君の魅力を知っている

いつもより、授業が短めの月曜日。
及川と松川が同じタイミングで美月のいる
5組の教室の前で鉢合わせ、彼女よりも先に
クラスメイトの女子が2人に気が付くと、
彼女を呼んでいた。


「美月ー、彼氏とチャラ川がなんか一緒に
来てるよー。」


「何なの、その呼び方!何でまっつんが
彼氏なのさ!?」


「え?美月の旦那が岩泉で彼氏が松川でしょ?
そんなの常識じゃん。」


「何その変な位置付け!常識なの!?
よりにもよって岩ちゃんが何で旦那なの?
まっつんも俺の隣でガッツポーズをしないで。
腹が立つから。」


冷たくあしらう女子に向かって、及川がムキに
なっていると、もう1人の女子も冷たく肩を
叩きながら「そういうトコだよ。」と及川に
辛辣な言葉を吐き、松川は横で吹き出した。


彼はそれにさらに怒るも、美月が『徹、
どうしたの?』と駆け寄れば、彼女が急いで
来た動作が可愛く見えたらしく、にっこりと
彼女へ笑顔を向けた。


「美月、今日空いてる?」


「ごめん、チャラ川。美月は忙しいから、
時間無いって。」


「別に、俺はお前らに聞いてないって!
俺は美月に聞いてるの!」


『まぁまぁ、皆喧嘩しないで。』


女子達と及川が睨み合っている姿に美月が
苦笑いを浮かべていると、ぐいっと松川が
美月を自分の方へと引き寄せて、勝ち誇った
顔で及川を見ていた。


「駄目、先約あり。美月は今日俺と
予定があるから。」


恥ずかしそうに頬を染める美月の表情が及川
には気に入らなくて、じゃあ俺も…と及川が
言いかければ、松川が無言で「は?くるの?」と
及川へ圧力をかけるので、一緒に行きたいと
いう言葉は出せずに狼狽えた。


「今のは松川の勝ちだわチャラ川。」


「はい、チャラ川振られたね。」


「は、負けたの?てかコレは今俺フラれたって
認識なの?」


「フラれたよ。ほらほら美月の事は今日は
諦めて、はい回れ右。」


「ちょっと、岩泉。コレ何とかして!!」


「クソっ、お前ら何なんだ!!」


及川が2人に抵抗しようとすれば、岩泉を呼び
出されてしまい、珍しく彼も潔く「帰るぞ。」と
及川を引き摺りながら、美月と松川の2人
とは別れて行った。


「何で岩ちゃんまでまっつんの味方をするのさ!」


「あ?今日だけだ。アイツをこれ以上怒らせる
と色々と不味いだろ。」


「…あっ、そっか。うん、今日はまっすぐ
家に帰ろ。」


松川は邪魔者が消えたといったところか、
ご機嫌に美月の隣を歩いていた。


ここ最近、体調を崩したりと運が無く、彼女と
一緒に出掛けることがご無沙汰になっていた
ので、つい恋しくなって手を繋ぎそうになる
というよりも気がつけば繋いでいた。


美月が恥ずかしそうに逃げようとしてもわざと
彼は彼女の手を離さない。



「今日行きたいトコある?テストのお疲れ様会
って事で。」


『んー、どうしよっかな。』


あっ。と彼女が思い出したように声を漏らすも
やっぱ何でもないと訂正するので、松川は首を
傾げた。


「何か、用事あった?」


『ううん、まだ先だろうし今度友達と遊ぶ時
でいいかなって。』


まだ先だという言葉だけで勘のいい松川は、
彼女の行きたい所がすぐにわかってしまい、
その質問はすぐに口に出していた。


「もしかして、水着だったりする?」


『松川凄い、エスパー?』


美月が見事に当てた松川に驚いて、ポカンと
した顔で彼を見るので、松川は顔に出てるよ
と目を細めた。


『お恥ずかしい話、この度持ってるものが
サイズアウトしておりまして。』


「あー、なるほどな。そういや、身長
伸びたんだっけ?」


確実にそのサイズアウトというものは決して、
身長ではなく、別の所で松川は花巻が聞いたら
泣いて喜びそうだなと彼は考えながら、つい
胸元に視線が行きそうになるのを堪えて、彼女
のそこには触れず、返事をする。


