もう少し意識して

帰り道に美月、及川、岩泉の3人がいつも通り
にのんびりと雑談をしながら歩いていると、
不安定な梅雨時期の雲は、段々と色が変わる。

突然、バケツがひっくりかえった様な雨が3人
に襲いかかり、彼等は慌てて走って、帰り道に
一番近い、及川の家へと避難をした。


全力疾走をした3人は、不足した酸素を求めて
肩で息をし、玄関で息を整えるようと膝で支え
てかがみ込む。


『もー最悪!傘を忘れて帰るんじゃなかった。』


「今のは、傘あってもずぶ濡れだべ!」


「はーい、二人ともお疲れ。
タオル取ってくるからそこで待ってて。」


家主の及川がまず先に中に入って、バスタオル
を取り、2人の元へ戻れば、呑気に髪の毛の
水滴を絞る美月のずぶ濡れ姿を目にして、慌て
たように「岩ちゃん!」と岩泉にタオルを投げ、
見事な連携プレイで美月をタオルに包ませる。


「だからお前は!」「格好を考えろ!」


これで二回目!と2人が顔を赤らめて、呼吸
ピッタリ彼女を怒り、美月はそんな2人に眉間
に皺を寄せて、『見苦しくてごめん。』と特に
恥ずかしがる事なく謝り、及川にわしゃわしゃ
と頭を拭かれながら、体が揺れていた。


「この雨、すげーな。」


「雨雲レーダー凄いヤバいね。これで2人が
今帰ったら危ないよ。」


外は雨風が強く、これが収まるまでにはまだ
少し時間がかかる様なので、2人がある程度の
水気を取れば、及川が彼らを自室へと招き
入れる。


『くしゅん!』


「美月、大丈夫か?」


岩泉も及川も重たくなったシャツをすぐに脱いで体を直ぐに拭いたが、さすがの美月は以前、
岩泉に怒られてしまったので、そういう訳には
いかず、『ちょっと、冷えたかな。』と寒そうな
格好をする美月を心配して、岩泉は自分が
借りたタオルを更に彼女に掛ける。


「美月も岩ちゃんもウチの風呂貸すから
入っておいで! 皆が風邪引いたら大変。」


及川も自分の母親に風呂の準備の確認を取れ
ば、この天気で察していたのか、既に湧いて
おり、美月も岩泉も 及川から着替えを借りて、
2人共及川の家の風呂も借りる事となった。



『本当に私が先でいいの?何も着てない
2人のどちらかが先の方が…。』


「いやいや、お前が1番寒そうだわ。」


『みんな風邪ひいたから大変だし、
…みんな、一緒に入る?』


逞しい姿を露わにしている2人が目の前にいて
も、彼女は見慣れているせいか顔色を変える
こと無く、寧ろきょとんとした顔で首を傾げ、
ぽたりと水滴が1つ垂れるのと同時に岩泉と
及川から汗がたらりと流れた。


真っ赤にしているのは逆に2人の方で美月の
爆弾発言に2人は目を点にして、そして見開け
ば、口をパクつかせ、彼等からは言葉が
出ない。
その沈黙を破ったのは及川からだった。


「え、何言ってんの?!襲われた
…ぶふっ、岩ちゃん痛った!!!!」


「ふざけた事言わずにさっさと入れ!」


照れ臭さを誤魔化すように岩泉は、握り拳を
作って及川を殴りながら美月を押して、及川
の部屋から追い出そうとする。


慌てる二人にクスクスと笑いながら、『じゃあ
お言葉に甘えて』彼女が部屋から出ると、2人は
顔を見合わせてため息を吐いた。


「はぁー、ボケ美月。」


「ねぇ、美月の中で俺達は小学生で止まって
ないよね?」


今のは冗談なのか本気なのか。


小学生の頃は何度か一緒に入ったことがあると
言っても、恥じらいがあまりにも無さすぎる。
信用されている事はいい事なのだが、安心され
すぎるのも2人にとってはかなりの困り物。


「アイツの中でエロい目を向けて来るの、
花巻だけだと思ってんじゃねーのか?」


「うわ、それはあるかもね。」


2人とも新しいシャツを着ながら、彼女の周り
で異性だと意識させるどストレートな発言を
するのは、花巻だけだという話になって、
天然?馬鹿なの?と彼女の鈍感さから思わず
2人からは笑いが出た。


「俺達って損だよねー。」


「そこに関しては、何も言えねーわ。」


珍しく2人の意見は一致して、恋敵といえど
互いを同情するように苦笑いを浮かべる。


そうこうしていると、及川は母親が自分を呼ぶ
声が聞こえてきて、ごめん行ってくると謝る
と、岩泉はおぅと一言返事をして、胡座を
かいていた足を伸ばし、寛ぐように座った。


