たまには貴方と
『徹、デートしよっか。』
「うん。ん?…うん??!!!」
昨日の熱気と悔しさがまだ冷め切れない翌日、
春高まで残ることを皆が決意して、次に向けて
前を向こうとしていた。
春高まで時間はわずかだと頭では分かっていて
も、昨日の名残からどうも力が入らず、及川は
教室で窓の外の景色をただ眺めていた。
本日は疲れを取るために練習は無くなり、美月は
及川の教室へと向かえば、ぼーっと力が抜けた
ように座る及川を見つけたら、彼女はいきなり
彼にそう言い出したので、及川だけでは無く、
及川のクラスメイトまでもが驚いて、彼女達の
方を一斉に見ていた。
『デートしよう。』
この言葉は夢なのか幻なのか。
もう一度聞き直せば、それは聞き間違いでは
無く、確実にデートという単語をハッキリと
彼女は発している。
間違いなくこれは、現実だ。
「もちろん、喜んで。」
待ち合わせの時間を言われれば、彼女から
今までそんな誘いを受けたことが無かった
及川は、その時だけは正気を取り戻して、
すぐにOKを出すも、彼女が出ていけば呆然
として、そのまま彼女が通った扉を見つめて
いた。
「おい、及川のやつ息してるか?」
「奇跡が起きて、固まってるよな?」
及川のクラスメイトは、岩泉のクラスとは少し
違って、色々と不憫に見える彼に多少応援気味
のご様子で、やっと巡ってきた彼の幸運に、
周りは少しだけ彼に祝福をした。
その後の時間は妙に長く感じてしまい、やっと
終わったとゆっくり腕を伸ばせば、「徹ー。」と
彼の名前を呼びながら、美月がひょっこりと
及川の教室から顔を出していた。
そんな仕草も愛しくて、及川は彼女を見て
愛しそうに目を細め、彼は「お待たせ。」
と彼女へ声をかけた。
「岩ちゃんは?」
『今日は、英語の補講受けるって。』
「え、岩ちゃんが!?珍しい。」
『私達も一応受験生ですからね。』
私は今日は得意項目だからパスと手をヒラヒラ
とさせて、岩泉がいる教室を通り過ぎれば、
彼女は岩泉に手を振った。
合わせて及川も手を振れば、岩泉は最初は
美月に手を振りそうになるも、隣の及川を
見て、眉間に皺を寄せればその手を止めて
いた。
岩泉も美月と同じく大学進学を目指して、
2年生から勉強を頑張っていたことは、及川も
ちゃんと分かってはいる。
ただ、昔から一緒だと机に齧り付く彼が想像
出来ないため、少しだけ及川には可笑しくて
笑えてしまった。
そして、補講のおかげで絶対いつも一緒になる
のが、今日は2人で過ごせることになり、及川は
このタイミングに心の中で感謝をした。
『徹もハジメも要領がとてもいいから、
時間かけなくても理解するのが速いから
すごく羨ましい。』
「美月だって似たタイプじゃん。」
『私は記憶力だけだから、またタイプが
違うんだなー、これが。』
違いがわかんないしと笑いながら二人並んで、
他愛の無い話をしながら歩いている。
このまま手を繋いでしまいたいけど、さすがに
それをしたら、彼女は他の女子の目を気にして 怒ってしまうので、及川は必死に彼女の傍に
ある右手を制服のポケットにしまった。
『及川はやっぱりバレーの強豪狙い?』
「んー。大まかには決めてるけど、
まだ今のところ、未定かな。」
『実際の学校の雰囲気次第なとことか
あるよね。またオープンスクールとかも
行かなきゃだよね。』
真面目な話になる時は大体バレーか進路の話
で、彼女は『ダメダメ、今日は息抜き
だった!』と首を降って、それ以上の話は
切り上げる。
『ちょっと今日は付き合って欲しい所が
ありまして。』
「何処でもお供しますとも。」
彼女がそう言って一緒に向かった先はスポーツ
ショップで、何がいるの?と及川は聞いて
しまったことを及川は後になって後悔をする。
「もしかして、見たいものって。」
