世話焼きな彼女

『飛雄、1次予選突破おめでとう。』


久しぶりの後輩の部屋で、美月は彼のノートの
間違いを指摘しながら、お祝いの言葉を吐く。
お盆の休み最後は、夏休みの課題がまだ終って
いない後輩の手伝いに来ており、彼女は隣で
頬杖を付いて、消しゴムを差し出した。


「…あざっす。」


口を尖らせて受け取る彼の返事は、彼女に祝って
貰った言葉に対してなのか、それとも消しゴム
を受け取ってからなのか。
変わらない仏頂面の後輩が思わず可笑しくて、
美月はクスクスと笑っていると、影山は何すか
と言いながら、また顔を顰めるのだった。


『東京の合宿は楽しかった?』


「そうっすね。向こうだと、なかなか
セットを取らせて貰えないっスね。」


『そうなんだ。やっぱり都会は違うねー。』


何となく、影山の表情がインターハイの時とは
また違った様に見えるが、それ以上の事は彼に
は聞かず、話すことは向こうの気候の話など。

影山もやはり、及川達の様子は気になるのか、
もごもごと彼がこちらの話を聞きたそうにして
いたのだが、少しだけ彼に意地悪をしてみたく
なった美月は、こっちしか教えてあげないと
悪戯混ざりの笑顔を向けて、彼に次の問題を
指差して、自分も参考書に目を移した。


「美月さんは課題大丈夫なんすか?」


『私は、もうとっくの昔に終わってますよ。』


「そうですよね。なんか…受験生なのに
わざわざ、すみません。」


『いいの。ここでも集中出来るし、飛雄とも
話をしたかったし。』


下ろした髪の毛がゆるりと机に落ちるので、
彼女はそれを耳にかけながら、問題わかる?と
時折、影山を心配する。

その彼女の仕草に、毎度の事ながら彼は少し
だけ見蕩れそうになり、ハッと我に返って、
問題に目を通すと、必然と眠気が襲ってきて、
寝ちゃダメでしょ。と彼女は困ったように笑い、
優しく彼に指摘した。


『明日じゃなくてよかったよ。
明日だと面倒見てあげれなかったから。』


「明日なんかあるんすか?」


『明日からうちも3日間は合宿。』


「…前日なのにいいんですか。」


『うん、大丈夫だから飛雄は気にしなくて
いいんだよ?』


へらっと美月は笑いながらそう言うと、GWの
電話の時とは違って机の上に腕を置いて、少し
気怠そうな様子を見せるので、影山は美月の
らしくない態度が不思議に思い首を傾げた。


「美月さん、嫌なんすか?」


『んー、別に嫌じゃないんだけど。』


青城が夏に行う合宿は大学生との合同練習で、
OBがいるとある大学へと出向いて行われる為、
苦手な先輩が在籍するそこで作業をする彼女は
気持ちが億劫だった。

しかし、いくら可愛い後輩でも、部内の事情を
他校に話すのはご法度なので、暑い所だからと
適当に妥当な理由をつけて、行きたくない理由
を影山に上手く誤魔化す。


「及川さん、暑いところでもベタベタと
しつこそうですもんね。」


彼女の話を聞いた影山は、唐突に及川の名前を
出して何を想像したのか、彼はあからさまに
嫌そうな顔を見せて、ペンを止めるので、
美月はそれが可笑して、ブッと吹き出した。


『さすがに、合宿中まではそんな事しない
…あっ、女の子達いない時はするかも。』


「マジかよ。あの人…本当に遠慮ないですよね。
毎日美月さんに合うクセに。」


彼は以前、美月にかけた電話を無理矢理及川
に切られ、期末テストを美月に助けて貰えな
かった事を未だに根に持っているのか、彼の背
からはふつふつと恨みつらみが沸き出ていた。


それは、彼の中では1回だけじゃない。
中学生時代から何かと及川は影山の前に立ち
塞がり、美月にバレーの事で聞きたいことが
あったり、練習に付き合って貰おうとした事が
あっても、及川には必ず邪魔をされ、自分の
苦労はそれだけじゃないと言いたそうにして
いた。


『ほらほら。今日はゆっくり話せたんだし、
怒らない、怒らない。』


美月はそう言いながら宥めるように彼の背中
を撫で、そのまま最後の問題まで到達すると、
達成感に満ちた表情で終わったー!と雪崩る
影山に、よく出来ましたと彼女は頭を撫で
ながら褒めた。


