キミとのご飯
すっきりと霧が晴れたような笑顔で、元気を
すっかり取り戻した美月は、ご心配をおかけ
しましたと朝一番に顔を合わせる2人にペコリ
と丁寧に一礼をしていた。
「おぉ、そんだけ元気そうなら何よりだ。」
「楽になったからって、今日もあんまり無理
しちゃダメだからね!」
『わかってまーす。』
グリグリと岩泉と及川が自分の手美月の頭へ
押し付けているのは、彼女の体調に安心した
証拠で、美月は彼らにされるがままになり
ながら、せっかくの前髪のセットが台無しに
なると嘆き、ゆらゆらと頭は揺れていた。
「おー、復活したってわけね。」
「顔色良くなったな、良かった良かった。」
『皆さ、口裏合わせたりしてないよね?』
そして学校に着いて朝練が始まると、残りの
2人からも同じ攻撃をくらって、彼女はさっき
と同じようにセットが崩れたことに再び嘆く。
溝口にも昨日のお礼を言いに行けば、彼にも
無理はするなよと心配されて、彼にも大丈夫な
様子を伝えれば、溝口は安心した様に彼女へ
笑いかけた。
今日も始めますか!と背筋を伸ばす姿はいつも
通りで、後輩達も心配しながらも、その背中に
安心して、大好きな先輩の元へ駆け寄った。
『ハジメ、ごめんね。さすがに今日は…』
「いや、謝んなよ。さすがに病み上がりに
頼むわけねーだろ。」
朝練を終えて着替えた後に教室へ向かう道中で
彼女が謝れば、岩泉がそう答え、「寧ろ、お前に
奢れってもらってきたぞ。」と岩泉の母親が彼に
お金を渡していた様で、彼女は感謝して両手を
合わせた。
昼休憩の鐘が鳴ると、静かだった教室が解放
されたように賑やかになり、美月達もそれぞれ
友人と会話を始めていた。
「美月、お昼どうするー?」
『あ、ごめん。今日お弁当が無くて。』
「これから、コイツと食堂行くんだよ。」
「あらあら、貴方達ほんとラブラブね。」
「それじゃあ、私達はお邪魔なのでおいとま
しましょうか。」
美月の友人がお昼の予定を聞けば、彼女に
声をかけようとしていた岩泉がそこに来て、
彼女の友人2人に揶揄われて、何だよそれと
少し恥ずかしそうに眉間に皺が寄っていた。
「ほらほら、旦那はいちいち照れないの。」
「末永くお幸せにー。」
美月はそんな彼を宥めて、2人へいじめないの!
と軽く怒りながら、岩泉を引っ張って教室から
出て行き、彼女達は冷やかしながらも、暖かい
目で見守るようにひらひらと手を振り、2人の姿
を見届けていた。
『あんなこと言ってるけど、あの二人の方が
彼氏いて、私なんかよりもリア充だからね!』
「ああ、よくお前フラれた!つって俺らと、
最近飯食うもんな。」
『そうそう!こっちが休みでも向こうが
ちゃっかり、デート入れちゃってるし。』
美月はぷんぷんと怒りながら食堂へと向かい、
オムライスとミートソーススパゲティのどちら
かを食べようかとメニューに悩む時は、黙って
いたはずなのに、オムライスに決めて席に着け
ば、また話は戻って彼女は怒り出す。
『2人ともめちゃめちゃ可愛いからさ、なんか
お似合いカップルで、なんか見てるこっちが
幸せになるし、癒しだし!』
岩泉から奢ってもらったふんわりとした卵に
包まれたオムライスを美味しそうに頬張って、
果たしてこれは嫉妬の怒りなのか、彼女達を
褒めているのか。
『何これ、めっちゃ美味しい。
チキンライスにバター入れたのかな。』
「お前は本当に忙しいやつだな。」
岩泉はそんな彼女の百面相を見てて飽きねーな
と面白がりながら、彼女の話にただ付き合って
相槌を打っていた。
「お前も彼氏欲しかったりすんのかよ。」
『…今はいらない。』
そろそろ話題を変えようと彼女に切り出せば、
岩泉から目線は外して、美月は顔を歪ませて
そう答えるので、幼なじみの勘からすれば、
多分それは強がりからの嘘だと認識する。
その言葉に安心するような、油断すれば誰かが
彼女を持って行ってしまうんじゃないか、その
嘘に少し心配になるような。
複雑な気持ちで、向かいにいる彼女を見ながら
岩泉は黙って味噌汁を啜った。
『いーんだ、いーんだ。どうせ、下級生の
勧誘だって上手くいかないんだし。』
昨日の名残からか、まだ少しだけ卑屈モードに
なる美月に、ピクっと岩泉は眉を顰めるが、
今朝、及川にもう3日は続くだろうから絶対に
優しくしてあげろと釘を刺されたばっかりなの
で、彼の把握ぶりの気色の悪さは今は置いと
いて、岩泉はグッと言葉を堪えた。
弱音を吐くということは、素直な自分を見せて
くれているという事でもあるので、正直、彼も
嬉しかったりする所でもなのだが。
落ち込む彼女は、やっぱりらしくないと考え
て、岩泉は彼女を見て口を開いた。
「彼氏どうこうの前にそのガキ臭ぇトコを
お前は何とかしねーとな。」
色気ねーぞと岩泉は美月の元へ手を伸ばし、
口元についているケチャップを指に取り、
ぺろっとそれを舐めとると、彼女に向けて
ニヤリと笑った。
『だから、欲しくないってば!!!』
「へーへー。」
彼の行動と発言に美月の卑屈モードはすっかり
何処かへと吹っ飛んでしまっていて、顔を
真っ赤にして、どうせ子供だもん!と更に
拗ねている彼女に岩泉は構うことなく、今度
はご飯とコロッケを口にする。
「なぁ、牧野さんと岩泉さん、本当に
付き合ってないんだよな。」
「練習中だと及川さん達いるから麻痺するけど、
この2人の距離も…アレだよな。」
「つーか、岩泉さんにかなう奴は俺達の中には
いないと思うよ?」
「…確かに、そうだな。」
たまたまその食堂に居合わせていた渡と矢巾は
少し気まずそうに2人を少し離れたところで、
彼らのやりとりを羨ましく、そして少しだけ
矢巾は悲しそうに見届けていた。
そして、声をかけづらい空気にそのまま彼らの
邪魔をしないようにその席からゆっくりと静か
に離れて行き、その後すれ違った強敵の先輩達
を目にして、一礼をしてその場を後にして、
2人は岩泉へ哀れみの目を送った。
『そういえばさ、この前飛雄に電話で美月さん
は及川さんと付き合っていたんですか?って
凄い剣幕で問い詰められたんだけど、
徹、飛雄に何言ったのかな?』
「何だそれ。」
『何か彼女に振られたって会った時に聞いた
けど、2人はいつから付き合ってたんですか
って。飛雄にはちゃんと、違うよーって
否定して、彼も納得してくれたんだけど。』
「…ほう、いつの話だ。」
『んー、松川と水着を一緒に買いに行った日
の夜だったな確か。』
「やっほー、2人ともこんなとこにいたんだね
って、岩ちゃん何!?痛いっ、痛いってば!
ちょっと、マッキーとまっつんはそこで
見てないで、岩ちゃんを止めてよ!!!」
「「さっきの話、聞こえてきたからパス。」」