揺さぶられる

『松川ナイスキー!』

松川が得点を稼ぎ、青城も2桁へと持って行き、
すぐに岩泉が取り返す様に続けて得点を稼ぐと
お互いの点が並び、その流れを遮る様に烏野が
タイムアウトを取った。


『まずいと思って、こっちの流れを切ろうと
してきたね。』


美月が烏野の方へ目を向ければ、影山と月島
が話し合っている所が目に入って、先程の2人
の攻撃が失敗は無いが、うまく噛み合ってない
彼らの空気を思い出す。


美月がピントを合わせようと目を細めていると、
影山のわかったという言葉だけは見えてきた
ところで、国見から「影山を見すぎです」と
じっとりとした目で注意を受けた。


『そうだね。他の選手も色々仕掛けてくる
から、飛雄だけじゃないもんね。』


「……きら。」


『ん?』


「俺も英って、呼ばれたいんですけど。」


普段は顔色ひとつ変えることのない国見が、
口を尖らせて拗ねた顔を美月に見せ、
頬を赤く染める国見の表情が可愛く見えて、
美月は胸の奥をきゅんと締め付けられた。


『いやん、国見が可愛すぎて。』


母性本能が擽られている彼女は両手で顔を覆い
ながら、首を横に振る。
「可愛いって何ですか!」と国見は更に顔を
真っ赤にさせながら、彼女の反応に怒り出す。


何やってんだあいつらと松川が不思議そうに
2人のやり取りを見て、それを一緒に見ていた
矢巾が可愛い後輩のポジションを取られたく
ないが為に、肩を掴んでそれを止めると、
そのままタイムアウトが終了した。


国見は悪態着いて定位置に戻る所を『英も
ファイト!』と彼女は彼に向けて放つので、
国見は遅いですと怒りながらも本当は喜びが
込み上がるのだが、彼女にはその顔を見せずに
走り出した。


「本当に美月は後輩に甘いんだから。」


「国見、年上受け良さそうだしな。」


「まぁ。アレは小動物を愛でる目だわ。」


「だろうな。」

タイムアウトが開けたら直ぐに影山のトスが
少し変わっていた事にやっぱりと美月はその
奇妙な違和感に気が付く。


松川と岩泉の手の上を柔らかく避けるように
強く打つ素振りを見せながらのフェイントを
かけ、それは後ろの空いた隙間を狙うように
ゆっくりと渡の目の前に落ちて行った。


『やっぱり、何か仕掛けて来たか。』


こちらが攻撃を仕掛ければ、月島のワンタッチ
と共に相手の攻撃へと変わり、再び月島がに
フェイントをかけ、松川達を苛立たせながらも
渡が滑り込んでボールを拾う。


『渡、ナイスレシーブ!』


渡が拾うも相手のコートへ行き、それが烏野の
チャンスボールとなれば、東峰に決められる。


松川がそれをすぐさま取り返すも、向こうの
チャンスボールが来れば、月島がフェイントを
仕掛けることに彼女は妙な不安を感じながら
ボールを見ていた。


『ブロックを避けるにしても、意図的に
飛雄が月島君を使うトコがなぁ。』


美月がそう呟いた瞬間だった。


再び影山が月島へトスを上げると、渡が自然と
体が前へと出始める。


「いかん、出過ぎるな!」


監督が立ち上がり注意するも遅く、力強く月島
が打ち込めば、咄嗟に出した渡の手に当たり、
散っていく。


「フェイントを警戒しすぎて守備が前のめりに
なってしまった…やられたな。」


『はい、後ろの配置に油断してました。』


烏野が先にマッチポイントに入り、影山達の
動きがタイムアウト中に気がついていたにも
関わらず、敵にまんまとやられてしまったと
感じている美月はクッと悔しそうに眉間に
皺を寄せて、向こうの点数を見る。