「美月さんいないと終わる気しなかった。」


『そう言って貰えて光栄なんだけど、
来年からの飛雄が大丈夫が心配。』


「…美月さん、夏のこの時期はきっと
実家にいますよね?」


『そうだけどー!!!』


いつまでも自分を頼る気満々の後輩が可愛くて、
独り立ちして!と嘆くように彼の肩を押して
いても、彼女の顔は笑っていた。

押した手を影山はパシッと掴み、ぐいっと
彼女を引き寄せて、柄にもなく彼は彼女を抱き
しめて、ここ最近やたら後輩の体格の良さを
感じさせられてしまう彼女は、後輩の成長に
少し動揺してしまう。


『飛雄、なんか筋肉付いたね。』


「そうっすか?変わらないと思うけど。」


『英といい、金田一といい、飛雄といい、
みんなしっかり成長してるんだよねー。』


「英ってもしかして国見の事っすか?
…いつの間に。」


不服そうな顔で尋ねる影山に、美月はそうだ
けど…と縦に頷きながら返事をすると、彼は
彼女の肩に押し付けるように顔を埋めた。

こんなに彼が甘えるなんて珍しく、清水から
聞く彼の様子と重ねると、烏野の人達はきっと
この光景を目にしたら、目を飛び出して驚くの
では?と頭に浮かべて、ぽりぽりと頬をかく。


影山はいつも彼女の傍に居る国見と金田一に
妬いて、2人はたまに会っても変わらない距離
の影山に妬いて、似たり寄ったりな後輩達が
やっぱり可愛くてしょうがない。


妬かない妬かないと彼を宥めていたら、1番の
ヤキモチ妬きの幼なじみから着信があるので、
未だに彼女を抱きしめている遠慮のない後輩は
容赦なくブチッとそれを切ると、再びブーッ
ブーッと今度はテレビ電話を掛けてきたので、
彼女は切っちゃダメでしょと注意して、スマホ
を自分の耳へとあてた。


「おーい、って暗っ!!!
ちょっと美月、これはテレビ電話…
やっぱりいい、見たくないものが映りそう
だから、そのままでいて。」


勘のいい及川は、彼女が今いる場所を把握した
のか、ワントーン低い声に変わると、いつまで
そこにいるつもりですか?とあからさまに
不機嫌な声で彼女に聞いてくる。


『もう、用事は済んだからそろそろ帰ろうと
思っていたところだよ?』


「もう夜の8時半だよ。走ってる時に自転車
ないから驚いて、美月のお母さんに聞いたら
出かけてるって言うし。」


何時だと思ってるの!と自分の母親よりも母親
らしい言葉で彼は怒り、影山には会いたくない
が彼女が心配な及川は、彼の家に近いコンビニ
までは走るというので、彼女もじゃあと電話を
しながら、帰る支度を始める。


「飛雄にコンビニまでは送って貰って、
そのまま店に入ってきて!」


一方的に電話は切られ、何となく会話の内容を
把握した影山は途中まで送りますとまた仏頂面
に戻り、及川の言いつけ通りコンビニまで彼女
を送った。

一応彼は窓際のわかりやすい所にいるものの、
影山と美月が二人で歩いている姿は見たく無い
のか、視界に入れない様に雑誌に集中して美月
を待っているので、影山はありがとうござい
ましたと彼女に一礼すると、静かにその場から
立ち去り、彼女は手を振って見届け、自転車を
置いてコンビニに入った。


『徹、わざわざありがとね。』


彼女がお礼を言いながら及川に近づくと、彼は
つんとした態度を見せながら、バタンと音を
立て雑誌を閉じた。

そしてジュースを買って外に出ると、彼女の
自転車のカゴにジュースを置き、むっとした
表情を見せて、彼女の頬をむぎゅっと両手で
挟んだ。


「こんの、浮気者〜!!!この前から他校の
奴らに絡んでばっかりで!!!」


『そんにゃっ、困ってる後輩助けたかったん
だから、そこは許してー!』


「お人好しもいい加減にしてよね!
飛雄だって男だよ!?危ないから!」


『飛雄こそ変なことしないって。』


「それは、わかんないじゃん!!!」


及川が怒る分美月が言い返せば、彼はもう美月
なんか知らない!と怒りつつも、彼女の自転車
を及川が代わりに押して帰る。

すると、帰る途中に岩泉からも何処にいる!?
と怒り混ざりの電話がかかり、彼女はまた自分
の親よりも心配する彼に大丈夫だからと及川と
全く同じ言葉をかけるのだった。


「嫁入り前の娘がうろうろすんな!!!
危ねーだろうが!!!」


「ほらね!岩ちゃんも一緒でしょ!?」


『もー、心配してくれてありがとう。』






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