厳しい先輩

優しいばかりでは無く、時には厳しい言葉も
投げかける事だってある。


『その頑張りはただ迷惑かけるだけだから、
今日は帰りなさい。』


猛暑が迫る今時期、部員の為を思っての言葉
なのだが、張り詰めた空気に冷たい言葉、
それに耐えきれずに不調を誤魔化していた
一人はそのまま体育館から姿を消した。


本日も一年生が一人無理をして練習をする姿
を発見して追い出し、万が一の事があったら
困るこの時期なので、仕事の合間に美月は
部員の体調チェックをレギュラー、同級生、
後輩と関係なく欠かさず行っていた。

挙句の果てに、二日酔いの溝口を先日容赦なく
怒っていたりもする。


「あのキツさが癖になる。」


「矢巾さん、変態味増してきましたね。」


「うるせーよ!!」


矢巾と国見がそう会話していると、先程
怒られていた溝口の怒声が聞こえてきて、
彼らは再び練習に取り組む。


夏場の練習はとにかく暑い。
空調が整った環境でも体を動かしていれば、
関係などなく、この時期は汗が止まらない。


無理をすれば命にも関わる事でもあり、それは
部員だけではなく、及川達を見学に来た女子達
にも目を向けながら、彼女はこの悶々として
いる体育館の中で、人には見られない様に軽く
ため息を吐いた。


『ごめん及川、ちょっと2階はさすがに
暑いから、今日はあの子たち帰すね。
私に用事あったらとりあえず叫んで。』


「美月が謝らないでよ。こっちが謝らなきゃ
なのに。いっつも嫌な仕事させてごめんね。」


『大丈夫、大丈夫。皆は気にせずに練習して
いて欲しいし。…という訳で抜けます。』


「ありがとね、お願いします。」


「行ってらー、健気で泣けるわ。」


「今日アイス奢る!」


『ありがと、それで十分!!!』


花巻と松川の言葉に困った顔で笑いながら
走って2階へと彼女が向かうと、及川は少し
申し訳無さそうに彼女を見届ける。


「俺が行くって言っても聞かないもんなー。」


すると、岩泉が及川目掛けてボールを投げ、
お前は美月がくれた時間を無駄にするな!
と怒りだし、練習は再開された。


『ごめんなさい、今日はここにいると
危険だから、見学受け付けてなくて…。』


見学に来ていたのは、彼女から見れば後輩に
当たる2年生の女子達でここでは初めて見る
顔ぶれだった。

さすがにほぼ初対面の人間は部員の様には
いかないので、優しい口調で説得するも
今回は珍しく彼女達も食い下がらず、
美月の言葉は跳ね除けられてしまった。


「いえ、私達は全然大丈夫ですので。」


『うーん、ここに長時間いることが
ちょっとオススメ出来ないんだよね。』


「及川さん達の応援がしたいんです。」


『あなた達が体調崩しちゃったら、その
及川達が悲しむと思うんだけどね。』


「絶対に崩しませんから。」


そう言って過去に倒れてしまった事例があり、
彼女達の意見を通す訳には行かない。
困った顔で笑って見せても、彼女達はここに
いたいの一点張りで、その中の女子が怪訝な
顔をして美月を見た。


「もしかして、マネージャーさんが皆を
独り占めしたいとか?」


『えぇっ!!?』


「よくお見かけするんですけど、及川さん達
と仲良くしてますよね。
私達を近づかせないようにしてません?」


んなわけないでしょーが!!!