『ふぅー、極楽極楽。』


ここにはよく泊まりに来るので、この風呂場も
気がつけば彼女に馴染み、自分がいつも使う
同じ香りに安心して、湯船に浸かって体が芯
から温もり、美月からは間の抜けた声が溢れる。


あとの二人を待たせないように、ある程度体が
温もったら立ち上がり、美月がドアを開けよう
とすれば、脱衣所に誰かいたのか、それを焦る
様に、彼に勢い良く止められた。


「美月、ちょっと開けるの待って!
今、美月の着たものと岩ちゃんの服を洗濯
してるから。」


『徹、わざわざ洗ってくれたの!?ごめん、
ありがとう。』


「あと、美月の新しい下着もちゃんとここに
準備してるから。」


『…え、徹が?』


「馬鹿、おかーちゃんだよ。」


先程の言葉に自分の下着も一緒に洗濯機へ放り
込まれた事を美月が察して、目を瞑って置いて
るから安心して!と変な所で妙な気遣いをする
彼が可笑しくなり、美月は何を今更と笑うと、
及川が怒り出し、早く服着なよ!と言いながら
脱衣場から出ていった。


「いや、磨りガラス越しはヤバいって。」


彼女の前で余裕ぶった姿を装っていても、一瞬、
体のシルエットが見えてしまった及川は、それ
だけで体が一気に熱くなる。


冷蔵庫から麦茶を取りだしてグラスに注いで、飲み干しても余韻がある彼は、岩泉に先に入る
よう伝えるために2人用の麦茶もグラスに
注いで、自分の部屋へと戻って行った。


『これは、ちょっと参ったな。』


一方、美月は渡された服に戸惑いを見せながら
も袖を通し、及川の母親に 声をかけようとして
も電話中だった為、2人を待たせないように、
急いで及川の部屋へと戻った。


「ねぇ、ちょっと待って。目を瞑って持ってった
俺がそりゃ悪いんだけどさ。」


「だから、どうしてそうなるんだ。」


美月が及川の部屋へと戻れば、その格好に及川
は嘘でしょと頭を抱え、岩泉はマジかよと眉間
に皺を寄せる。


及川から借りた大きめのシャツは、彼が着ても
ゆったりとしたサイズなので、太腿はちゃんと
隠れるものの、肝心の下が無かった様で履いて
ないようにも、見えてしまうそれに美月は
困り顔で二人に笑いかけた。

そのたまらなさはよく分かっている。
凄く可愛いけど、今じゃない。


『今、徹ママ電話中で声掛けれなくて。』


このまま上がってきましたと足元をもじもじ
させながらこちらに来たので、2人からすれば
その動きも完全アウト。


「下は俺のじゃ大きいから、別のもの持って
くるから待ってて。」


『徹、待って、そしたら…。』


実は中もね…とピロっと彼女に大胆にも裾を
捲られ、及川はそれを目にしてまさかの事態に
雷が撃たれたように固まって、そのまま雪崩る
ように、もう嫌だと倒れ込む。


岩泉もさすがに許せないのか、それを見て顔を
引きつらせる。


「美月、即行それを脱げ!いや待て、 やっぱり今は脱ぐな!」


『これって、やっぱり徹の?
ちょっと大きいから落ち着かなくて…。』


「ちょっと、おかーちゃーん!
俺がこの前買ったやつじゃんそれ!」


「いや、さすがお前のかーちゃん。」


新しい下着は新しい下着でも、まさかの及川の
新しく買っていたものを準備されていたよう
で、及川の気持ちを察しながら、岩泉は及川の
肩を黙って叩く。

さすがに何も履かずに出る訳にはいかないの
で、美月を咎める事は誰もできない。


「…もう、俺動けない。」


『大丈夫。徹のだと判明したなら、自分で
ちゃんと言って来る。』



「頼むからお前はその格好でうろつくな。
俺が風呂行くついでにおばさんに
言っておくしかねーか。」


「え、岩ちゃんこのまま美月と俺を2人きりに
しちゃうの?」


「あ?ここで万が一美月に何かあったら、
容赦なくお前をシバく。」



「そんな、殺生な〜。」



『なんか、2人ともオーバーすぎない?』


「美月は黙ってろ!」
「美月は黙ってて!」



激しくなる雨の音の中で及川達が嘆くのも虚し
く、この後風呂から岩泉が顔を真っ赤にして
彼女の下着を持ってきて、大雑把な自分の母親
の行動に及川は嘆き、美月は慣れた様子で
ありがとうと下着を岩泉から受け取るので、
かえってそれが2人の心を抉る。


岩泉と美月にこのまま泊まっていけと及川の
母親が言い出したらしく、彼らの長い夜はまだ
続くのであった。




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