『ハジメの誕生日プレゼント。』
徹と一緒に選びたくてと悪気なく微笑む彼女を
誰も責められる訳が無い。
でも、せっかくの二人きりのお出かけなのに、
親友でもあるが恋敵のプレゼントを選ぶとは
思わなくて、及川はがっくりと肩を落とす。
『来月、徹も誕生日だもんね。
せっかくだし、徹とハジメで二人で
お揃いのモノとか買っちゃう?』
「止めて、絶対に岩ちゃんが怒るから!」
無難にタオルとかじゃない?と及川が手に
取れば、そこには岩泉の好きな怪獣のキャラ
クターが置いてあり、彼女をそれを見れば
『それいーね!』と言い出して、意外と
プレゼントはすんなりと決まってしまった。
「美月がデートって言うから、
ちょっと嬉しかったのに。」
大事そうにプレゼントを抱える彼女を
見て、及川は拗ねた様子でそう言った。
『ごめんごめん、ハジメさんいない時
じゃないと選べないじゃん?』
「そーだけど、デートじゃない。」
『そうだよね、徹を騙したみたいな形
になってしまって、ごめんね。』
でも、ここからはちゃんと私と徹だけの時間
だよ!なんて言われてしまえば、口元なんて
すぐに緩んでしまって、及川はつい彼女を
許してしまう。
ここはへそを曲げている時間よりも、彼女と
過ごす貴重な時間を何よりも大事にしたい
所だ。
『行きたいとこ、何処でもお供します。』
「うーん、どうしよっかな。」
とりあえず、アイス食べようか!と結局は及川
の行きたい所ではなくて、どうせ行くならと
美月を喜ばせたい所へと及川は我慢していた
右手をポケットから抜いて、彼女の手を繋いで
店へと足を運ばせる。
『それはちょっと、徹!!!』
「いーの、誰も俺たちなんか見てないし!」
そんな言葉はもちろん嘘で、及川を見かけた
女子が声をかけそうになれば、彼は人差し指を
口元に当てて、今日は邪魔をされないように
先手を打つ。
某アイス店で3種類のアイスを頼んだら、2人が
向かい合って座って、1つの大きなカップを 仲良く分け合っているので、傍から見たらそれは 唯のカップルにしか見えなかった。
そんな事をしてくれる日なんて、滅多にない事 なので、及川はこの状況だけで十分満足をして
いるようだった。
大好きなアイスを美味しそうに頬張る彼女を
頬杖付いて見ていたら、嫌なことなんて吹っ
飛んでしまいそうになって、及川は美月のその
表情を見て微笑んでいた。
『ん、なになに?』
「ん?幸せそうだなーって。」
『うん、確かに今幸せかも。』
美味しいよーとふんわりとした表情で、微笑む 彼女を見たら、昨日の平然を装いながらも、
裏では悔しさを噛み締めて、泣くのを我慢して 堪えていた事を及川は知っており、彼女の本当
の笑顔を見た及川は安心をした。
『よかった。』
「何が?」
『徹が思ったより落ち込んでなくて
安心した。』
美月はそんな及川の頭の中は知らずに彼女は
及川とある意味で両想いというのだろうか、
及川が落ち込んでいないかの心配をしていた。
美月が及川の教室を通り過ぎた際に力が抜けた
様に呆然と一点を見て、席に座ったままの及川 を見たら、気分転換をさせねばと使命感を
感じ、美月は体が動いて、そのまま前半の
行動に出てしまったと彼女は言う。
『主将もちゃんと息抜きしないとね。』
「そうだよね、休息も練習の一つだしね。
とりあえず、美月のその顔見たら、
元気出た。」
『アイスは正義!』
「ほんと、美月は昔からアイスが
大好きだよねー。」
やっと普段の表情に戻った及川を見て、美月は
優しく微笑み、徹も幸せになりましょうと
スプーンで掬ったアイスを及川に差し出した。
及川もそれを口にすれば、美味しい!と2人で
笑いあって、彼女が自分の為に作ってくれた、 この幸せな時間をもうしばらく堪能することに
した。