最終セット

3セット目が始まる前に溝口の呼びかけで皆が
集まり、そこから話し合いが始まった。


「多分もう神業速攻のサインは変えてきて
いるよな?」


『くれもこいも言わなくなったしね。』


「単純なサインだから、きっと替えがいくら
でも聞くんだよねー。それも多分単細胞っ
ぽい、本人達では無く外の奴だ。」


及川と美月は誰かと言う事を確信を持つ
様に互いの目を見て頷いた。


「それでも何かを見分けるヒントは…」


金田一の質問に松川はドリンクを飲みながら、
観察した時の日向の様子を思い出そうとして、
頭を働かせる。


「球を長く目で追っているようなら普通の速攻、
ただ突っ込んでいる場合は神業?」


「確かに10番事態を見るのがいいか。」


松川と花巻にはい!と金田一が返事をすると、
監督と美月は少し心配をするように言葉を
発そうとすれば、及川がそれを遮った。


「でもあくまでチビちゃんは優秀な囮。」


『皆が日向君を注目したら、また飛雄達が
それを狙って何かを仕掛けてくる可能性も
侮れないもんね。』


2人が目を見合わせて、納得するように微笑み、『そこを忘れない』「オッケー?」と言葉を
繋げるとみんなが返事をし、美月は
『頑張ってね!』と皆の背中を叩いて、
3セット目へと臨んだ。

試合が再び始まると、互いに点を譲らない形で
ラリーが続くプレイが前のセットよりも増えて
来ていた。


『英、いい感じ!』


「えっと、…ダレだ?」


『国見ですよ、さっきお願いされちゃって。』


「おぉ…突然だな。」


国見のフェイントは西谷に拾われ、東峰の攻撃
を及川が受け、彼がトスを上げられなくても
こちらは困った様子を見せることは無かった。


『出来る限りしてくれるもんね。』


岩泉のレフトと呼ぶ声に渡が踏み込んで跳び、 ボールが着地する前に上手く上げていく。


『うちのリベロは守備だけじゃない。』


ボールは岩泉へ向けたものではない。
それは素振りだけで、及川が助走を付けて
後ろから叩きつける。


『徹ナイスキー!』


2桁に乗ったことを喜ぶ美月は2人のファイン
プレーに小さくガッツポーズをしており、次の 及川のサーブは澤村が止め、東峰の攻撃へ移る も花巻が拾うが、それはネット際へと飛んで
行ってしまう。


だが及川はネットに触れないようにそれを飛び
越え、日向が押し込む前に無理矢理岩泉の速攻
へと変え、1点得た所で烏野がタイムアウトを
取ることで、彼女は2度目のガッツポーズを
とった。


『渡、有言実行偉い偉い。』


よしよしと目一杯甘やかそうといわんばかりに
美月は渡の頭を撫で始め、渡も嬉しそうに
彼女を受け入れていた。
そして、及川と岩泉とは楽しそうにハイタッチ
を交わした。


「まだまだ油断禁物よー。」


『わかってますよ、花巻さん。』


こちらが2点追い上げて、忘れた頃に月島の
フェイントを受けるので、美月はまだ冷静に
流れを見る事は出来ていた。


だが、それは向こうがどういう風に仕掛けて
くるかまではまだ読み切れず、ただただ、試合
の流れを見守って行く。

そしてその冷静さも途端に彼が中に入れば、
彼女の不安へと変わっていった。


彼が決して上手いわけじゃない、特別に
強いわけでもない。
でも何かを乱される気持ちになるのは
どうしてだろう。


日向がコートに入ると、そしてそれが前衛に
いるだけで、及川も美月も表情が笑顔から
ふと変わる。


影山と日向の目付きに吸い込まれそうになり
ながら、烏野のチャンスボールが回ってくる。


『一体、どこまで行く気よ。』


影山がトスを上げれば、日向が空間を駆ける
ように端まで切り込み、ブロックが届く余裕
も無く、地面へと叩きつけられる。


『…焦るな、みんな。』


ローテーションを早く回して、日向を後衛へ
着かせようとして攻め込むも、向こうも粘る
ので、なかなか次へと回させてはくれない。


3回連続で移動攻撃を続ける日向をこちらも
屈することなく守るが、日向に集中をすれば
他方からの攻撃がこちらに迫ってくる。


『…好き勝手しないでよ。』


「フリーで打たせてたまるか!」


日向が再度速攻を使ってくるも、それを阻む
ように岩泉と松川が日向に向けてブロックに
付けば、影山のトスは東峰へと渡る。


及川1枚のブロックは貫かれ、彼らに惑わされた
憤りから美月は歯を食いしばると、ぎゅっと
握り拳を作った。


烏野に同点に追いつかれることで、いつの間に
か取り乱している自分に美月は焦り、切り
替えようと悔しがる松川と岩泉にかける言葉を
探していると監督がタイムアウトを取った。


