いつまでもキミと

「ちょっと。これぞ正に最高傑作だわ。」


「いやホント、絶対1人で行動しないでよ?
心配になるから。」


『何言ってんの?2人の方が可愛いんだけど。』


部活を終えるとダッシュで家に帰り、美月の家
には女3人が集まって浴衣に着替え、友人が
美月の髪の毛を綺麗に纏め、水浅葱色の花飾り
が彼女の魅力を更に際立たせる。

浴衣娘3人共に完成すれば、やたらに友人達は
自分を褒めちぎるので、この中で1人非リア充
である美月は虚しさしか無いんだけどと
顔を顰めていた。

浴衣は紺色に大人びた柄の花柄が映え、正に
それは彼女に相応しいものを身に纏う。

友人達の彼氏が迎えに来て、それぞれを見届け
た頃に丁度よく岩泉と及川が彼女を迎えに来て、
彼女の姿を見た瞬間に目を丸くさせて黙り、
カランと彼らが鳴らした下駄の音が響いた。


『むむっ、似合ってないってか?』


「馬鹿、自信持て。その逆だ。」


「可愛いすぎて、胸が苦しい。」


2人の反応に美月は怪訝な顔を見せると、
岩泉は顔を赤くさせて彼女の姿をまともに
見れないのか、ぷいっと顔を逸らし、及川は
感極まって、自分の着ている浴衣の襟元を
グッと掴む。

彼女からすれば逆もまた然りといった所で、
彼等の浴衣姿が少し大人びて見えてしまい、
なんか照れるねと恥ずかしそうに微笑むので、
2人は危うく呼吸困難に陥りそうになった。

「お前コケんなよ?」

花火会場行きのバスから降りて、岩泉は彼女の
足元を心配して支えようとすれば、彼は手の
置く位置に凄く悩むようで、珍しく及川から
「岩ちゃん、そこお尻!」と注意を受ける。


「おぉ、すまん!帯崩しそうだったからつい。」


『少々大丈夫、心配してくれてありがと。』


「手を繋げばいーじゃん。」


そう言って及川が彼女の手を握ろうとすれば、
上手くかわされ、何でと嘆き声を上げると、
彼女はだってと困り顔で言いながら、周りを
キョロキョロと見渡していた。


『及川のファンがいたら悲しむじゃん。』


これから行くのは人混みのある場所で、確かに
同じ学校の生徒達にも出会う可能性がある。
こんな所でも自分のファンを大切にする美月には
感謝したいのだが、今ここでは必要ないのでは
と彼はため息を吐いた。

辛気臭い及川の態度にイライラしたのか、
浴衣でも器用に岩泉はローキックを決めると、
花巻と松川が「おー、やってるやってる。」と
2人を見て笑いながら、合流をした。

「いやー、お前の友達に本当に感謝だわ。
めちゃめちゃ可愛いよ。」

「うん、本当。似合ってるよ、美月。」

『ありがとう、2人も凄く似合ってる。』


花巻も松川もそう言って褒めてくれたので、
美月は素直に彼らに感謝の言葉を返す。

そして、『みんないつもと違うからドキドキ
するかも』と恥ずかしそうに背中に刺していた
団扇で顔を隠すので、4人は彼女の仕草に
射抜かれ、それぞれが照れ臭さを隠す動作
を行った。

場所取りは前持って花巻の友達が自分達の分も
余分に取ってくれていたらしく、彼女がお礼を
言うと鼻の下を伸ばして、嬉しそうにしていた。

「惚れんなよ?」「恐れ多いわ。」と彼女にとって
は謎の会話を2人でしており、荷物を置いて、
花火開始まではまだ時間が十分にあったので、
彼らは交代で屋台へ向かうこととなった。


「美月は危ないから1人で行っちゃダメだよ。」


『うん、わかってるよ。』


「俺達でいるもの買ってこうか?
下駄だと、足が痛くなんだろ。」


『そう思ってテーピングしてきたから余裕。』


「おっと、せっかくの色気が台無し…。」


「マッキー諦めなよ、花より団子がいつもの
美月でしょ。」


『ちょっと、どういう意味ですか。』


「おら、行くぞ。」


そう言って彼女の手を引くのは岩泉で、
ズカズカと周りのずりーなと言う批判の声も
無視をして、彼女と2人で屋台へ向かう。

岩泉のスマホからは30分で交代だからな!と
メッセージから謎のルールを3人に提案され、
岩泉は悪態をつきながら、隣にいる美月の
手をぎゅっと握りしめた。


『あら、ハジメが珍しい。』


「うるせえ、お前の迷子防止だ。」


人混みではあまりしない彼の行動は新鮮で
仏頂面が頬を赤く染める様子が美月には
可笑しくて、彼を見てくすくす笑っていると、
「笑うな。」と更に眉間にシワが増えるので、
彼女は『怒らないの。』とそれを解した。

