突き放せない
『とりあえず1セット取れてよかった。』
コートチェンジをしたら、美月は矢巾達に
手伝ってもらいながらも、急いでそれぞれに
ドリンクを渡し、岩泉と松川にタオルも一緒に 渡しながら、彼女はそう言った。
『最後はちょっとビックリしたね。』
「あの影山とあの10番ありきで考えていたから、
ああいう普通のちゃんとした攻撃が来ると
調子狂うな。」
「つい10番見過ぎちゃうよなー。」
『なるほど。確かに、私も彼が目の前に
立たれたら、そうなっちゃうと思う。』
彼らの言葉に美月が頷いていると、横で及川
が茶々を入れるように「岩ちゃん、足りない頭
使うと頭痛くなるよ」と岩泉に呼びかける。
『あ、ちょっと徹!』
頭に血管を浮かせた彼は、及川に頭突きを食ら
わせ、及川が悲鳴と共に手から離したスクイズ
ボトルを花巻が綺麗にキャッチをし、美月は
それに安堵する。
『ありがとう、花巻。』
それを受け取った美月はキッと及川を睨み、
『ハジメに余計なこと言わないの!』と怒り
ながら、それぞれのドリンクを回収して
行った。
後輩達の様子も伺えば、金田一は先程の日向に
タイミングを合わされたことを気にかけていた
ので、美月は切り替えて行こうねと言い
ながら、彼にかかったタオルで彼の額の汗を
拭ってあげていた。
その羨ましいシチュエーションを目撃して
しまった少し残念な先輩達は、俺達もして
欲しかった!と悔しがるもいいタイミングで
2セット目の合図が鳴り始める。
互いに2点ずつ勝ち取ったところでサーブは
再び及川の所へと回ってきた。
『徹のサーブ対策って所ですかね。』
1セット目とフォーメーションを変えて、後衛に
西谷と澤村がいる事に気が付いた美月は
監督と溝口に話しかける。
「1セット目のローテーションをずらして回して
きたのは及川のサーブの時にこの ローテー
ションに持ってこようとしたんだろうな。」
溝口の言葉に頷きながら、及川に『徹、ナイス サーブ!』と美月は声をかける。
気合い十分と言った所の西谷と澤村は、及川が
飛び上がる瞬間を瞬きすること無く見つめて
いた。
及川が力込めて打ったそれは澤村の腕が捉え、
菅原の元へと飛んでいき、田中がブロックを
目の前にしてもぶち抜いて、次のサーブを
阻もうとする。
国見の手も弾かれたボールはアウトラインへと
行き、美月は悔しそうに下唇を噛んだ。
『ブロックアウトとかやるじゃん。』
美月が落ちたボールを見ながら、ほんとその
メンタルの強さを分けて欲しいと小さく
呟けば、溝口はそれを聞くと呆れた顔で
「お前、女子じゃなくなるぞ?」と彼女の心配
をする。
「さあ、突き放しに行こう。」
お互い互角に得点を取り合いながらも烏野の
攻撃がレフトに偏ってくるのを美月が
じわじわと感じている所へ、1回目はサービス
エースを阻止された及川へ再びサーブの番が
回ってきた。
そこからブレイクとなり、こちらの流れに
変わっている状況を美月は冷静に見届け、
淡々とボールの動きを目で追っていた。
「セッターが変わってから烏野はレフトを
つかってくる事がより多いですね。」
「烏野はレフトがどっちも強力だからな。」
金田一も彼らの攻撃を読み始め、日向の速攻が
くれば高く飛び、綺麗にブロックでシャット
アウトが出来ていた。
みんなの歓声と共に向こうの焦りが見えて
きて、日向が不安そうにする顔を美月は
見逃さなかった。
彼女の読み通り、烏養に駆け寄る影山の姿が
見えてきて、この1プレイで彼が戻ってくる事
を頭に入れる。
東峰がスパイクを決めることによって交代の
合図が変わり、影山の再登場に彼女は深呼吸
をした。
仲間に向けた影山の無理矢理な笑顔は敵の
こちら側にもざわつかせ、美月も
驚いて目が点になる
サーブを打つ前の影山の目付きは、余裕が
なかった時とは別人のようで、及川もそれに
は直ぐに勘づいていた。美月も武者
震いから溝口の袖を咄嗟に掴む。
「…おい、美月。」
『飛雄がさっきと違います。』
鋭く放たれたボールは渡の腕を貫き、サービス
エースを取ったので、彼女の背中からは冷や汗
が流れていた。
再び放たれるボールは岩泉を乱し、渡と花巻が
フォローを入れるも烏野の攻撃に変わるので、 自然と彼女もそのまま溝口の袖を掴んだまま
ぎゅっと身構える。
こいもくれも言わない!?
