みんなで感謝を
「あんら、いつの間に。」
風呂上がりに宿舎にあるソファに1人三角座り
で小さくなって、幸せそうな顔を見せながら、
アイスを口にする美月のテーブルには既に2段
アイスが重なっており、彼女が持つアイスは
4個目で、花巻は違う味を買った事に安心した。
花巻は自分も売店で買った手に持つそれを彼女
にお供えするように重ねて置けば、彼女は目を
キラキラと輝かせ、花巻に尊敬の眼差しを向け、
ちゃんと彼にもお礼を言う。
『こんなに甘やかされていいの?』
「今日頑張ったご褒美。他の奴らは?」
『ふふっ、ありがと。ハジメ達ならさっき
お腹空いたって言って、パン買いに行った。』
「マジかよ、どんだけ食うの。」
そう言いながら彼はもぐもぐと口を動かす美月の
隣に腰掛けて、自分用に買ったシュークリーム
をパクリと1口齧り付けば、気になるあの子が
湯上りでほんのり頬を赤くして、髪はアップの
お団子で隣で微笑んでいるので、練習疲れは
一気に吹き飛び、今は至福の時間となる。
よくよく見ると、彼女の足元はいつぞやと同じ
短めの短パンで、すらりと白い足が真横にある
ので、クリームをごくりと喉を鳴らしながら、
花巻は飲み込むと、帰ってきた及川の怒った声
が廊下に響いてきた。
「まーた、美月はそんな格好で足上げて!
女の子がしちゃダメでしょ、ねぇお父さん!」
「誰がお父さんだよ、コラ。
お前、後輩が目のやり場に困るだろ。」
『だって暑いんだもーん。
お行儀悪いのはちゃんとわかってるから、
今日だけは見逃してください。』
今日だけは彼女にそう言われると、及川は何も
言い返せず、もごもごと言葉を詰まらせる。
その間、美月は呑気にシャツを引っ張って
パタパタと扇ぎ、最後のアイスに手をかけた。
すると、アイスのビニールの蓋が上手く開けれ
ず、岩泉に渡し、『お父さん、開けてください』
と催促したら、彼女はコツンと軽く彼に頭を
小突かれるので、彼女も渋々足を下ろした。
「あれ、増えてんじゃん。俺がバニラで…」
「さっき俺はイチゴ買ってきた。」
及川が増えたアイスに気がついてそう言うと、
花巻が続いて答え、「俺はチョコ。」と松川が
言えば、蓋を開けながら岩泉も「俺はマンゴー」
と答え、全く被っていない顔ぶれに及川は凄く
ない?!と驚きながら笑った。
『皆に感謝です。』
ニッコリと笑いながら、開けてもらったアイス
を掲げると、美月はまた嬉しそうに木の匙で
掬ってそれを口にする。
「チョコ、美味しかった?」
『すっごく!!!』
既に空になった容器を目にして、松川が美月に
そう尋ねると、首を縦に頷きながら返事をした
彼女に満足して頭を撫でると、そんな彼女の
姿を見て、他のメンバーも優しく目を細めて、
彼女の周りに腰をかけるのだった。
『やーっと、平和に練習出来ますね。』
「いや、ホントよく頑張ったわ。」
「何も出来なくて悪かった。」
『ハジメ、次謝ったらそのパン齧るからね!』
岩泉の謝罪に美月が顔を顰めてそう答えると、
彼は再び悪かったと言いながら、彼女にパンを
差し出し、彼女はもう!と怒りながら、それを
がぶりと齧る。
花巻はお前もどんだけ食うの?と呆れながら、
体型とのギャップにやはり肉がつくところ…と
気になる部分に視線を向けると、すかさず及川
がマッキーやらしい!と彼を指摘した。
「てかマッキー、そろそろ席変わろうよ。
及川さんが先に美月にアイス買ったわけだし。」
「はぁ?そんなの理由になるわけねーだろ。」
しばらく花巻の隣に座っていた及川は、美月の
隣にいる彼を羨ましいと思ったのか、彼女の
