ヤキモチの埋め合わせ

「ちょっと待って、何その格好。」

白鳥沢からの帰り道に自転車に手をかけたら、
駅までぶらりと遊びに来ていた及川と岩泉と
花巻と松川の4人と運が悪く遭遇してしまい、
その声を耳にして、美月の顔はピシリと
石のように固まり、青ざめてしまった。


『ど、どちらさまでしょう?』


「美月ちゃん?いくら無駄な抵抗しても
こっちにはバレバレだから。」


スケジュールを目にしていた花巻からは、納得
がいった様子で「あー、あれか。」と言葉を
漏らし、歪んだ顔で近づいてくる及川が恐ろ
しく、彼女は身動きが取れなかった。


「とりあえず、似合わないから脱いで。」


及川はそう言うと、プチッと器用にリボンを
外して、そもそも美月に紫は違うんだよね
とボヤきながら、そのままシャツのボタンを
手早くプチプチと外そうとする。


怒りで周りが見えていない及川の突然の大胆な
行動に美月は『えっ、えっ!?』と戸惑う様子
を見せながらされるがままになり、岩泉が
「何してやがる!」と及川へ思い切り拳骨を
落とす事によって、その動作は止められた。


「てめーは場所をわきまえろ!」


「エロ川が暴走したな。」


「痛いよ…岩ちゃん。」


「いや、今のはお前が悪い。」


『人の借り物だからとりあえず着替えます。』


蹲る及川を一歩引いた目で花巻と松川は眺め、
さすがに美月も彼が可哀想に思ったのか、彼に
謝りながら背中を撫で、近くのお手頃価格の
ショップで服を調達すると、制服からそれに
着替えた。


「にしても、制服脱がすのが手馴れてんな。
何処で覚えた?」


「まっつんは美月の前でそんなことを
聞かないで!」


「まぁその話は置いといて…俺は何となく理由
が浮かぶけど、自分で吐くほうが楽だろ?」


そのまま彼女は連行されて、帰りながら事情
聴取の様に詰め寄られるので、花巻に促される
まま素直に吐こうとしたら、及川からは、
「やっぱり、聞かない」と止められてしまった。


「お前は本当に面倒臭えな。」


「だって、想像しただけでムカつくもん!」


岩泉が始まったと言いたそうに顔を歪ませる
と、及川は彼の反応にさらに怒って、及川が
更に機嫌を損ねるので、岩泉はため息を吐く。


『助けてくれた人に誠意込めて感謝するのは、
ライバルチームの人だとしても、ダメなこと
なのかなぁ。』


すると、自分がお礼したらいけないのかな。と
悲しそうに美月がぽつりと言葉を零しながら、
自転車を押した。

しょんぼりとする彼女の姿にいたたまれなく
なった松川が、彼女の持つ自転車をのハンドル
を奪うように運んで、隣にいた岩泉は、彼女の 肩を掴んで自分に引き寄せて、ポンポンと彼女
の頭を撫でる。


