実は初デート
普段ジャージか制服姿しか見ないからなのか、
私服の美月の姿は予想以上に魅力的で、
花巻はかける言葉が見つからず固まっていた。
そして、美月はそんな彼に戸惑うように
彼の目の前で彼の名前を呼び、ひらひらと
手を振っていた。
『あ!私もその映画見たい。』
祝日とオフ日が重なった貴重な月曜日の予定を
立てるべく、花巻がたまたまスマホで映画の
タイトルを調べている時に隣でその画面を
見た美月が食い気味でそう言った。
そこで彼は、ふーんとそこでの会話では
その話を流す素振りを見せて、一緒に行く?
と及川達に内緒で誰にもバレない帰宅後に
メッセージを送った。
『やった!その日、親に勉強し過ぎだから
出ていけって言われてたから行きたい。』
「いや、どんな理由だよ。
でも空いてるならちょうど良かった。」
デートの交渉はまさかの大成功で、彼女の
返事に余裕を見せる返信を送るも、花巻の
心臓はバクバクと鼓動を早めていて、
彼は自分の部屋で足をばたつかせて、
その日の夜は喜びからのたうち回っていた。
そしてやっと待ち遠しかった当日を迎えて、
待ち合わせの駅で彼女の滅多に見れない
姿を目にして、先程の状況に戻る。
『おーい、花さーん。どうしたの?
ぼーっとしちゃって。』
電車行っちゃうよ?と美月が花巻の服の裾
をクイクイっと引っ張れば、彼もハッと
我に返り、この照れ臭さを誤魔化すように
して、行くか!と彼は先に歩き出した。
岩泉レーダーを回避する為にわざと電車で距離
のある大型ショッピングモールのシアターへ
行くようにして、今回のデートコースは絶対
に邪魔が入らない様に彼は計画を練っていた。
「美月と休みに二人だけで出かけるの、
そういえば初めてじゃね?」
『そうだね、初めてだったよね!』
緊張するかもと楽しそうに隣で笑う彼女を
見るだけで、花巻は十分に幸せな気持ちで、
彼女が歩くだけで、ふわっと揺れる長い
スカートに思わず見蕩れていた。
「美月、及川達が言ってたイメージと違うな。」
『本当に?あ、わかった。徹達は夏の私は
ジャージかTシャツと短パンしか履かない
とか言ってるんでしょ!』
「そうそう、そんな感じで言うわ。」
『もー、ちょっとは及川さんの前で
お洒落してくれたっていーのに!…とかね。』
「ぶっ、似てるなお前!!!」
電車の中で、並んで2人で座りながら、内容は
服装の話題となり、花巻は彼女の予想外の
及川の再現度の高さに思わず吹き出した。
『徹達と一緒の時は走るかゴロゴロするか
のどっちかだもん、しないよねー。』
「あー、なるほどな。そりゃアイツらが
言う格好ばっかりになるよな。」
今日の美月はちゃんと緩く髪を巻いて、
ふんわりピンクベースの化粧にカジュアル
過ぎないTシャツとスカートで、完全に花巻
好みの仕上がりになっており、どこの角度
から見ても彼は彼女を可愛いと言い切れた。
そんな彼女の姿を改めてまじまじと見て、
彼らが彼女のイメージを上げない様に言って
いたのだと認識した花巻はアイツららしいな
と苦笑いを浮かべた。
『まぁ、花巻さんはお洒落だと思ってたから、
一緒に並んでも恥ずかしくないように
いつもよりは気合いは入れましたけどね。』
花巻から目線を外して、もじもじとしながら
足を揺らす、正直過ぎる彼女の不意打ちの
言葉と仕草に彼はなんてこったと額に手を
当てた。
自分の為にお洒落したと聞いて、喜ばない
人間なんているわけがない。
念願のデートなら尚更だ。
花巻も素直に「その…わざわざありがとな。」
と言葉を返せば、彼女ははにかんで笑うので、
彼は更にその表情に射抜かれ、結局言葉を
失って悶絶していた。
今のところ計画通りに目的地に到着して、
キャラメルポップコーンの甘い香りを
嗅げば、彼らは映画館に来たという事を
改めて実感する。
「ポップコーン食いたいけどさ、音が気に
