後は任せろ

本日、梅雨時期とは思えない程の太陽が焼け
つくレベルの快晴で、期末試験前の息抜きと
いったところか、全校クラス対抗での球技大会
が行われた。


女子は室内でバレー、男子は野球と男女別で
別れた形となっており、今日に限っての炎天下
は少し彼らには、辛い部分となっていた。


「松川、お疲れー。」


「そっちももう終わった感じ?」


花巻も松川も1回戦で敗退すれば、自由の身と
なるので、残る仲間の試合を見ながらのんびり
と過ごしており、及川は2回戦で惜しくも負けた
らしく、「クソっ、負けた!」と負けず嫌いの男
は悪態をつきながら、彼らと合流をする。


残るは岩泉のいる5組で、今は3年2組とと試合
をしており、彼らはその試合を眺めている模様
で、頑張るよなーと花巻は感心するように彼ら
のクラスを見ていた。


時間の都合上、5回までして試合終了。
今まさにその5回目を迎え、このまま岩泉達が
点を取らせずに抑えれば、即試合終了となって
いた。


「美月は、今頃楽しそうにスパイク
決めてるかな?」


「…それがなー。」


「及川、アレ見てみろ。」


及川は彼女が今頃何してるかをのほほんと呑気
に考えていると、花巻が苦笑いを浮かべ、松川
がそう言って指す方向へと目を向ける。


一人綺麗なフォームでピッチングをしており、
岩泉はキャッチャーで、パシッといい音で投げ
られた鋭い球をしっかりと受け止めている。


そのシルエットを見れば、誰かなんてすぐに
分かるので、それを目にした及川は目を丸く
させ、今度は松川の顔を見た。


「えっ、まさかアレ美月!?」


「そう、まさかのアレ美月。」


よくよく見れば、髪を1つのお団子で纏めて
いて、3-5と書かれたお揃いのTシャツを身に
纏い、彼女は安全対策なのか、キャップを
被っていたので、一瞬誰かはわからなくなって
いた。


「さっきから、いい球投げんだよな。」


「岩ちゃんの遊びに付き合って、
昔、野球も少しやってたもんねー。
バッティングセンター遊びにも行くし。」


「マジかよ。男の中に混ざれるって。」


「楽しそうでなにより。」


3人は彼女と岩泉を暖かく見守り、彼女が最後の
一球を思い切り投げると、見事にそれは三振を
取ることができ、試合は3-0でゲームセット。
そして、彼らは次の試合までは一旦休憩に。