その合図で美月は我に返るようにドリンクと
タオルの準備を始める。


『あの子に取り乱された。』


肩で息をする皆の辛さを美月は彼らと一緒に
感じ取りながら、余裕が気がつけば無くなって いた自分に悔しさを出しながらタオルを渡す。

嫌な自分を見せてしまったことに懺悔する様に
岩泉達に伝えれば、松川も岩泉も何も言わずに 彼女の頭を撫でるだけだった。


「どうする、あの10番の移動攻撃。」


花巻の言葉に皆が一斉に黙り込み美月も脳を
働かせそうと作業の動きが止まる。


焦るな、考えろ、自分。皆に余計なエネルギー
を使わせちゃダメだ。


時間が迫ることによって焦りを感じれば上手く
頭が働かず、それが余計に自分自身を苛立た
せる。


「あの移動攻撃、捨てようか。」


監督の言葉に皆が驚くように一斉に顔を上げ、
彼を見た。


「捨てるって…どうゆう…!?」


「神業の方だ。すごいスピードだけど、
その勢いで体が流れて、コースを空中で
打ち分ける余裕はないんじゃないかな?」


慌てるように質問をする金田一を及川が
わかりやすいように説明をすれば、監督は
彼の言葉に同意するに頷いていた。


『コースが決まっているのであれば、
視界を広げる…確かにそれが今のベスト
かもしれないね。』


「あの移動攻撃はブロックでは無く、ディグで
対応しよう。」


「ハイ!」


「止められないブロックはレシーブの邪魔を
するだけだしな…。」


「どんなに苦しい時でも、互いの意思疎通と
考える事を忘れるなよ。」


話が纏まると、監督は補足を入れるように彼ら
に呼びかけた。
皆と返事と共にタイムアウトが終了して、
美月も気持ちも少しだけ霧が晴れた様に
見えていた。

互いに一点ずつを奪い合い、金田一のサーブを 西谷が受け、向こうのチャンスボールになった
ところで、移動攻撃に移る所を美月は落ち
着いた様子でボールの動きだけを見る。


渡が綺麗に拾い、彼の表情を見て視界良好だと 確信し、及川の元へボールが届けば、彼は
上げるふりを見せながら、ツーアタックで
落とし、向こうの一瞬の同様を畳み掛けた。


『徹、ナイス!』


皆の気持ちが切り替わるいい流れで、ここで
及川のサーブが回って来て、美月は少し
だけ安心した気持ちになっていた。


『このまま、乗っていこう!』


彼が打つサーブはネットに引っかかるも、運が
良く相手側のコートへと入り、美月はヒヤッ
として『きゃっ。』と声を漏らすが、入れば
『ラッキー!』と彼に声を掛けた。


『大丈夫、今ならキてる!!』


再び及川がサーブを打てば、いいコースで烏野
を乱し、向こうが何とか攻撃を仕掛けると、
こちらも上手く止めて反撃をする。


『東峰君は手を出せない。』


点を繋げるように東峰が落とさず拾い、西谷が
アンダーでセンターの日向に期待を乗せて高く
上げる。


「ぶち抜けぇぇぇ!!!」


「止めろおォォォォ!!!」


流れは、私達だ!!!


日向が打ち込んだボールは、3枚の高いブロック
が阻み、岩泉の手に弾かれて、ブレイクに持ち
込んだ。


「っしゃあああ!!!」

『よっっっし!!!』


烏野が流れを切るように2回目のタイムアウト
を使い、美月はすぐに準備に取り掛かる。


彼の邪魔にならないようにドリンクを座る幅の 少し右手に置き、及川と言葉は交わさないまま
タッチをしながら入れ替わり、彼の方にタオル
をかけて、ベンチの方へと座らせた。




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