お目覚め前の葛藤

午前5時00分

久しぶりの柔らかい感触に松川はハッと目を
覚まし、及川の机にある時計から今が何時
なのかを確認した。

そこには何故か、同じ布団に気になるあの子が
いて、自分は後ろから彼女を抱きしめるだけで
は済んでおらず、その両手は勝手に自然に胸元
をしっかりと包んでいる。
しかも、それは彼の大きい手にも関わらず、
ものの見事にジャストフィット。


「…やっぱ、デカ。」


違う違う、今は決してそっちの感想を述べたい
訳ではない。

そうだ、昨日から及川の家に泊まりに来て、
彼の部屋に無理矢理に布団を敷いて、確か
美月は及川と岩泉の近くで眠っていたはず
なのに、彼女は現在ここにいる。と松川は
冷静に現状確認を取ろうとしていた。


そういえば、以前及川と岩泉が彼女が寝惚けた
時の悪い癖の愚痴を吐いていたことを彼は
ふと振り返り、この前の彼女の首元と項の
赤い印も思い出す。


そして、ゴールデンウィークの合宿の時に
花巻の様子が一日何処か可笑しかった時も
確かあった。


「なるほどねー。」


そう言う事かと納得した彼は、とりあえず
自分が襲った訳では無い事に安心をして、
安堵の息を漏らすのだった。

ちなみにこれまでの結果に辿り着くまで、
彼の手の位置は変わらずに同じ箇所にいた。


彼女を起こしてはいけないので動かせないと
言う理由が半分、こんな美味しい思いをして
いるのに離せるわけがないという理由が半分。
そして、彼女はあと1時間で起きてしまうので、
万が一、動いて起こしてしまったら彼女が
可哀想だと松川は考える。


しばらく無心でその柔らかさを堪能しようと
するも、その刺激に小さく声を漏らす美月に
息が止まりそうになるくらい驚いて、パッと
その手をすぐに離した。

すると美月はもぞもぞと寝返りをうって、
松川と向かい合わせになり、彼の胸に顔を
埋めようとしていた。

彼女の寝顔をこんな真近で見れることなんて、
滅多に無いので、最初は驚いたが今は喜びの
方が確実に上だ。

彼は彼女を迎え入れるように寄り添わせ、
子供をあやす様にポンポンと背中を叩いた。

彼女もそのリズムが心地よくなるのか、
微笑んでいるように見えて、その寝顔が
愛しくて、今度は彼女の背中をゆっくりと
撫でるように触れた。


滑らかにその手は動く、そう滑らか…に?


触れていると彼女の背中には塞き止めるものは
無く、松川はそこで気がつく。
大体の女子には必ずついているはずであろう、
背中のホックが確実に彼女の背中からは確認
出来ないことに。


「ちょ…マジか。」


中にキャミソールは1枚着用していたものの、
下着を着用していない事に気がついた彼は
確かにそれ特有の硬さは無かったことを今更
気がついてしまい、Tシャツと薄いそれ越しで
そのまま味わってしまった事に気付かされ、
言葉を失い、一気に顔が熱くなってしまった。


クソ、静まれ…俺。


朝一番にそんな刺激を食らったら、もちろん
彼の大事な部分も熱を持つわけで、彼女に
みっともない姿を見せたくない彼は必死に
何かを堪えようと、下唇を噛み締める。

そんな彼の苦労を美月はつゆ知らずで、自分
の胸元に置くように縮めていた手を楽な体勢
に戻そうとしていたのか、その手を動かし、
ズボッと入った先に彼の悲劇は更に起きる。


美月が手を下ろした先は、残念ながら松川の
大事な箇所で、完全に彼女の手は触れている
状態で冷静さを保とうとした松川の我慢も
さすがに限界が来ていた。


「もういっそ殺してくれ…。」


恥ずかしさで死にそうになっている所にトドメ
を刺すように、むくりと動いてしまった違和感
を手で感じてしまった美月は、タイミング
が悪い事に、ゆっくりと瞼を開けてしまった。


『あれ…?私、確か…。』


目の前の胸元は、いつも間違えて入ってしまう
幼なじみのものではない事に気が付き、彼女も
今回のお泊まりはいつもと違う事を思い出して、
ハッと我に返るように、相手の顔を見る。


『ごめんね、松川…私…。』


「〜〜〜〜っ…。」


眉毛を八の字にして、耳まで顔を真っ赤にして
歯を食いしばる松川の表情と自分の手元にある
違和感に美月もゆっくりと視線を下に向け、
やっと事の状態に気がついたようだった。


「…美月ちゃんのエッチ。」


精一杯の意地悪な言葉で、彼はその羞恥心を
誤魔化そうとするも、困り顔で発する美月の
爆弾発言で、松川は再び殺されそうになる。


『松川…この次はどうしてあげたらいい?』


「…待って美月、俺が悪かった。ごめん。」


美月も自分の衣服の状態に後から気づいて、
松川が彼女を見ないように顔を背けている間に
彼女は急いで、自分の服を正常の状態へ戻す。


そして、状態が落ち着いた松川に泣きそうに
なりながら、まだ仲間が眠っている横で彼女は
土下座で謝り、彼女の顔をまともに見れずに
いる松川も、頼むからもう止めてと両手で
しくしくと顔を手で覆うのだった。


『私、どうやったら松川のお詫びになる?
ごめんね、恥ずかしいとこ触っちゃったよね。
こうなったら、いっそ私のおっぱい揉む?!』


「いや…貴方はもうそれ以上謝らないで。
本当に大丈夫というよりも、何ならこっちが
謝らないといけなくなる。
しかも、女の子がそんなこと言わないの。」


『もー、本当に本当にごめんね!!!』


「…お前らさ、朝から何やってんの。」


「クソ、うるせぇ。」


「いや、大抵想像ついたわ。まっつんは
とりあえずお疲れ様とドンマイ。」


この状況を察した仲間達は咎めるどころか、
労いの言葉を松川へとかける。
その日、しばらく美月は松川の顔色を伺う
様子で、最終的に今までその体験を受けた
及川達が彼女にアイスを買って、その騒ぎを
落ち着かせる形となってしまった。

『なんでみんな、そんなに優しいの?』


「「「気にしなくていいから、食べろ!!!」」」







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