美月は3人を見かければ嬉しそうに帽子を
脱いで走り出し、後ろから「コケるぞ!」と岩泉
が注意しながら、彼女の後をついて行くように
一緒に来た。


「美月、お疲れー。」


「俺、聞いてないんだけど?」


『ごめん、徹に言ってなかったね。』


「女子のバレーは美月がチート扱いで、
コイツいると絶対に優勝確定だから、
今回は、こっちに回されたらしい。」


岩泉の説明を照れ臭そうに彼女は舌を出して
誤魔化して、それを聞いた彼らは、容赦なく
攻撃を仕掛ける美月を想像して、なるほどね
と皆が納得をする。


「…で、まさかのピッチャー。」


「内野も外野も誰かとぶつかって
怪我したら危ねーかなと。」


「そこで投げさせる岩泉もすげーし、
投げる美月もすげーわ。」


『すっごく久々で、楽しい!』


美月が目を輝かせて皆にそう言うと、松川は
よかったよかったと彼女をあやす様に頭を撫で
れば、ペットボトルのジュースを差し出した。


美月がそれを受け取って美味しそうに一口飲む
姿を羨むように目にしながら、花巻は岩泉へ
話しかける。


「で、今回の優勝のご褒美は?」


「担任がクラス全員にアイス奢り。」


『しかも、なんと某高級アイス!』


「あー、だから頑張ってんのね。」


彼女が嬉しそうにそうそうと言って頷いている
と、次の試合の呼び出しが来て、松川にペット
ボトルを返したら、『また後で!』と手を
振り、岩泉と次の試合に向かった。


「及川さん、美月がアイスに釣られて、
いつか変な目にあわないか心配。」


「それは同感。」


及川と松川は彼女心配そうに見届け、次の試合
を応援するため、彼女達がよく見える位置へと
移動する。


すると試合を終えた後輩達も揃っており、美月の
存在に気がつくと、彼らも彼女を見て驚いて
いた。


「美月さん、投げるんですか!?」


「しかも岩泉さんがキャッチャー!?」


「な?ビックリだろ?」


ピッチングの調整をする姿を見ながら、2人は
呆然とし、矢巾は次の試合相手を見ると顔を
歪ませた。


「どうしたの、矢巾ちゃん。」


「…次の試合、2年1組だからアイツがいる
ところなんですよ。」


「ふーん、そうなんだ。」


二人の会話を聞くも金田一は何の事かわからず
首を傾げ、もちろん驚いていたのは美月も一緒
で、相手の中にいるその人物を見れば、すぐに
岩泉に声をかけていた。


『ハジメ、ハジメ!次の試合の相手、
京谷のクラスだったみたいだね。』


「どっかで見た奴がいると思ったら。」


京谷賢太郎。
バレー部の部員だが、練習には今現在参加して
おらず、美月はここでが久々の再会となる。

昨年のマラソン大会で岩泉に既に負けていた
らしく、今回も闘志むき出しでこちらを見て
おり、美月はそれに苦笑いを見せた。


『元気そうでなにより。』


「向こうが本気ならこっちだって容赦なく
行くぞ。」


『…ですね。』


彼女は頷いて帽子を被り直せば、岩泉はシャツ
の袖を捲り上げる。

二人の気合いも十分に、気がつけばその試合の
ギャラリーも増え、彼女のクラスメイトの女子
達も美月の応援に駆けつけていた。


「美月はカーブも投げるのかよ!」


「アイスの力、すげーな。」


岩泉の指示通りにきちんと投げると、何とか3回
までは投げ切るもさすがに美月の体力も限界
が来てしまい、京谷に力に適わず打たれて
しまった所で野球部の男子と交代をした。


「美月さん、よく投げましたね。」


「美月も負けず嫌いだからねー。」


抜けた美月は応援に回り、点は向こう
に一点ばかり押されるも、表では何とか彼らを
押さえ込み、5回裏となり、これが岩泉と美月達
の最後の攻撃となる。


クラスメイトが京谷の球を打てないまま、次の
打者を気にすれば先程の悔しさを巻き返すよう
に今まで投げるだけだった美月がバットを
持ってバッターボックスに立ち、彼女が構える
姿を目にすれば、京谷もさすがに驚いて目を
見開いた。


『京谷、久しぶり。』


彼女が口角上げて笑うが、彼はそんな彼女に
返事をすることは無く、鋭い瞳で彼女をただ
見つめていた。


『私はここじゃなくて、体育館で会いたかった
んだけどね。』


「…女だからって手は抜かねーぞ。」


京谷は彼女の言葉を遮るように投げ込む体勢を
見せるので、彼女もつい力が入る。

一球目は彼の言った通り、ストレートの速球が
投げられたので、彼女は様子を見ながら、
その球は冷静に見逃した。


『いや、力で適わないのはさすがに
こっちだって、わかるからね。』


次の球が投げられたのと同時に先程よりゆるく
なったのを美月は咄嗟に判断し、バットを
振らずに先端を持ってボールに当てると、
コロッと転がる所で、彼女は勢いよく走り
出した。


「上手い、バントで流した!!」


「美月、走って走って!!」


及川もつい彼女を必死に応援して、ファースト
ベースまで滑り込むと、よしっとガッツポーズ
を見せれば、その光景は見事に普段と逆転。


彼女は及川にピースサインを見せて、次の岩泉
に『かっとばせ、ハジメ!』と口を手に当てて、
声を張って彼を応援する。


「期待には添わねーとな。」


ニヤリと笑いながらバッターボックスに立て
ば、京谷も一瞬彼に怯みそうになる。でも、彼
の中では1番倒したい相手の為、その顔つきは
すぐに変わった。


今までで最大限の力で岩泉に投げ込むも、岩泉
は「甘い。」と零しつつ、しっかりと足は踏み
込んで、容赦なくその球を打ち返す。


「岩泉が打ちよったー!」


岩泉の見事な逆転ホームランに、歓声が沸き
あがり、美月も嬉しそうに1周走り、あと
から走ってきた岩泉へ嬉しそうに飛び付くよう
に抱きつけば、岩泉も両手広げて彼女を抱き
とめて、勝利の喜びを分かち合った。


「牧野と岩泉って付き合ってんの?」


「付き合って、ま、せ、ん!!!」


あまりにも仲が良すぎる雰囲気にクラスメイト 以外の周りがザワつくと、及川は彼らの話に
入り込んで妙な話はシャットアウトしている
と、必死な主将に仲間たちは苦笑い。


互いに挨拶をする際に、悔しそうな顔を見せる
京谷と再び顔を合わせると美月は、『待ってる
からね。』と優しく微笑み、京谷は何も言わずにそのまま彼女から顔を逸らした。


彼が戻るかどうかはまだ少し先のお話。



「美月、優勝おめでとー!」


『ありがとうー、ってわ!このアイス
どうしちゃったの!?』


「お疲れだろうから、俺達からのご褒美。」


「それ食べたら、こっちの練習も頑張って
くださいね。」


『嬉しい、ありがとうー!』


「おいクソ川、どうして俺にはない。」





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