嗜好品は知られたくない
「で、お前らさ。俺に言うことある
んじゃないの?」
部室の中で珍しくふてぶてしく足を組んで座る
松川に花巻、及川、岩泉は罰が悪そうに顔を
顰めながら松川を見ていた。
「わ、悪かった。」
「美月が必要な教科書が家にあるって
言うからさ。」
「まっつん、ごめんってば。」
「こちとら、久々に熱で魘されてたってのに、
何自分達だけ楽しいことしちゃってんの?」
1日休息を取ればすぐに復活をした松川は、
自分が寝込んでいる間に自分が行く予定だった
美月の部屋に花巻だけが行くだけではなく、
彼女の手料理を3人は堪能して、かなりのご立腹
な様子だった。
自分を置いてそんな抜け駆けをしてもちろん
許される筈が無い。
美月がいない部室で、3人が彼の足元で姿勢
良く正座をしているので、後輩はそれを不思議
に思いながらも松川の態度を見れば、声をかけ
る勇気は無かった。
ちなみにこの空気を変えてくれる美月は只今
補講を受けている為、しばらくここには入って
こない。
「それぞれ誰かが不調の時はさ、試合が
ちゃんと終わるまでは抜け駆け無しって
決めてたじゃん?」
「いや、早めのテスト勉強だから。」
「花巻、例外とかないからね。」
松川が突然、ダンボール箱を3人にチラつかせる
ように見せれば、彼らは狼狽える様子を見せる
ので、松川は3人の反応を目にすれば、不敵な
笑みを浮かべた。
「まっつん、それは!!!」
「どーしよっかな、美月が掃除する時に
目に入らないように隠していたアレ、
出してやろうかなー。」
「お前!それだけはやめろって。」
「でも、前に決めたよな?
抜け駆けしたら美月の目の前に置いて、
白い目で見られるようにするって。」
「わかった、松川。要件はなんだ。」
まるでそれは、爆弾を持った犯人に交渉をして
いるような状態で、3人は冷や汗をダラダラと
流しながらその箱を彼女には見せるなと願う。
「あの箱って確か…。」
「あー、何か先輩達の。」
箱の中身が何なのかかをわかった国見と金田一
は脅し文句に使われているそれを見て苦笑い。
「んー、今傷心中だから癒されてーなー。
なぁ…どうするお前ら?」
「…いた仕方ねぇ。」
すると、岩泉がスタスタと黙って自分の
ロッカーからスマホを取り出し、松川に
近寄ると何かを見せ始める。
「何これ。」
「家から出てきた、昔の美月の写真。」
彼が松川に見せたものは、美月が中学校の頃
の写真で、無邪気にバレーボールを抱えて笑う
笑顔は、今と変わらずで、それに加えて今とは
違うセーラー服に新鮮さも追加されて、その
可愛らしさから思わず松川の口元は緩む。
「今、お前に送信した。」
「岩泉…合格。」
「おっっし!!!!」
「マジかよ!!!」
「岩ちゃんずるい!それなら俺だって
持ってた!!!」
悔しそうに嘆く及川にうるせぇ、早いもん勝ち
だろ!と岩泉は怒りながら、自分はその爆弾
から回避され、安堵の息を漏らした。
「あ、松川先輩に何かを献上すれば見逃して
貰えるみたいだね。」
「松川さん、相変わらず怖ーよ。」
国見は先輩達の交渉を少し面白がり、金田一は
震えながらそれを見ている。
「美月さん、中学校の頃から既に
可愛かったからなー。」
「確かに、セーラー服も似合ってた。」
「それを見てるお前らがちょっと羨ましいわ。」
免れた岩泉が捧げたものに金田一が納得をして
いると、矢巾も彼女の写真が気になるのか、
松川を羨むように様子を伺った。
すると、花巻もこれだけは譲りたくは無かったが、と少し躊躇いを見せながら、ロッカーから
何かを取りだし、松川に受け取れと惜しみ
ながら捧げる。
松川もこれは!!!とそれを見れば目を見開き、
手を震わせて驚くので、岩泉も及川も何なのか
気になってしまい、彼の両隣からそれを覗いて
見れば、いつの間に!?と2人は驚愕する。
「…どうよ?」
「今度シュークリーム奢るわ。」
「逆に感謝してるし!!!
