まっすぐ見れない

試験勉強と部活の練習とが一気に押し寄せて、美月はその忙しさと同時にやりたいことが
沢山ある事に心地良さも感じていた。


補講で失った時間を取り戻すように、洗濯、
ドリンク作り、データの纏めなどの残っていた
仕事をいつもより更に手早く済ませて、ディグ
練習の補佐について、ボールを手に取る。


「俺さ、今牧野さんの顔をまともに
見れねー気がする。」


「わかる。さっきの破壊力ヤバかった。」


溝口の傍でボールを渡している美月には矢巾
と渡の話し声は届いておらず、集中しろ!と
溝口の怒声がいつもより多い事くらいしか、
気に止めてはいなかった。


そして、一旦休憩に入るも美月は今日はやたら
仲間達、特に後輩が声をかければ咳き込んで
みたりと、何処か余所余所しく感じる気が
して、彼女はその違和感に首を傾げていた。


「これで汗拭いてね。」


「ありがとうございます。」


いつもなら、絶対にちゃんと美月の目を見る
国見も珍しく彼女からは目線を逸らしてタオル を受け取り、調子がいつもと違うのかと心配を して、彼女は国見に手を触れようとする。


「…っ、何ですか。」


『いつもと様子が違うから…。』


「俺は至って普通です。」


すると、国見がそれを避けるように彼女から
いつもよりも冷たい態度で距離をとるので、
美月は少しばかりショックを受けて、動作が
固まった。


「すいません、美月さん。
国見の奴、さっきから自分の不調にイラついて
いるみたいで。」


彼女からぷいっと顔を逸らす国見を金田一が
何かを庇うように彼女にそう言えば、ごめん、
そんな日もあるよねと彼を咎めるどころか謝り、
あっさり彼から離れると、彼にそれ以上は
近寄らなかった。


美月の悲しそうな背中を金田一が見届けて、
呆れた顔で「お前なー」と言いながら、国見の方
を見た。


「どうしたんだよ、さっきの態度は。
牧野さんがさすがに可哀想だろ。」



「今は無理。触られたら絶対に勃つ。
美月さんに嫌われたくない。」


「お前ホントどうした?意見がストレート
過ぎて引くわ。」


さっきの写真はよほど国見の何かに刺さって
いたのか、何かに必死に耐えるようにしゃがみ
こんで脂汗を流す国見の余裕の無さに、金田一
は苦笑いを浮かべ、確かにさっきのアレは最強
だったと彼の意見には少し共感をしていた。


「やっと落ちついたのに…。」


「お前、でもその写真ちゃっかり松川さんに
撮らせてもらってたよな。」


無言で黙り合う2人とは反対方向に、少し落ち
込んだ気分になる美月はとぼとぼと肩を落と
して同級生のいる所へと移動すれば、及川が
美月どうしたの?と心配をする。


「ハグしてあげようか?」


悲しそうな顔を見せる彼女に、及川が両手を
広げて抱擁を待っていると、ギャラリーの黄色
い声を耳にする美月はするりと及川を交わし、
そのまま通り過ぎる。


そして、水分補給をしていた岩泉の背中に
こつんと自分の額を近づけて、彼のシャツの
裾をぎゅっと掴んでいた。


「どうした、そんな落ち込んで。」


『みんながなんか余所余所しくて、
ちょっと寂しい。』


私何かしたかなぁ?とぽつりと吐く美月の姿
に、言いずれぇと岩泉は眉間に皺を寄せて、
片手で頭を掻く。


しかも、今の美月の体勢は背後から岩泉へ
体重を少し預けているので、どうしても先程目
にした柔らかい感触がダイレクトに伝わって
しまい、なんとも気まずい気持ちにさせられ、
つい岩泉も無言になってしまう。


「岩泉が己と戦ってるな。」


「ぶっ!!!」


「お前、汚ねーな!」


横で同じく水分補給をする松川と花巻がそれを
目にすれば、花巻は思わず先程の写真同様、
胸元に目線が行き、シャツで体のラインは分か
らずとも、想像力豊かな彼は色々と連想して
吹き出した。


