイムアウトがいつ来てもいいように
心の準備を始めた。
烏野の攻撃を受けたら直ぐに及川が監督へ
タイムアウトの指示を促すので、美月は直ぐ
にドリンクを渡しながら、みんなの輪の中に
入り込む。
「来いとくれです。」
『…あっ。』
及川が神業速攻と普通の速攻に気が付いて、
みんなに説明をすると、日向が所々で発す
言葉に気がついた美月が声を漏らし、
及川は彼女へ微笑みながら「うん。」と頷いた。
神業速攻の時は来いと言う単語を混ぜながら
使い、普通の速攻の時はくれと言う単語を
用いてくる。
及川の説明と指示を一通り聞けば、みんなが
納得し彼女も頷くとそのままドリンクを回収
しながら、及川と目が合えば、彼は美月を
見てニヤついた。
「美月はとっくに気がついてると
思っていたんだけど、飛雄に夢中で珍しく
気が付かなかったと見た。」
『むっ、今回は試合のDVD見てないし、
後輩の急成長は誰でも驚くでしょ。
あの速攻はトスを合わせる飛雄がすご…』
2人の話を聞けば、金田一と国見の耳がぴくり
と動いたので、ハッと彼女は急いで自分の手で
口を塞ぐ。
彼らが振り向くことは無かったので、それに
安心しながら言葉を続けた。
『とにかく、こっちが見蕩れるくらい
カッコイイとこいっぱい見せて。』
彼女はそう言って彼の背中を叩くと、そそくさ
と逃げ去るようにタイムアウト終了と共に自分
の位置へ戻れば、再び彼女は試合の様子を記録
を付けながら見守った。
「その言葉だけで燃えてきた。」
「右に同じく。」
それぞれが彼女の期待に応えるように、金田一
も狙い通りサーブを狙い点を稼ぎ、花巻、
松川、及川が前衛に移動をすれば、徐々に影山
からも焦りが見え始めた。
叩くなら、折れるまで
影山が狙う攻撃も及川がどんどん覆し、及川の
サーブへと移ると、田中を狙い、相手から
タイムアウトを取らせても容赦ない一撃を
続ける。
『徹、乗ってきたわ。』
2回目のタイムアウトを相手から取らせると
彼女はすっと立ち上がり、及川と目が合うと
入れ替わるように頷いて、そのまま皆の元へと
駆け寄った。
『続けて5番の田中君狙い。こっちは
極力相手の攻撃はブロックで潰そう。』
「こっちも情けかける訳にはいかねーしな。」
岩泉の言葉に『そうだね。』と頷きながら、
彼女は皆にドリンクを渡し、厳しい口調で
言葉を続けた。
『みんなのブロックいい感じだし、
折れかけている所をどんどん壊して
いかないと、油断出来ない。』
「美月も容赦ねーな。」
『ん?』
松川が冷や汗を流している横で、ニコッと
悪びれもせず微笑む美月にお前怖えーよ
と 花巻が自分の腕を撫でながら苦笑いを浮か
べるも、監督も彼女の言葉に頷いていた。
「例え相手に拾われても乱れる攻撃はブロック
で補えば点に繋がる。
流れはこっちに来ているだろうから
このまま乗っかっていこう。」
タイムアウト終了の合図と共に定位置に戻る
と、及川の集中力は切れないまま、変わらぬ
サーブで田中を狙う。
どこで何を起こすかが読めない、それが烏野
高校。
田中が胸で受止め、日向が落とさないように
腕を伸ばすと、その球を繋ぐように影山が及川
の方へボールを運ぶ。
渡のトスで花巻がバックアタックをするも、
それは西谷に取られれば、続けて烏野の攻撃
へと変わっていった。
『もー、田中君のメンタル強すぎ。』
自分で流れを切る田中の攻撃に尊敬と悔しさを
混ぜながら美月は頭を抱えながらも、でも…
とペンを口に当てながら口角を上げる。
『徹はまだまだ乗ってる。』
及川は点差に焦る影山を見据えて、影山の唯一
の弱点を突くようにセッターとしての実力を
見せつける。
相手の球は徐々に速くなっていくので、
その焦りは次第に歯車を狂わせていた。
天才だろうと相手を上手く理解しなければ
その力はどんなに強くても意味は無い。
美月もかつての中総体の影山の姿を思い出し
ながら、ボールを押し合う2人を見つめていた。
ちょっとだけ、嫌な先輩になってしまうけど、
ごめんね飛雄。
『徹、押し込んで!』
このまま相手を落として
ゆっくりと落ちるボールと共に体勢を崩した
影山も一緒に落ちる。
『優れているのは、及川徹だから。』
影山が調子を崩したところでこちらの点数は2桁
に乗り、彼女はこのまま乗り切れる!と喜ぶも
交代の合図が聞こえる。
『さすがに、甘くないですかね。』
菅原という名の未知の人間の登場美月は
苦笑いを見せた。
『彼、頭が切れるんでしょうね。』
「見事にこっちがまんまと騙されるな。」
彼女の予想通り、菅原が入ったところで相手の 空気はガラリと柔らかい空気に変わり、菅原達
は取り乱すことはなく、至って冷静で読めない
反撃を見せ、攻撃の予定を狂わされながら3点を
連続で失った。
彼女がそう嘆く横で溝口も彼女の言葉に納得
するように頷いている。
『ここは、1本切ろうね!』
流れをもっていかれないように岩泉、金田一が それぞれ上手く攻撃を決め、22点まで来た
ところで及川のサーブでこちらの流れへと
持っていく。
『徹、ナイスサーブ!』
キミの魅力を最大限に活かして
1本目は強烈な力で相手に見合いをさせ、
2本目は逆にゆるく落としてマッチポイント
に持っていく。
美月はこの絶好なタイミングを心から喜んだ。
「これで決めるぞ!」
みんなの掛け声と共に美月も精一杯声を
出した。
及川は東峰と澤村の間を狙うように一球に力を
込めて殴り打つ。
「俺が取ォォォる!!」
澤村が腕を構えてボールを高く上げ、敵ながら 天晴れと美月は及川のそれを取ったことを
少しだけ褒めながら、菅原の元へとボールが
向かう。
やばい、感動している場合じゃない。
流れをもっていかれる恐怖に、次の攻撃相手を
探りながら、選手の動きを確認するように目線
を移す。
10番日向は囮、5番田中と見せかけて…後ろで
助走をつける3番の東峰が重い一撃をぶつけれ
ば、花巻が身構えてボールを高く返していた。
『花巻、ナイスレシーブ!』
ネットを超えそうになるボールは相手の方へと
向かいそうになると、影山から「日向ダイレクト
だ!」と指示する声が聞こえてくる。
『えぇ、ちょっと…』
すると、突然の命令に慌てて手を伸ばす日向は
へろんとしたやる気のない1発を打つので、
こちらの調子が狂うのは彼女も一緒だった。
滑り込む岩泉によって、それは何とか守られ、 及川がセットし金田一が打ち込もうとする。
『あ、ダメそれ。待って待って。』
美月は日向のテンポが少しゆっくりになった
事に嫌な予感を感じるも、見事にそれは的中
し、再び日向が高く飛び出して、それを遮る。
『後ろー!』「下がれー!」
美月と溝口が必死に叫び、渡が追いかける
ように滑り込むと、それは運がいいのか
アウトライン。
1セット目終了と共に美月はほっと胸を
なで下ろした。