マッキー、それどこで手に入れたの!?」
「今日、丁度仕入れてきた。
今度の文化祭の展示用作品だと。
モデル頼まれた話聞いてて、同じクラスの写真
部の奴と交渉して、色々奢った上でゲット。」
「え、俺達全然聞いてないんだけど。」
「まぁ…お前らが聞いたら、コレは
絶対にさせねーよな。」
「アイツ、まさかまたアイスに釣られて
やってねーだろうな。」
「いやー、もう勘弁してー。」
それは綺麗にファイルに入っていて、その中に
は美月の姿があり、それは普段は絶対に見る
ことの出来ない、化粧をされて着飾られた
花魁姿。
これは芸術だと主張されれば確かに美しく、
何も言い返せない。
妖艶な眼差しで煙管を甘噛みして緩く着崩し、
足元の露出は控え目だが、隠しきれない胸元の
主張はバッチリと写っており、思わず4人は
ゴクリと固唾を呑む。
「美月の胸、これ自前だよな?」
「…うん、絶対に自前。」
松川と及川は確認を取るようにお互い頷けば、 どこ見てやがる!と怒る岩泉も視線は同じ。
「おい、美月は盛らずにコレかよ。」
「まさか、男が撮った写真じゃねーだろーな?」
「大丈夫、撮ったのは女子!
美月に化粧すれば誰かわかんねーから
って嘘ついて、お願いしたらしい。」
「その写真部の子、グッジョブだけど…
グッジョブなんだけど…!!!」
「女子じゃなかったら殴ってる。」
ジリジリ寄る後輩達が目線に入り、松川は特別
だぞ?と後輩達にもその写真を見せると目を 丸くして驚いていた。
「国見、お前大丈夫か?」
「お願いですから、今は触らないでください。」
「クールな国見までも魅了したか。」
前屈みになる国見を心配して花巻が声をかける
も、何が起きたかは察して、そのまま彼を
そっとしておく。
もちろん、それに魅せられた他の後輩も
それぞれ面白い反応を見せるので、及川は
これ、文化祭で飾るの本気?と顔を引き攣ら
せた。
「てか、こんな秘蔵写真お供えされたら、
俺の後のモン全部霞んじゃうじゃん!」
「確かに、これを越える写真はここには
無さそうだな。」
「ちょっと岩ちゃん、何勝手に人のフォルダ
見てるのさ!?」
「あ?ロック美月の誕生日入れたら
あいたぞ?」
「うわ…まじかよ。さすがに引くわ。」
松川が青ざめた顔で腕を擦り、いつの間にか、
及川のフォルダを岩泉がスクロールしながら
確認し、及川は勝手な行動に悲鳴をあげる。
そこには、いつの間に撮ったのか美月の写真
が沢山あり、この前の球技大会の時もちゃんと
写真に収めていた模様。
「おい、寝顔も撮ってんのかよ。
美月、これ知ったら怒るぞ?」
「あ、それ貴重かも!まっつんどう!?」
「残念、それなら前の合宿で俺もバッチリ
撮影済み。」
手をヒラヒラさせて、及川不合格と彼の肩を
叩けば、及川は悔しそうに崩れ落ちる。
「てか、俺達はマッキーみたいに2人きり
になってないけど!?」
「でもお前美月のベッドでゴロゴロ
してんだろ。アレ腹立つ。」
「あ、それ俺も美月から聞いた。」
「岩ちゃんは、余計なこと言わないで!」
「それは、随分な重罪だな。」
情け容赦無く、松川は箱から何かしらのケース
を取り出すと、わざとらしく彼女の荷物を置く
ロッカーの近くのパイプ椅子にそれを置いて、
美月の到着を待つ。
それは不健全なパッケージのDVDで、気になる
あの子に癖がバレてしまう悲惨な状況を助けて
あげる度胸は無く、ノック音が聞こえたらそれ
はもう最後。
後輩は哀れむように両手を合わせら、先輩に
合掌をした。
『お待たせー。…ん、なんかある?
ってコレ徹のじゃん。こらっ、もう!
こんなとこ置かないの!』
「キャー!!!なんで分かるの?」
『徹の部屋で見た。本棚に紛れてよく
隠してるでしょ?この前触らない様に
止めてた様だけど、バッチリ見えてました。』
「えっ…、マジで?」
「お前、ベタに分かりやすいとこに置いてん
じゃないよ。」
「うわー、俺だったら穴があったら入りたい。」
「美月、コレ見ても引かないの?」
『だって、男の子だもん。そういうのに
興味持っちゃうのは自然現象でしょ?』
「美月ちゃん、ホント理解あり過ぎ。」
「もー、頭上がりません。」
『ハジメの部屋でも遭遇したよ?
綺麗なお尻の女の子のアレ。』
「美月、何か食いたいもんあるか?」