「…いや。そこはお前のいい所なんだから
気にすんな。」


「ホント、そこは悪いことしてる訳じゃ
ねーんだし。」


『本当に?』


「おう、だからそこは自信持て。」


「そうそう。」


『…2人共ありがとう。』


「え。ちょっと、俺だけ悪者扱い?」


岩泉と松川が彼女を励ますようにそう答えれば、
きょとんとした顔の及川が2人に問いかけ、
花巻はドンマイと彼の肩を叩いた。


及川は皆にスルーされ、「え!?無視!?」と
嘆く声が聞こえてきたが、岩泉はそれに構わず
ただし…と言いながら、彼女の頬を容赦なく
摘むのだった。


「格好は考えろ!あんなスカートが短え
白鳥沢の生徒がいるかよ!!!」


『いひゃいっ!あれは小柄な子から借りた
から、丈はしょうがないのに…。
制服の方が紛れ込めたんだもん。』


「じゃあ、他の奴から借りろ!!
目立たねーよにするんなら、徹底しとけ!」


『その子しか連絡先知らないもん!!!』


「…えー、怒るところはソコかよ。
まぁ確かに、サイズはあってなかったけど。」


「美月だから着れたんだろうな。」


岩泉は他の奴らに襲われたらどうする!と不満
を言いたいのだろうと、彼のその意見には同意
しながら、不器用に伝える彼を温かい目で3人
は見守る。

そして、岩泉はそのままラーメン食うぞ!と
言い出して、及川は昨日も行ったのに?と
驚き、後の2人も文句を言いながらも昨日と
同じ店に立ち寄った。


「まぁ、美月と一緒に行ってねーしな。」


「そうだな、美月とは行ってねぇ。」


『昨日は断ってごめんね。ここは私が奢ると
しますか。』


「女の子に払わせるわけないじゃん!」


「じゃあ、及川の奢りか?」


「散々すぎる!!!」


店に入ると、1つのテーブルに椅子を一つ追加
してもらって、5人仲良くそこへ座る。
昨日も同じものを食べたというのに、他の4人
は、食べる量は全く変わらずで、どんどんと
注文をして、美月はそれが見ていて気持ちが
良かった。


『みんなの食べっぷり、やっぱ好きかも。』


「俺はお前の食うの見る方が好き、ほれ。」


『あっ、松川ありがとう。』


「それ、すっげぇわかる。美月こっちも。」


彼女だって色々と味わいたいのだが、食べ切る 自信の無い美月は、向かいにいる松川から
いつもの様に餃子を一つお裾分けしてもらい、
花巻からは一口天津飯を貰った。


「ほんと、相変わらず幸せそうだよね。
はい、美月はちゃんと鉄分も取りなさい。」


「それな。お前この夏動き過ぎでまた痩せそう
になってるだろ。」


すると、及川もそれに乗るようにレバニラを
食べさせ、最後に岩泉がチャーハンを一口
差し出すので、彼女は甘やかされすぎの自分が
可笑しくて、みんな優しすぎとクスクスと笑う
ので、彼らもそれに釣られて笑うのだった。


「「「「『ご馳走様でした!』」」」」


会計を済まし、挨拶をしてから店を出ると、
及川がふと今度は甘いものが食べたいと言い
出した。


「あ、わかる。塩分の後の糖分。」


『え、まだ食べるのー。』


花巻がげんなりするどころか、それに便乗して
コンビニに行こうと言い出すので、美月は
その言葉にげんなりするように顔を歪ませた。


「お前アイス食わねーの?」


『…食べる。』


「お前、今腹いっぱい言った癖に。」


『ハジメ君、アイスは飲み物です。』


アイスという言葉だけで元気になる美月を見て、
岩泉は呆れた様に彼女を見ながらも、彼も松川
も3人と同じ方向を向いて、コンビニへと
歩き出す。


『ハジメ、パペコまた半分こする?』


「おう。チョコ食いてえ。」


「ずるいずるいずるい!楽しそう。
俺だって分けっこしたい!!!」


「じゃあ、及川と岩泉で半分こすれば
いいんじゃね?」

俺が美月と仲良く分けるからと松川が提案し、
ニヤリと2人に向けて不敵な笑みを見せれば、
及川と岩泉は「するわけねーだろ!」と声を
揃えて怒り出す。


『やっぱ、クーリッチュ一人で食べようかな。』


「そういえばお前、乳製品食いすぎたら
またデカくなるんじゃね?」


アイスを悩む美月に花巻がそう言えば、
彼女は怯えながら『身長?』と彼に聞けば、
「いんや、胸が。」とさらりと返すので、彼女は
怒ってバシッと背中を叩いて、胸元を手で隠し、
バランスを崩しそうになった自転車は、岩泉が
反射で支えた。


『花巻はどうしてそういう事言うの!』


「危ねーだろ!」


岩泉は2人に怒ったが、足を出すのは花巻だけ
で及川も「マッキーそれはさすがにセクハラ。」
と彼に冷たい視線を送る。


美月は頬を膨らませながら、空を見上げると
今日は夏の夜空がよく見える日なのか、その
綺麗な光景に思わず感動の声を上げた。


夏休みは残りあと1週間。


こうして、あと何回彼らと並んでアイスを一緒
に食べることが出来るのだろうと考えると、
何だか切なくなって、鼻の先がツンとした。


すると夜空を見上げた美月の様子を見て、
彼らは彼女の考える事に気がついたのか、
4人それぞれが彼女の寂しさを紛らわす様に
彼女の頭をわしゃりと撫でて、歩くペースを
早めて、彼女の先を4人が並んで歩く。


その4人の優しさに感謝をしながら、美月は
撫でられた所にそっと触れて、彼らを追いかけ
るように、足早に自転車を押して歩いた。





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