ここはあくまでも紳士な対応で。


一緒に選ぼっかと彼氏面が出来るこの時間を
幸運だと心の中で喜んで、わざと彼女の手を
恋人繋ぎに変えて、駅から近いショッピング
モールへと向かった。


『松川、この手の繋ぎ方!』


「え?こっちの方が俺も一緒に入りやすいから、
助かるんだけど。」


さすがにカップルのフリをしないと恥ずかしい
とほんの少しだけ嘘をついて、本物になれば
いいのにと願ってしまう、今回で2回目になる
恋人ごっこ。


『わー、凄いね。どれも可愛い。』


水着の特設会場へ辿り着けば、鮮やかな水着が
沢山並んでおり、どうしようと困った顔で松川
を見る彼女が可笑しくて、彼は自分のだろ?
と優しく笑った。


『どうしよう、今流行りとゆうものが
わからないよ、松川さん。』


「頑張れ、現役女子高生。」


『このタイプ可愛いけど、隠し過ぎなデザイン
は私だと太って見えるかな。』


「美月は身長あるから、可愛い系より
シンプル系か若しくはこっちの方が
似合うんじゃない?」


『え、それ凄く可愛い。』


松川が手に取ったものは彼女が決して嫌がら
ないであろう、露出度が少なめのフレアトップ
にパレオスカートがセットになったもの。


アイボリーベースの華やかな花柄に加えて、
パレオスカートにはスリットが入り、ちらっと
そこからは足元が見えるので、完全にそれは
松川好みの大人めデザイン。


彼女のサイズも丁度あったようで、試着室から
ひょっこり彼女が顔だけ出して、松川を探して
いたので、それを堪らなく可愛いと彼は思い
ながら、彼女の傍へと行った。


「あー、これはやべーな。」


『んー、やっぱり変だったかな。』


「いやいや逆だよ、可愛い。めっちゃ
似合ってるから。」


『じゃあ、これにしよっかな。』


彼女が嬉しそうに微笑んで、再びカーテンを
閉め、彼女の姿が隠れると。思わず松川は
自分の目頭を押さえていた。


ここに来てよかった。ありがとう、神様。


喜びから色々な感謝の言葉が頭に浮かび、
傍から見たら、カーテンに大柄な男が顔だけ
突っ込んでいる何とも滑稽な姿を周りに晒して
しまったが、そんな事ももう気にならない。


「彼氏さんですか?」


『あっ、そーですね。』


「かっこいい彼氏さんですね。」


ふと売り場の店員が支払いの際に美月に松川
の事を聞いたらしく、先程の会話に気を使って
からなのか、美月が店員にそう答えたので、
待っていた松川は会話が聞こえて驚いた様子で
彼女達を二度見する。


「もう、今日はどうしたんだ。俺こんな幸せな
気分で大丈夫?」


頭を抱えていた松川を見て、美月は迷惑だった
と勘違いをして、申し訳無さそうな表情で彼の
元へと駆け寄り、謝った。


『ごめん、咄嗟に嘘ついちゃった。』


「いや美月、そうじゃなくて。
…寧ろ、ありがとう。」


彼女の持つ紙袋をさりげなく奪って、彼が
持っている姿は、傍から見れば立派な彼氏の
行動に見えるのだが、実際は違う事に少しだけ
虚しさを誘う。


『さすがにそれは持つから。』


「これくらい、いいって。」


「彼氏だし」と松川が冗談で言えば、彼女も
『松川は優しいね』と照れ臭そうに笑って、
そんな彼女を見れば、ついもっと喜ばせたいと
考えてしまう。


『松川と一緒に来てよかった。』


「そう言って貰えたら光栄だわ。」


そんな事を彼女に言われてしまったら、もう
一歩近づきたいと想ってしまう。


「惚れた?」


『松川の彼女になる子は幸せものだ。』


俺なら幸せにするよ、絶対に。


呑気に笑う美月の鈍感さに少し悲しく
なりながらも、彼の心の中だけでそう呟いて、
言葉は返さずに、彼女の頭をそっと優しく
撫でる。


もう少し楽しませてとお願いして、再び恋人
ごっこの続きをしようと松川は彼女の手に自分
の手を重ねてその指を絡めた。



「いやホント、お前らに見せたくねーわ。」


「クソ、その顔はなかなか腹立つな。」


「さんざん楽しんどいて何なの?」


「でもお前のセンスの良さは認めるから、
何も言えねー。」




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