となりのキミ

『おーい、岩泉さーん。』


朝日と共に目が覚めれば、気になるあの子が
目の前にいるという、岩泉にとっては最高の
シチュエーションにも関わらず、美月の『起き
てよ!』と言う言葉も届かない彼は未だに
夢の中。


美月が岩泉の上に跨って体を揺すってみても、
動じることなく寝返りを打ち、起きるどころか
手をにょきりと伸ばして、布団ごと彼女の体を
巻き込んだ。

それに引き込まれた美月は、まさかの岩泉と
一緒の布団へ入る形となってしまっていた。


『ちょっとちょっと。』


すぅと彼は気持ちよさそうに深い寝息を立てて
おり、離れようと彼の胸を押してみても、岩泉
の両腕に腰元をがっちりホールドされてしまい、
さすがの美月も彼の力には適わないので、上手く
身動きが取れない。


『寝坊助には参ったな。』


自分のスカートのプリーツが乱れてしまわない
かを気にしながら、まだ夢の中の相手の頬を
つんつんとつついてみても、岩泉からの反応は
全く無い模様。


『ハジメー、そろそろ起きようよ。』


彼が目覚めないと何も出来ない彼女は諦めた様
にこつんと岩泉の額に自分の額を寄せ、彼が
起きる事を待ちながら、寝顔をじっと見つめて
いた。


5分くらい経った頃だろうか、岩泉は自分には
絶対に無い、ほんのり甘い香りと腕の違和感
に気がついたのか、やっとするりと両手が動き
出した。


彼はまだ寝ぼけて、無意識のまま手を動かす
ので、その手は腰元からおしりを掴み、そして
太腿を撫でるように移動して、その微かな刺激
で『んっ。』と美月の甘い声が漏れると共に
岩泉もゆっくりと目を開けた。


「なっ…!!!」


目を開けばくりっと丸い瞳と長い睫毛が自分を
しっかりと捉え、その手には明らかに自分の
ものでは無い、とても柔らかい心地いい感触。
そこで、自分が先程触れたものが何だったのか
を彼はちゃんと納得した様だ。


少し動けば唇が当たってしまいそうな、それは
すれすれの距離で、岩泉は一気に眠気から目を
覚ました。


『おはよう、やっと起きましたか。』


「何でお前がここに!?」


『まだ寝てるって聞いて起こしに来たら、
寝坊助ハジメ君に巻き込まれました。』


徹、今日は遅れていくから2人で一緒に行こう
って約束したでしょ?と言われ、本日は烏野
との練習試合があった事を思い出美月が自分を
わざわざ迎えに来てくれたことに、彼はやっと
気がついた。


遅いー!と美月にぐりぐり額を擦られ、唇を
掠めそうな至近距離に岩泉の当たる額が自然と
熱くなる。

この美味しいが恥ずかしい状況に、さすがに
耐え切れなくなった岩泉は、「すまん!」と
起き上がろうとして咄嗟に手を動かした。


それは先程まで触れていた太腿を掠めるので、
彼女もビクッっと体が動き『ひゃっ…』と
小さく鳴いたような声に、彼もピタリと動きが
止まった。


『ちょっと、ハジメくすぐったい。』


不意打ちの刺激に美月は力が入らなくなり、横に
なったままの彼女は自分を見上げて、顔を赤く
して目を潤ませて、困った顔で自分を見て
いる。


ちょっと待て…
お前のその表情は流石にヤバすぎる。


このまま彼女を抱きしめて、押し倒して本能の
まま自分のモノにしたい衝動に駆られそうに
なるも、ここは一旦冷静に。


これから練習試合もあるのに、欲望に任せて
それをやってしまえば、きっと一生後悔して
しまうので、岩泉はぐっと堪えて唇を噛み
締めた。


…しまったマズい。


そんなやましい考えが頭を過ぎってしまうと
やっぱりそこは健全な年頃の男子。


我に返っても寝起きの朝なだけあって、それ
だけはどうしても堪えきれず、避けられない
自然現象に冷や汗をかきながら、体勢を前屈み
にした。


『どしたの、ハジメも調子悪い?』


「いや、…何でもねぇ。」


岩泉の心配をして首を傾げる美月だが、岩泉
は彼女に気が付かれないように、平然を装い
ながら少し体をずらし、彼女から顔を反らした。


この情けねー姿、絶対に見せてなるものか。


岩泉は美月にバレずに済む作戦を思い付けば、
「便所行ってくる。」とそーっと彼女から離れ、
美月に布団をバサッとかけて、彼女が自分を
呼ぶ声から逃げるように彼はダッシュでトイレ
に向かった。


「悪い美月、今日は集中してーから
話しかけるのナシな。」


『あっ、うん。凄い気合い入ってるね。』


「……おぅ。」


そしてその後の彼は一言も発する事は無く、
美月と二人で学校に向かうのだった。


『おはよー!』


「おーっす!…てどうした?岩泉。
顔が疲れてねーか?」


「…理性と戦ってきた。」


「おぅ。何の事か知りたくないが朝から
お疲れ!」





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