君へのシルシ

午前3時10分



ああ、この感覚は久しぶりだ。


少し早く起こされた倦怠感と圧迫感に状況を
確認するように手を僅かに動かせば、少しだけ
自分の本能に岩泉はがっかりした。


「ちゃっかり、尻を触るな俺の手よ。」


先日、寝ぼけて彼女を布団の中へ巻き込んだ際
にも全く同じ所に触れていたであろう、彼女の
とても柔らかい岩泉の好きな部分。


手の平に包み、しっかりと収まった感触の心地
良さに手を動かせねばと思いながらも、つい
それを堪能したくなってしばらく静止をする。


完全に目が覚めていないからか、美月が眠って
いるからなのか、いつもの紳士的な態度と
違って、つい自分の欲に負けそうになって
しまうが、ここは自分の家では無かったこと
をふと思い出す。


ああ、まだ起きてねーよな。

コイツが見てたら面倒臭ぇ。


隣で寝ているもう1人の幼なじみ、及川の姿を
うっすら目を開けて確認すれば、こちらを向い
ているがその目は完全に閉じており、寝息も
聞こえてくるので、この状況がまだバレては
いないことに少し安心する。


トイレや水分補給に起き上がる時に美月が
よく寝ぼけてどちらかの布団に入り込んで
くる事にすっかり慣れてしまっていた。

その為、岩泉も及川も彼女に驚くことも無く、
自分の眠りやすい体勢に動かして、そのまま
眠りにつこうとする。


今回は岩泉が彼女をしっかり抱きしめて眠って
いたので、彼女が楽になるように腕枕をして、横に寝かせた。


ただ、少し動けば、岩泉の胸板に頬を沿うよう
にぴっとりと美月が自ら引っ付いてくるのは、
いつまでも彼には慣れないところなのだが。


「お前なー、明日も早えーのに。
…ん?もう今日になるのか?」


緩みきった寝顔をじっくり眺めるのは、岩泉の
中で少し幸せを感じる所。
彼女の長い髪の毛の毛束を触るのも、もう
一つ、岩泉の好きな所だったりもする。


好きな所を挙げろと言われれば、正直キリが
無くなるのだが。


どんなお前も俺は好きだと言えるだろう。


ただ、今は美月の匂いと及川のシャツのニオイ
が混ざって、そこだけは何となく鼻について
しまい、岩泉は顔を顰めた。


心を穏やかにさせようと彼女の香りを味わう
ように彼女の耳に髪の毛を掛けながら、ふと
視線は首元が大きく空いた鎖骨へと止まって
しまう。


数年前には何とも思っていなかったそれは、
気がつけば白くて綺麗な魅力的なものに
変わっていて。


いつかはそれも誰かのものになるだろう


それは果たして自分なのか、それとも別の
他の人間なのだろうか。


及川程あからさまに感情を出すタイプでは無い
が、岩泉もどちらかといえば独占欲が強い方
で、眠る前に見た他校の人間のメッセージの
量や 電話の数を許している訳では無い。


ましてや、牛島と電話をしている際にこちらを
見て場所を移動した彼女に、少しだけモヤモヤ
も残っている。


なにも隠れて話すことはねーだろうが。


軽く沸いた嫉妬心だけだった。
ただ、単純なそれだけの理由で体が動く。


彼女の首筋に顔を寄せて、吸血鬼の様に深く
吸い付けば、そこに作ってしまった真っ赤な
印。


『んっ…。』


その刺激に甘く声を漏らす彼女の声が聞こえ
てきて、うっすら彼女が目を開けてこちらを
見るので、やらかしてしまったと1回岩泉は
石のように固まった。


『ハジ…メ?』


「おぅ、すまん起こしたか?」


先程の行為を知られたら嫌われてしまうのでは
無いかと恐れて、彼女の頭を優しく撫でながら、
彼は自分の行動を誤魔化そうとする。


『ううん、ハジメのニオイ好き。』


彼女は隣に岩泉がいる事に驚くことなく首を
横に振ったら、腕枕から首を外して彼に抱き
つき直し、彼女の衝撃発言に岩泉は目を丸く
して口元を押さえていた。


『あと、なんか徹のニオイもする。』


美月はシャツの首元を伸ばしてクンクン
嗅ぎ始めると、そのままその香りを感じたら
ふんわり笑うと、また再び深い寝息が聞こえて
くるので、言葉に出さなかったが、好きな
ニオイは決して自分だけでは無かったことに
少しガッカリする。

だが、今このままだと襲ってしまいそうな自分
がいるので、それでいいと思ってしまっていた。


何だよそれと零しながら、彼女の頭を撫でて
眠りにつこうとすると、ふと何か気配を感じて
岩泉は動きを止める。


「ねぇ、今の何?」


「…お前、いつから。」


「岩ちゃんが美月にキスマーク
つけてた時から。」


隣で眠っていたはずの及川が瞬きもせず、
こちらを見ていたので、岩泉は驚きから
つい「うわ。」と声を漏らす。


「うわ。じゃないよ!こっちが言いたいのに。
しかもさっきの美月可愛すぎだし。」

及川は美月の甘い声に即反応して、
目が覚めてしまったと言いながら、じっとり
と岩泉を睨むように見つめ、珍しく岩泉の方
がたじたじになっていた。


しばらく不服そうに岩泉を黙って見て、ガバッ
と布団をはいで起きると、美月の方へと近寄る
ので、彼は反射で彼女を渡すまいとぎゅっと
抱きしめた。


すると、及川の目的はそっちでは無いらしく、
彼女の後頭部の髪をかき分けて、項へと唇を
寄せて、岩泉と同じようにそこに印をつけて
おり、その赤い跡を愛しそうに触れていた。


「これでチャラだからね。」


何でこういう負けず嫌いな所は似るか。


及川を責める事が出来る立場では無いので、
岩泉は小さい声で了承する。
んっと再び甘い声を漏らす彼女は呑気にまだ
夢の中へと入り込んでいた。

そして彼女が再び目を覚ました時には、2人共
何事も無かったかの様におはようとただ笑顔で
挨拶した。

「美月、何これ。虫刺され?
うわ、しかも2箇所も。痒そっ。」


『ん?ホントだね。でも痒くないよ。』


「エロいとこ噛む虫がいるもんだね。
項とか髪の毛避けねーと噛めねえだろ。」


「「ぶふっ!!!」」


「何、岩泉も及川もお前らどしたの?」


「…ちょっとお前ら体育館裏来ない?」



「まっつんのその顔怖すぎなんだけど。」








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