ゲホゲホとむせている花巻の音に美月が驚いて、
心配して花巻の元に駆け寄れば、岩泉は解放
されてほっと胸をなでおろしていた。


『花巻、大丈夫!?』


「おぉ、何とか生きてるわ。」


濡れたとこをしゃがみこんでタオルで拭き取れ
ば、新しいタオルを花巻に差し出して、首を
傾げる。


じっと見つめられれば、花巻も先程の彼女の姿
を思い出して、彼女から目を逸らし、国見の時
と同じ気がして、そこでまた美月は落ち込む。


あまりにも可哀想に思ってしまった及川が 丁度
女子達を帰るよう促した後に、いないことを
見計らって、背後から美月を抱きしめた。


「もうお前はそんな背中見せないでよ。
いたたまれなくなるじゃん。」


『ちょっと及川さん、ダメだってば。』


「大丈夫、もうあの子達帰ったし。」


「うーわ、エロ川が発情中。」


「マッキーには言われたくないね!」


自然とその手はするりとお腹に回るので、それ
をされると胸元の綺麗なカーブははっきりと
見えてしまい、平然な顔をしていた松川までも
がそれを見れば、ドリンクを吹き出した。


さっきからドリンクを吹き出す仲間を美月は
何処か怪しく思い、及川の絡む腕を解いたら、
怪訝な顔をして、松川の側へと寄った。


『私、なんか抜いた?』


「いや、抜くとか今言わないで。」


「松川、お前も脳みそ大丈夫か?」


ちょっと頂戴ねと松川の持つボトルを拝借し、
味見しても別に味は至っていつも通りなので、
美月の謎は深まっていくばかり。


『ドリンクじゃないのか。』


「普通に美味いけど。」


『じゃあ、皆なんで今日いつもと様子が
違うの?』


私だけなにか仲間はずれな気がすると少し泣き
そうな顔を見せる彼女に耐え切れず、痺れを
切らした岩泉がちょっと待ってろと走って部室
へと向かえば、松川のロッカーから原因のもの
を持ってきて、彼女に渡した。


「あ、岩ちゃん裏切り者!」


「コソコソすんのが性分に合わねー!」


「アッチはこそこそ隠してるくせに。」


「…あ?エロ川殴られてーのか?」


ギャーギャーと二人が騒いでいる中、それを
受け取った美月はなるほどねと怒ることも
無く、いたずらがバレた子供の様に笑いながら
それを見た。

予想外の彼女の反応に2人は驚くも、先程の部室
の一件から、理解があり過ぎる子だった事を
ふと思い出す。


『確かに、これはみんなビックリさせちゃった
よね。誰かわからないもん。』


これ、ポーズ大変だったんだーと見本を見せ
れば、花巻がこうか?と彼女を真似して身体を
くねらせるので、揉めている横でそれを見て
いた岩泉と及川は、花巻がやるとかなりの
違和感から、気持ち悪い!と腹を抱えて
笑い出した。


「よく引き受けたね。」


『これ、ウチで展示じゃないみたいで、
他校との合同企画らしいから大丈夫。』


「あ、そーだったのか。」


「他校ってどこだよ?」



『んー、白鳥沢。そこの被服部との合同企画
なんだって。』


花巻もそこまでは聞いてなかったみたいで、
松川と一緒に驚きながら、せっかくなら見に
行こうかと展示される学校の名前を聞けば、
彼女も何の躊躇いも無く学校名を答えて、
口にした美月を見て、皆が一斉に固まった。


『向こうの文化部に知ってる人いないし、
なら平気かなーって。』


呑気にそう言って、問題解決に霧が晴れたよう
な顔を見せながら、美月は後輩の元へと再び
安心するように駆け寄っていく。


「いやいやいやいや。」


「ちょ、ちょっと、待って。」


「おい、美月!!!」


「それって全然大丈夫じゃないじゃん!」



そんな呑気な彼女を追いかけるように4人は
焦った様子で彼女の名前を必死に叫んで呼び
止めるが、後輩とスキンシップを取りたい彼女
の耳には一切入ってこなかった。



「見て見て、若利君。噂の美月ちゃんの写真、
ついに被服部の子からゲット〜!」


「は?まじ、それ美月!?エッッロ!」


「英太君、わかる?ビックリでしょ?
てゆうか、美月ちゃんおっぱいが
大きいよねー。」


「いや、天童。お前は言葉を慎めよ。」


「白布、どうした調子悪いのか?」


「…今、俺に触らないでください。
五色は鼻血を仕舞えよ、イライラする。」


「美月さんが美し過ぎて。」



「あらー、賢二郎と工には刺激強すぎたかな。
て、アレ。若利君…息してる?」


「…若利が固まってる。」




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