屋台の並ぶ通りへ行くと、美月は型抜きを
見つけて『久しぶりに見た』と目をキラキラと
輝かせるので、岩泉が行くか?と2人で椅子に
座って、目の前の型を真剣に画鋲と歯ブラシ
で立ち向かった。


「ぐおおぉっ、あとわずかで!」


『しっ、ハジメ静かに。私行けそうだから。』


細かい作業が苦手にも関わらず、岩泉は美月に
付き合って真剣に行えば、あと少しの所で彼
の型は見事に砕けてしまった。

美月は職人並みの手捌きで、隣にいた岩泉も
彼女に注意を受ければ黙って見入ってしまい、
最後まで綺麗にくり抜けた時には、おぉっ!と
感動の声を上げるのだった。

「おめでとう、これ景品ね。」

『ありがとうございまーす。』


満足そうにお菓子の詰め合わせをにっこり
笑顔で受け取ると、岩泉にもおすそ分けだと
彼女は駄菓子を彼に渡す。


「貰っていいのか?」


『付き合ってくれたお礼。』


「お前、今日せっかく大人っぽくなったのに
やること子供みたいだな。」


『高校生らしいと言いたまえ。』


「いや、小学生から変わんねーよ。」


『一緒に付き合ってくれたハジメもじゃん。』


岩泉の指摘に不服そうに頬を膨らませば、彼は
指でつんつんと触って、怒んなよと楽しそうに
笑う。

先程のルールの通りだと、制限時間はあと残り
10分となっていたので、焼きそばを買ったら
交代するかと、その列に並んだ。


『来年はみんなで集まれるかな?』


「大学は夏休み長ぇから、なんだかんだ
会えそうだけどな。…ただ。」


『…ただ?』


その言葉を発した所で、彼ははっと我に返り、
何でもねぇと言葉を飲み込む。
そして、言葉を切り替えて彼女を見てニヤリと
笑うのだった。


「来年も彼氏作らずには寂しいもんだな。」


『酷い!それならハジメだって一緒じゃん。』


「俺は別にどーだっていーだろ。」


『どーだっていいわけないでしょ。
いい訳ないけど…。』


「…けど?」


『確かに、ハジメとこうやって遊べなくなる
のは、ちょっぴり寂しいかもね。』


我儘だねと恥ずかしそうに笑う彼女を見たら
意地らしくて、岩泉の言葉も止まった。
そして、順番が回ってきたらお金を払って
焼きそばを受け取り、彼女の手に指を絡める。


「お前は我慢し過ぎだから、我儘言うくらいが
丁度いいだろ。」


可愛過ぎだろが。素直な言葉が吐けない彼は、
普段散々スキンシップは取ってきたというのに
いざとなったら、この言葉と繋ぎ方が彼に
とっての精一杯。

花巻や松川みたいに高校から出会っておけば、
異性としてちゃんと向き合えたのだろうか。

彼は、時間は刻々と限られている事を思い知ら
され、彼女との距離感も今になって考えさせ
られる。


無意識に岩泉は難しい顔をしていたのか、
美月はハジメ?と彼の顔色を伺い、彼の裾
をくいっと引っ張った。


『大丈夫、来年もまた来ようね。』


不安に駆り立てられるのに、美月のこの
一言で彼の気持ちはかなり楽になって、
更に美月を愛おしく感じて。


『珍しく、ハジメさんが甘えんぼですね。』


あれほど色々考え込んでいたというのに、
彼の体は気が付けば勝手に動いて美月を
思い切り抱きしめる。


彼女はそれを優しく受け止めて背中を撫でて、
その撫でられた部分に安心感を抱きながら、
彼女を絶対に離してやるもんかと彼は
深く決意するのだった。



「はーい、ハジメさん甘えんぼのところ
悪いけど交代ね。」


「クソ、時間ピッタリかよ。」


『花巻も来たんだね!…ってあれ?
ハジメは帰るの??』


「あっちで、座って食う。」


「ああ。揶揄ったら、拗ねたわ。」








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