言葉を発さない速攻に金田一もタイミングを
見失うと、それを狙うかのようにボールは彼を
越して落とされる。
逆転に持っていかれた空気を及川は変えるよう
に「はーい、落ち着いて。」と及川が皆へと声を
かけた。
「焦ってこっちが崩れてやる必要は無いよ。
一本取り返せば問題ない。」
皆の返事と共に「おい、その顔とポーズ ハラ
立つヤメロ」と岩泉が顔を歪ませ美月も
こくこくと頷いていると、及川からは「美月は
隣にひっつかない!」と及川に指さされ、彼女
は即座に『はいっ!』と真っ直ぐ姿勢を正す。
彼女が申し訳無さそうに『すみません』と隣の
溝口に謝ると、彼は頬を少し赤く染めながら、
前言撤回だなと気まずそうに目を逸らした。
「溝口君、満更でもないって顔だったね」
「…あれも腹立つ。」
次に影山が打つと岩泉が止め、花巻が攻撃を
仕掛けて、何とかその流れは止めることが
出来るも次の攻撃で先に2ケタに乗られ、
日向の柔らかい入るかが読めないサーブに
崩され、こちらが乗れな所でタイムアウトを
取った。
「今のは仕様がない。落ち着いてるな?」
みんなの返事を聞いた監督は「ならいい」と
それ以上は彼らには何も言わなかった。
「10番下がって11番前衛に来ると、烏野は
センター使ってくる回数減るよな。」
「うん、単純に飛雄はあのノッポ君が苦手
なんじゃない?」
松川の質問を及川が靴紐を直しながら答えて、
及川はゆっくりと立ち上がろうと横にいた
美月の手を掴もうとした。
『確かに、飛雄はメールとか電話で日向君の
話はしてくれるけど、月島君の話はあんまし
聞かないかも。』
「へー、美月は飛雄と定期的に連絡をとってるわけ。」
『毎日じゃないけど、近況報告程度に。』
「…ふーん。」
影山と連絡を楽しそうに取る美月を想像した
及川は、座った目で掴む所にわざとグッと自分
の体重をかけると、突然負荷がかかった彼女が
『わっ!』と慌てた声を出しながらよろける。
それは嫉妬からのいたずらで、花巻が危ねぇ!
と彼女の脇を持って彼女の身体を支えていた。
「昨日の試合も今日もマトモにコミュニ
ケーションとってる感じじゃない。多分
飛雄は烏野のスパイカーで1番あのノッポ君
が上手に使えない」
及川が立ち上がり、彼女の額にデコピンを
しながらそう言葉を続ければ、松川は複雑
そうな顔で及川を見ていた。
「やっぱお前とはトモダチになりたく
ねーなー。」
「なんで!?」
「弱みとか握られそうじゃん。
…あとめちゃくちゃ嫉妬深いし。」
「チームメイトの弱みを握ってどーすんのさ。
あと、嫉妬深いって!」
何処がだよ!と松川に怒り出す及川を見て、美月は困ったようにへらっと笑いを見せて
いた。
『トモダチ目の前なのに複雑な気持ち。』
「あ、そっか。美月はトモダチ!
だもんなー。」
お前はスゲーなーと、支えた後もさり気なく
花巻が美月を抱きしめて、彼女の頭に顎を
乗せながら、偉い偉いと褒めながら撫で回す。
わざとらしく、松川もトモダチというワードを
強調させて言ってくるあたりが及川を更に
苛立たせていた。
『花巻さん、さすがに公衆の面前でひっつき
すぎですよー。』
自ら彼の腕をべりっと剥がすようにして、
抜け出すと、彼女は岩泉の元へと話をかけ
に足を運ばせる。
「友達…か。」
再び及川の元へ戻った美月は、彼の少し
傷つく理由は分からなくても、ほんの少し彼の
顔を見て気分が落ちている事は彼女にすぐに
気がつく。
美月は普段は周りを意識して絶対しないのに、
こういう時だけは周りを気にせずで及川に寄り、
『キャプテン、あと一息。』と彼の額に伝う
汗を優しくそっとタオルで拭い、陽だまりの
ような笑顔を見せる。
そんな単純な行為で浮かれてしまう彼は、口元
が緩むのを堪えながらタイムアウト終了の合図
と共にコートに戻った。
「美月に汗拭ってもらったの、お前だけ
じゃねーぞ。」
「岩ちゃん、余計な一言やめてくれない?」
「顔に出てやがって腹立つ。」