美月の顬がピクっと引きつって、つい幼なじみ
と他校にいる後輩のよく使う「ボゲェ」の言葉を
用いて答えそうになるが、さすがにそんな
真似は出来ずにグッとその言葉は飲み込む。


特に及川とは距離を取るようにしていても、
周りを気にしながら行動をするが、作業中に
テーピングなど距離を取らないとどうしよう
も無い事だってあるので、どうしても時々
こうやって勘違いをされてしまう。

…というよりも、最近は及川だけではなく、
他の部員たちも自ら、美月の方へ目掛け、
ベタベタと行こうとするので彼女が気をつけて
いてもどうしようも無かった。


過去にも2回同じ様な言葉を吐かれた事があり、
久しぶりの感覚に無理矢理に笑顔を作った。
そんなに興味があるのなら、うちの部に是非
マネージャーとして入部して貰いたいと美月は
頭の中で考える。


『そんなに興味があるなら、是非ウチの
マネージャーに入部して貰いたいなー。』


否、言葉にして吐いていた。


すると、彼女達は彼女から思わぬ言葉が出た
ことに驚いたのか、「えっ」と言葉を詰まらせ、
ちらっと及川達を目にすれば、満更でもない
顔をするので、逆に美月も『えっ』と彼女達
の反応に少し喜んでしまい、思わず口元が
緩んでいると背後から誰かの気配がして、
振り返った。


「いや、お前らだと務まんねーよ。」


「2階から美月さんの仕事も見ておいて、
何も分かって無い様じゃダメですよねー。」


気がつけば矢巾にグイッと腕を引かれて下げ
られて、国見と矢巾の2人が美月の壁になる
様に彼女達の前で立ち塞がり、厳しく冷たい
言葉を言い放っていた。

2人の言葉に何も言い返せなかった女子達は、
顔を真っ赤にしてそのままその場から去り、
矢巾と国見は悪態ついて、二度と来んなと
追い払うように手を振った。


「すみません、俺達聞き分け悪いんで。」


「気がついたら、ここにいました。」


アイツらなんとなくクラスわかるんで、練習の
邪魔にはならないように釘を刺しときますと
矢巾が凄い形相で物騒な言葉を言い出すので、
彼女はそこまでしなくていいからね!と彼を
必死に止めた。


別に全員が全員にスムーズに帰せる訳では
無いことをわかっているので、彼女もそこは
問題ないと首を振るも、彼らの肩をポンと
両手それぞれに置く。


『2人の練習の邪魔になって、ごめーーん!』


美月が気にしていたのはまず1番にそこで、
美月が申し訳無さそうに彼らに謝れば、2人は
そんな事かと顔を見合せ、呆れた様に彼女に
目を向ける。


「後輩をもっと頼ってくださいよ。」


「美月さんが俺達をしっかりと見てくれてる
のと同じように、俺達だってちゃんと
美月さんを見てるんですからね。」


「何より心配で皆集中出来てないですし…。」


そう言って彼らが指さす方向に目を向ければ、
親指を立てて片足を上げる岩泉、花巻、松川
の3人や、飛び跳ねながらナイス2人とも!と
褒め言葉をかける及川、そして渡や金田一も
いっぱい頷いてこちらを見ていたので、彼女は
みんな練習してよ!と眉毛を八の字にしながら
も、彼らへ笑顔を向けた。


「やっぱり、美月さんだけがマネージャー
じゃないと絶対に嫌ですね。」


「申し訳無いけど、俺もです。」


2人に手を引かれながらそう言われると彼女も
もう降参をして、じゃあこのままでいーです!
とされるがままに下へと連れていかれる。


そして、2人の腕にぎゅっと抱きついて、
練習戻りますか!と微笑めば2人はほんのり
顔を赤くして、優しい美月さんが一番だと
改めて実感をしていた。


「美月ちゃんお疲れー。
どうする?疲れた?おっぱい揉む??」


「うわぁ、花巻さん…。」


『花巻のはいらない。』


「じゃあ、俺のにしときます?」


「どうした、国見。」


『えっいいの!?じゃあお返しに私のも…』



「「「えっ!!!?」」」



「美月、及川さんにしときなさい。」


「ヤメロ、お前は突然脱ごうとするな。
聞いてんのか、殴るぞ、キショ川。」


「いや、このセクハラ耐えれるのお前だけ
だからな美月。」


「俺も松川さんと同じ意見ですね。」



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