かっこいいなんて聞いてません

本日も忙しそうに駆け回っている美月は爽やか
に汗一つかく事無く、寧ろ近づいてみれば、
甘い香りをふんわりと漂わせている彼女の姿
を矢巾はうっとりと眺める。


「牧野さん、本日も麗しい。」


「矢巾さん真面目に練習してください。」


美月の姿をしっかりと目に収めたいのに、同じ
コート内からは、決して本気では練習をして
いないであろう後輩に注意をされ、わかってる
よ!と彼は口元を引き攣らせた。


国見は彼女に向ける矢巾の視線が見ていて、
うっとおしいと苛立つ心の中で呟きながら、
一息吐いた。
そして、国見もそう言いながらもつい彼女の方
を気になって見てしまう。


気になるその人はドリンクを抱えて走り回った
と思ったら溝口に声をかけられて振り返る所
で、松川が強めに打ったボールは軌道を変えて、
美月の元へと飛んでいく。


その流れ弾を彼女はうまく手で避けきれず、
ぶつかった背中をさすりながら溝口の話を
頷きながら聞いていた。


「牧野さん、今日で2回目。」


「なんか、こう、牧野さんは
守ってあげたくなるタイプだよな。」


身長は平均より高くても、この中に混ざれば
小さい方になるのは当たり前。

華奢な腕にすらっとした細い腰、後輩にも
同級生にも優しくてしっかりした何とも
頼もしい先輩。


なのに、時々こうやってドジなところを見せる
ので、男心をくすぐる要素は満載の彼女に、
矢巾はぽつりとそう言った。


「牧野さん、スイッチ入ったら
凄いんですけどね。」


二人の会話を聞いていた金田一の言葉に、国見
も確かにと首を縦に振るので、矢巾はなんの事だ?と疑問を抱きながらトスをあげ、金田一が
そのままストレートを打つ。


横目で再び彼女の様子を見ていると、及川の
ファンから代わりに渡して欲しいとプレゼント
を預かっている最中だった。


忙しい練習の合間にも関わらず、他の女子にも
気配りが出来てしまう美月の仕事ぶりに感心
していたら、その間に向かい側で渡の拾った
ボールをお前ら余所見すんな!と怒りながら
打つ岩泉の鋭いボールを反射で手を付き、ズレ
て彼女達の方向へ向かっていく。


「…やべ、しくった。」


「牧野さん、危ない!」


女子のキャッとゆう悲鳴が聞こえて、国見が
カバーしようと走って向かおうとした筈が
何を思ったか突然ピタリとその足を止める。


「馬鹿、何やってんだよ。」


矢巾が彼女を庇いに走り出そうとしたら美月は
素早く荷物を置き、距離を把握して数歩下がる。
そして、目の前で手を組んで身構えると、強い
ボールを丁寧に受け止め、それを音を上げずに
静かに高く上げた。


「えっ?!」


「あ、スイッチ入った。」


金田一が零す慣れた口調の言葉に矢巾は、
だから何なんだ!と突っ込んでいる間も
彼女の綺麗なレシーブにも驚く間も無く
『矢巾、打つから上げて!』とボールを
求めるように片手を彼女が挙げる。


すると、金田一と国見は慣れたように彼女の
邪魔にならない場所へと退き、矢巾も反射で
彼女にトスをあげると彼女は助走をつけて
走り出した。


3、2、1、


高く跳び、たくれるシャツにも臆することも
なく、体を反り返す彼女は美しく、そして
輝いて見えて、そんな彼女は初めてで。


バシンッ!!!とボールを床に叩きつけた音が
体育館に響き、彼女の姿に周りが騒然とする。


向こう側のラインギリギリにストレートを
決めた美月は、やった!と嬉しそうに小さく
ガッツポーズをしていた。


「こらー、何やってんだ牧野!」


「美月、アップ無しは危ねーだろ!
怪我したらどーする!!!」


美月は松川と岩泉の怒り混ざりの声に、ぶつけ
られっぱなしが嫌だったもので。と舌を軽く
出して見せ、イタズラがバレた子供みたいに
無邪気にはにかんで、笑っていた。


そして、助けた女子の方向へ視線を送り、無事
でよかった!親指立てると、その女子は美月に
尊敬の眼差しを向けて、気がつけば見事に美月
のファンになったのが、目に見えて分かる。


うぇーいと美月が国見、金田一と楽しそうに
ハイタッチをし、彼女が矢巾へも向かって、
ありがとねっ!とお礼を言いながら、彼ら同様
にハイタッチをしようとすれば、彼は目を丸く して、呆然と立ち尽くしていた。


先輩。俺、聞いてません


守ってあげたいと思っていた彼女が、自分より
も逞しいレシーブを返して、おまけに至近距離
での腹チラ付き。


かっこ良過ぎる姿を目の前で魅せられたもの
だから、矢巾から見た彼女はかなり眩しすぎる光景で、もちろん彼の脳内は完全にフリーズ状態。


『あれっ、矢巾さん?』


美月は固まり全く返事のない彼の姿に 戸惑い
岩泉へと目線で助けを求めてみると、彼からは
「知らねーよ」と冷たい言葉が返ってきて、
松川は額に手を当てていた。


彼が元に戻るには、しばらく時間がかかる模様
で、彼女が謝る声は体育館によく響いていた。



「矢巾さん、牧野さんが
バレー経験者て知らなかったのかな。」


「しかも凄腕WS。」


「牧野が、新山女子の推薦蹴って
ここ来たの有名じゃねーの?」


「さすがに2年生は知らないですよ。
俺もあんな牧野さん見るの初めてです。」


「理由が及川さんと一緒にいたいってとこが
ホント可愛いよねー。」



「いや、別にお前だけじゃねーよ。
隠居したいって言ってただけだろ。」


「女子高生の癖に年寄りくせーな。」















top