岩泉は彼女のそんな表情へちらっと目線を向け、
自分のチャンスボールを力の限り打ち込み、
影山の手へぶつけても力で弾き飛ばした。


「渡さねーよ!」


シケたツラは見せるんじゃねぇ!美月へ喝を
入れるように岩泉は彼女の方へと視線を送る。


『…ごめん。ハジメナイスキー!』


ここで、及川のサーブが回ることで、彼女の顔
も少しだけ力が緩んだ。


「お前が凹ましたい相手のその2がお前の
目の前だ。」


岩泉の言葉を耳にしながら、及川は渡された
ボールをしっかりと握った。


「思いっきりでいいぞ。」


そして、花巻と岩泉の言葉に彼女もしっかりと
頷いて、及川を見た。


「わかってるよ。」


美月はかつての思い出を振り返りながら、
一瞬目を伏せ、今日の夢を思い出せば、彼女は
顔を上げた。


及川はボールを高く開け仰け反ると、サイド
ラインギリギリを狙って思い切り撃ち込んだ。


『徹、ナイスコース。』


澤村の掛け声と共に西谷が動き、それを拾うも
こちら側のコートへとボールは向かっていく。

チャンスボールを渡が上げると、及川が
センターからの速攻だと目の前にいる相手
には錯覚させた模様。


月島の引っかかっている様子を美月は顔色を
変えること無く見ていると、少しの隙間から
影山が彼の服を引っ張る手が見え美月は
目を大きく見開いた。


飛雄、もしかして…!!?


そのトスは岩泉へ送られ、彼がコースを狙って
打つも影山の手が伸び、彼と月島のブロックに
よって阻まれてしまう。


『今、徹自身を読んで動いたよね?』


2セット目終了と共に美月は後輩の速すぎる
成長を嬉しさだけではない、なんとも言えない
憎らしいとも思ってしまう複雑な気持ちで顔を
歪ませた。


「クソがァァァ!」


岩泉が頭を悔しさから掻きむしると花巻が
「ドンマイ、次次」と労いの言葉をかけ、及川
からは「ははは。」と少し間を空けた乾いた笑い
が聞こえてくる。


「何笑ってんだ、ぶん殴るぞ。」


「すぐ殴るって言うのやめなよ岩ちゃん。」


「安心しろ、おめーにしか言わねーし
殴んねーよ。」


一通りの言い合いをスルーしなが美月は及川
に伝えたい素振りを見せながら、松川に
ドリンクを渡していた。


『徹、あのね…』


「今の俺と美月、多分考えてること
一緒だと思う。」


彼女の頭をそっと撫でながら、及川の方から
優しい言葉が返ってきて、美月はその様子から
納得をした。


「今のはセンターからの速攻がベターな攻撃
だった。でも恐らく飛雄は今俺がレフトに
上がる攻撃だと読んでいた。…この意味
わかる?」


『…彼の環境をこの短時間で変えた人間に、
私は少しゾッとしてる。』


及川にしか聞こえていない小さな声でポソッと
そう言葉を零し、後輩の元へ向かう美月は、
今は他所にいる後輩への意識は及川に任せて
気持ちの矛先を切り替えるように、影山の説明
を続ける及川の言葉を背に、彼女は渡の所へと
向かった。


『月島君のフェイント、いっぱい必死に
拾ってくれてありがとう!』


ナイスファイトだった!と渡の頭をいっぱい
撫でて、彼の力を解すように彼女は、自分の
両手を渡の頬に挟んでグリグリと撫で回した。


渡は突然の彼女の嬉しいスキンシップに慣れて
いない様子で、動揺と照れから彼女の名前を
呼ぶ声が裏返る。


『ごめん、私もっと渡の位置をちゃんと
見ておくべきだった。』


「いや、牧野さんは悪くないです。
見事に引っかかったのは俺だし。」


もっともっと期待して貰える様にできる限りの
事は精一杯します。と意気込む渡を見ながら、
美月は微笑む。


『後輩が頼もしいと嬉しいな。』


自分のやるべき仕事を満足にこなせていると
実感した美月は目を細め、「何だこれ、
すごいムシャクシャしてるのにこの感じ…」と
言う及川の声に振り向く。


彼がこの試合を楽しんでいる事を感じ取り、
彼女は及川に向けて『すっごく、わかるよ。』
と小さく声を零した。


「はやく、早くやろう。最終セット。」


及川達の視線に何かを感じとり、影山達がそれ
を受け取るように咄嗟に及川の方を振り向く。

美月も再び彼らに向けて送る視線は、
笑いながらも更に鋭くなっていった。








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