後輩からのお願い
その後の及川と美月は2人でゲームセンター
へ行ってみたり、買い物をしてみたりと、普段
は練習で行くことがない所へ足をのばして、高校生らしい遊びを今できるうちにと楽しんだ。
「あー、めっちゃ楽しかった!」
『徹がその言葉を聞けたなら何より。
私もスッキリしたー!』
「美月、お腹空かない?」
『うん、空いた。』
このまま晩御飯もついでに食べて帰ってしま
おうかと、及川はご機嫌のままファミレスに
寄り、窓際の席に座ろうとした所で、花巻と
松川に捕まってそこで及川の幸せな時間は終了
を迎えた。
「ファミレスじゃなくて、カフェとかに
すればよかった!」
『カフェだと徹が物足りないでしょ。
私、好きだよ?ファミレス。』
「美月そういう意味じゃない!」
手で顔を覆ってシクシクと泣いた振りをしな
がら嘆く及川の背中を撫でながら、美月が
ヨシヨシと慰める向かいで、花巻はニヤニヤと
頬杖ついて笑いながら、松川は甘いなと言いな
がらメニュー表を見ていた。
「贅沢な!ちゃっかり美月とプリクラ
まで撮っておいてそれ言うかよ。」
「マッキー、羨ましい?可愛いでしょ、
美月と俺。」
「いや及川、なかなか腹立つ顔してる。」
「え、まっつん止めてよ。ちょっと、
俺の顔にベタベタ指紋を付けないで!」
及川の美月が並んで座る向かい側で花巻と松川
のそれぞれの厳しい感想に美月がくすくすと
笑っていると、彼女のスマホが振動するので
彼女はそれを手に取った。
『あ、ハジメから電話来た!
…もしもし、ハジメ?うん…うん。』
「及川、随分と楽しそうじゃねーか。」
岩泉に及川に変わってくれと頼まれて、美月が
及川の耳へスマホを当てると、眉間に皺を寄せ、
及川を睨むように窓から覗いている岩泉を
美月が発見し、及川からはそれを目に
すれば背中から冷たい汗がどっと流れた。
美月は急いで買ったものを鞄に隠して、
岩泉も合流すれば席替えだと称して、岩泉と
松川が挟んで美月の隣へ座れば、いつもの
メンバーが揃っており、それは昨日の打ち上げ
の雰囲気で、ジュースを手にして乾杯をした。
「うぇーい、お疲れー。」
「春高行くぞー。」
「ノリが軽いな。」
ケロッとした顔でそう言い退ける松川と花巻達
を見て、岩泉は潔さに少しだけ感心しながらも
あまりの軽さにその言葉が出てしまっていた。
「…切り替えてかなきゃ、スグっしょ。」
「考えてたらキリがねーしな。」
「まぁ、そうか。」
「もう、お前らが冷静すぎて、主将は
悲しいんだけど。」
ふざけた素振りを見せながらも、心の奥は真剣
そのもので、それがわかっているからこそ美月も
このメンバーが本当に大好きだった。
彼らのそんな素っ気ない態度に少し気持ちが
救われた気がしていた。
『また練習メニューを試行錯誤ですね。
あと、期末もあるしねー。』
「うわ、そーいえば期末もあったな。」
『ハジメはバッチリそうだね。』
「モチ、後はお前のヤマ次第。」
「美月、ほんと当てるの上手いもんね。」
「俺と美月も対策バッチリ。」
「俺も美月と勉強すっかな。」
『花巻も混ざる?「だが、断る。」』
「松川、拒否がはえーよ!」
松川は話を逸らすように美月にこれ食うか?