隣に座るべく、及川と花巻がその席を取り
合って押し合い圧し合いしている横で、匙と
容器を手に持ったまま、こくりこくりと船を
漕いでいる彼女に驚いて、岩泉が食いながら
寝るな!と慌てて美月の持つそれを取り上げる。
「…て食い終えてるし。」
「器用だな、美月。」
岩泉が空になった容器に呆れていると、松川は
彼女に感心をするので、隣の花巻は不思議そう
に褒めるところか?と松川に突っ込んだ。
「お前、眠いんなら部屋戻れ!」
『んー…もうちょっと。』
「美月、それ絶対に寝ちゃうやつだから!」
及川もそう言って声を掛けると、立ち上がろう
とはせずに、甘えるように及川の首に巻き付く
ので、彼は一瞬その嬉しすぎる行為に浮かれる
が、寝惚けているのがわかった瞬間、ああ
いつものか…と慣れた反応で彼女を支える。
「なーに、そのいつもやってます感。」
「…なんか余裕な顔が妙に腹立つよな。」
その彼女の甘える姿はとてつもなく可愛く見え
たが、甘える相手が気に入らない花巻と松川は
目が座ったまま、不満を吐く。
『だって、皆と一緒に…いたいんだもん。』
「はいはい、明日も一緒だからね?」
ただ、あまりにも美月が可愛い言葉を吐いて
くれているので、2人も許してしまい、彼らの
目尻は下がっていた。
滅多に自分に甘えてこないからか、及川は美月
の反応を嬉しくしながら受け入れていると、
急に鼻を近づけて、首元の匂いをくんくんと
犬の様に嗅いできて、『うん、徹だぁ。』と
ふんわりと笑ってみせるので、及川の体温は
急上昇して耐え切れなくなり、かばっと彼女
から自分の身を剥がす。
反射で岩泉が美月を受け止めて、及川を怒鳴って
睨むと、及川は顔を手で押さえて首をブンブンと横に振りながら拒否して、残りの2人はアホだろ
と苦笑いを浮かべた。
「あっっぶねーだろ、クソ川!!!」
「だって、無理!今の無理!俺絶対に食べる!」
「あーあ、エロ川ついに壊れてんじゃん。」
「いや、今のは確かに破壊力はヤバかった。」
狼狽える及川と花巻と松川はゴム取っとくか?
と彼女の髪を解けば、ふんわりと甘い香りが
漂ったので、それにみんなが黙り込んだ。
結局、岩泉が美月を自分の背中に乗せて、
眠る彼女をおんぶの形で彼女の部屋へと運んで
行き、道中に岩泉達を見掛けた後輩達が驚き、
合宿最後もの寝落ちの彼女に残念そうな顔を
見せながらも、お疲れでしたもんねと彼らは
優しく笑って、労いの言葉を賭ける。
「美月さん、ゆっくり休んでくださいね。」
「頑張ってる美月さん、カッコよかったです。」
矢巾と渡に続くように国見と金田一の2人も
明日はいっぱい笑ってくださいねと寝ている
彼女に優しい言葉をかける。
彼女を背負っていた岩泉は、そんな可愛い後輩
達に慕われている美月を少し羨みながら、彼女
の代わりに岩泉が後輩にありがとなと礼を述べ、
再び彼女を部屋まで運んだ。
「お前は本当に幸せもんだな。」
気持ちよさそうに眠る彼女に岩泉もそう言い
ながら声をかけると、つんと彼女の頬に指で
触れ、そしてしばらく頭を撫でて満足すると、
よいしょっと体勢を立て直し、部屋を静かに
後にする。
「…何だよ、お前ら。」
彼女の部屋から出るとニヤニヤと笑いながら
待ち構える3人に、岩泉はお決まりの仏頂面で、
彼らの反応に口を尖らせれば、彼らはその表情
を変えないまま、岩泉の肩をぽんと軽く叩くの
だった。
「岩泉君は本当に紳士だねぇ。」
「絶対に背中に当たるもんで理性飛ばすと
思ったんだけどなー。」
「…くっそ、お前ら!!!!」
「岩ちゃん、岩ちゃん、美月寝てるから
声は抑えて!!!」