なって噛むタイミング分かんなくなんね?」
『わかる。あと、ジュースの最後らへんも
すごい気を使いながら飲む。』
「うわ、それ俺もやるわ。」
2人は楽しそうに笑いながらチケットを買い、
嬉しそうに先程の話題になったジュースも
一応買って、開場と共に彼らは席に座ったら、
美月は嬉しそうにこれから見る映画のチケット
を見つめていた。
『友達と予定合わなくて、花巻がこういうの
見てくれる人で良かった。』
「岩泉は見なさそうだもんな。及川は見そう
だけど誘わねーの?」
『徹はなー。横で絶対号泣するから、
ゆっくり見れないんだよね。』
彼女が見たがっていたものは、感動系の恋愛
ストーリーで、仏頂面の岩泉も鼻をかみながら
声をかけてくる及川も想像し、花巻は確かに
と言う返事しか出なかった。
静かに一緒に見てくれる松川の姿も彼の頭に
は浮かんだが、これ以上彼に美味しい思いを
させたくないので、その存在は彼の中ですぐ
にかき消すことにした。
「俺達、相性いいんじゃない?」
『そうかもしれないね。』
花巻は冗談のつもりで言った言葉を美月は
あっさりと肯定して微笑むので、彼の方が
目を丸くして、彼の方が動揺してしまった。
今日は彼女にどうも調子を狂わされてしまう
彼はお前はいちいち何なんだよ!と悪態を
付きながら、頭を掻き毟る。
それが悔しくて美月を自分の元へ
ぐいっと肩を寄せて、わざと恥ずかしがる
彼女を困らせて彼はニヤリと笑った。
映画が上映されれば、自然と離れる彼女を
逃がさないように彼は彼女の手の甲を
包むようにぎゅっと握りしめていた。
大きなスクリーンに映る物を必死に見ている
彼女は隣で見ていて、面白かった。
一緒に喜んだり、怒ったり、そし主人公に
感情移入をしてじんわりと涙を浮かべたり。
彼女の邪魔をしない程度に様子を伺いながら、
ストーリーにも集中していると、彼もその話
の虜になってしまい、気がつけばラストシーン
は2人で涙を流していて、さりげなく彼女が
ハンカチを彼に手渡していた。
お前、そこでも男前かよ!!!
心の中で彼は叫びながら、次に手渡された
ティッシュで鼻水を拭って、エンドロール
をぼーっと眺めた。
「…ハンカチ、ありがとな。」
『いっぱい泣いちゃったね。』
花巻は申し訳無さそうに彼女のハンカチを
洗って返すとポケットに突っ込み、美月は
満足そうに微笑んで大丈夫だからと
彼のポケットから取り出してそれを鞄に
しまっていた。
『あれは号泣間違いなしだったよ。』
「だべ!もー、これレンタル出たらまた
借りるわ。」
『うん、もう1回は見たいよねー。』
互いにストーリーの感想を述べながら、
フードコートで食事して、一通り店を
回れば、バレーの話をしてみたりもして、
2人の話は尽きる事がなかった。
楽しい時間もまもなく終了を迎えて、
帰りの電車に揺られながら、美月は練習や
試合の時とは違った人混みで、珍しく自分の
慣れない場所にいたせいか、うとうとと眠た
そうに体を揺らしていた。
「美月、肩貸すから着くまで寝とけ。」
『…ごめん、ありがとう。』
花巻が彼女を自分の方へ寄せれば、美月も彼に
甘えるように彼に預けて、心地良さそうに
そのままゆっくりと瞼を閉じる。
彼女の寝顔を見るのは二度目で、つい前回同様、
彼女の髪の毛に触れれば、今日は前回の指通り
の良さとはまた違った柔らかさに、花巻は
優しく彼女の頭を撫でていた。
「駄目だ、これ癖になる。」
彼もその心地良さから、彼女の頭に頬を
寄せれば睡魔が襲いそうになるが、目的の
駅まで到着の際に起きれるかは自信が無い。
最後くらい紳士らしく終わらせてやろうと、
彼は必死にスマホ画面を睨めっこしながら、
この時間がもう少し続いて欲しい反面、
眠気に負けそうなので到着して欲しいと、
複雑な気持ちで彼女の横に寄り添っていた。