とハンバーグを1口差し出せば、彼女も嬉しそう
に口を開けて、松川にいつものように餌付けを
される。
美月もお返しと言って、松川にオムライスを
差し出せば、本当は俺とする予定だったと及川
が悔しそうに二人を見ていた。
すると、突然テーブルに置いてい美月のスマホ
から着信音が流れ、その画面の名前をつい見て
しまうと、皆が目を見開いて見る。
彼らが驚いているうちに、美月は電話に出て、
その相手と話を始めていた。
『もしもし、飛雄どうしたの?』
「美月さん、突然すみません。
今、時間とか大丈夫ですか?」
『うん、ちょっと騒がしい所で電話しても
飛雄が大丈夫なら。』
「俺は大丈夫です。…ちょっと美月さん
に相談があって…。」
電話の相手はまさかの烏野の影山で、何か困ったこと
が起きて彼女に電話を助けを求めて掛けてきて
いるようだった。
うんうんと頷きながら、話す美月はいつも以上
に優しい口調で、それが気になって周りも
つい静かになり、彼女が気になって仕方が
ない様子。
「…勉強を教えてもらうことって、
出来ますか?」
『もちろん、いいよ。だけど…どうする?
時間合わないよね。練習が終わってから
ウチに来て泊まってする?勉強…』
美月の向かいで耳を澄ましていた及川が
お泊まりというフレーズを聞いた途端、腕を
伸ばしたら美月のスマホをすぐさま横取って、
「は、何言ってんの?」と彼女の返事とは違った
答えを冷たい声で影山にぶつける。
「及川さん?…そこにいたんですか。」
電話越しの影山の声は及川の声を聞いて、
あからさまにテンションが下がった声色で、
それが余計に及川を苛立たせた。
「美月がお前なんかに時間を割いてやる
必要なんかないもんね!
赤点に苦しめ、バーカバーカ!」
「うわぁ、小学生みてーだな。」
一方的に及川がそう言って電話を切ると、美月に
スマホをはいとお返しする。
花巻はそんな彼を少々引き気味の目で見て
おり、美月は彼の大人気無さに呆気に取られ、
酷い!と言いながら及川を怒った。
『後輩にムキになることないじゃん!』
「美月が飛雄を甘やかしすぎ!」
『だってすごく困ってるみたいで、
切羽詰まった話し方してたから。』
「はい出た、美月の可愛い後輩が
ほっとけない病。」
『もー、花巻まで人を病人扱いして!』
「いや、にしても泊めようとするなよ。」
「影山といえど男だぞ?さすがに、
2人きりだと何するかわかんねーよ。」
3対1で責められれば、美月もさすがに観念し
たのか、影山に力になれずにごめんねと
メッセージを送って、そっとスマホを閉じ
たら、食べかけのオムライスを再び口にした。
『じゃあ、今度からハジメも徹も
私の家でお泊まり会できないね。』
彼女の一言で、及川も岩泉も何も言い返せず
に、「え?」「あ?」と2人は言葉を詰まらせる。
『だって、男の子は何するかわかんないん
でしょ?』
「俺達は何もしねーよ!」「神に誓って!」
2人が声を揃えて美月に必死にそう言えば、
また一歩、自分達のせいでその先に進めない事
に気がついて、心の中ではしまった!と2人は
後悔をする。
「あーあ、墓穴掘ってやんの。」
「俺も美月の家に行ってみたい。」
『全然大丈夫だよ、今度のオフの日は
ウチで勉強しよっか。』
ゲラゲラと笑う花巻の横で、松川がさりげなく
美月の家に遊びに行く交渉をすれば、及川が
すかさず俺も岩ちゃんもその日は行くからね!
と2人きりは阻止しようとする。
花巻がじゃあ俺も!と言い出すと美月は笑い
ながら部屋に皆は入り切らないと困ったように
笑って見せて、彼らは彼女の笑顔に釣られて
笑っていた。
「じゃあ、及川の家で。」
「いや、何で俺の家?」
『ダメダメ、徹の家は心地良すぎて、
私つい部屋でゴロゴロしちゃうから。』
「は?」「お?」
「…美月のお馬鹿。」