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『徹、そろそろ起きなよー!…てゆうか、
朝練が無いだけで、どうしてこうも違うの?』
新学期の初日に早速美月は幼なじみの部屋で
大きな声を出し、朝から彼女の声が響く。
朝練の無い本日はどうしても怠けてしまうのか、
及川を迎えに行けばまだ寝ていると言われ、
彼の母親には、美月が起こす方が早いと部屋
にそのまま通されてしまい、現在この状況に
至る。
ちなみに岩泉の方にも念の為電話をかければ、
彼女の電話には出たものの、寝惚けた声の会話
にならない返事を返すので、何となくそのまま
もう1件も足を運ばなければならない予感しか
なかった。
昨夜は3人で会っていた為、美月も責任を感じ、
彼を起こしに来たものの、なかなか起きよう
とはしないので、こんな事なら先に岩泉の家
に行けばよかったと後悔をしながら、彼女が
最終手段だと、彼の上へどかっと跨る。
すると及川はやっとうっすら目を開け、あー、
おはようと間延びののんびり口調で彼女の腰に
手を回すと、そのまま再び目を閉じた。
『徹君、挨拶と行動が合ってないです。』
「んー、美月もう少し寝かせて。」
『ダメダメ、絶対ハジメも同じ状態だから
本当に起きてください。』
「…んー。徹さん今は眠り姫だから、誰かさん
がチューしてくれないと起きれません。」
この男は突然何を言い出すんだ。
これはまだ寝ぼけているのか、それともふざけ
ているのか、いまいちわからない状態で瞼を
開けずに口を尖らせて待つ彼に、美月の頭の中
にはそう浮かび、少し苛立ったのか黙り込む。
『もー、困ったお姫様だなぁー。』
一刻も早く出発をしたかった美月は、昨日の
空気とはまた違っていたからなのか、迷いも
せずに自分の髪の毛を耳にかけて、及川の前髪
を手で上げて、彼の額へと柔らかい唇を落とす。
「…美月、今何した?」
すると彼はやっとそこで目が覚めたのか、そう
一言だけ零して無言になると、目を思い切り
見開いて固まり、顔が段々と紅潮する。
すると、美月が跨っていた事にも彼は気が
ついていなかったのか、なんて所にいるのよ!
と嘆きながら、そのままタオルケットで顔を
隠そうとするので、美月は彼のその手を止めた。
『三度寝厳禁。本当に眠り姫?白雪姫?
悲しいくらいに全然可愛くなーい。』
「何で美月はそんな平気なの…?
もう俺はお嫁に行けない。」
『徹が寝惚けてチューしないと起きないって
言ったんでしょ!そもそも、君はお嫁には
行かないからね。』
「待って、俺がそう言ったの?…いや、確かに
そう言ったのかもかもしんないけどさ。」
『もうもう!ぐず川君お願いだから早く!!
ハジメの所にも行かなきゃなのー!!』
「美月、わかったから岩ちゃん化しないで。
後からそっち行くから〜!」
時間に追われて躊躇いがない美月が及川の服
を容赦なく脱がそうとすると、彼は恥ずかしさ
からそう嘆くので、彼女は本当にすぐ来てよ!
と怒りながら彼から降りて、そのまま岩泉の家
へと急いで向かった。
『ちょっと待ってハジメ、もう…ひゃっ!』
「は、美月!!?いや、これは!!!
その…すまん!」
すると、岩泉が今度は何かをやかしてしまった
のだろうか、及川と合流すればほんのりと岩泉
の頬が自分と同様赤く染まっていたので、及川 と岩泉はおはようの挨拶だけを交わし、それ
以上は互いに何も触れないまま黙々と歩いた。
そして、バスに何とか間に合った美月は安堵
の息を漏らし、眉間に皺を寄せながら道中で
遭遇した花巻に先程の愚痴をこぼすのだった。
「おはよー、て美月の顔が朝からすげぇ
疲れてんじゃん。」
『おはよ。寝坊助2人を起こしたからねー。
及川君は眠り姫だって言いながらキス要求して
くるし、岩泉君は相変わらず人を布団に巻き
込んで、お尻触っちゃうしでもう散々でね?』
「…クソ川最低かよ。」
「…岩ちゃんこそ何やってんの?」
「いやいやいやいや、お前らこそ朝から
揃いも揃って何やってんの?」
美月の愚痴から聞こえた話に、岩泉と及川は
聞いてないと言った顔で2人で見合わせるので、
彼女の言ったことを想像したくなかった花巻は
げんなりとした表情でそう返すと、彼女を彼ら
から離そうと、彼女を自分の元へ寄せた。
「2人は美月に感謝だな。」
『あ、松川おはよっ。』
朝から大変ね。と松川も彼らと合流をして、
美月へ憐れむ声をかけると、ジロっと彼は
及川と岩泉の方向へ視線を向けるので、2人は
青ざめながら声を揃えて寝惚けてたので!と
慌てて弁解をした。
「いや、まずは美月に謝りなさいよ。」
『もう私は慣れっ子なので、大丈夫でーす。』
ひらひらと諦めるように手を振っている美月の
ツッコミどころ満載のその回答に、松川も花巻
も果たしてそれは慣れる事なのか?と頭に疑問
を浮かべるが、彼女の場合、指摘し始めると
キリが無いので、2人はそれを諦める。
それよりもと彼女は今度は突然足を止めて、
隣にいた花巻のベルトにカチャカチャと手を
かけ始めたので、花巻は慌ててえ?ちょ、美月?
と彼女の大胆な行動に言葉を詰まらせた。
「美月、こうゆうのは2人きりの時に!」
『花巻は一体何を言ってるの?今日は服装
検査があるんだから、すぐそこで先生達が
待ってるんだよ?』
「どうりで、美月のスカート丈がいつもより
長いと思ったら。」
「いやいや、まっつんは普段美月のどこを
見て生活してるの?」
「お前が言うかよ。」
只今の距離は校門までにまだ数メートルはある
ので、彼女の行為に納得した2人はそう言葉を
漏らし、緩く着こなしていた花巻のシャツと
折って履いていたズボンを直してあげる彼女
を見ながら、彼と似た格好をしている岩泉も
やべ。と焦った様子で服装を正す。
『あ、松川もネクタイが!』
「ん。ありがとね。」
「松川、お前は絶対にわざとだろ。」
美月のおかげで何とか反省文は免れた花巻と
岩泉は、今日だけは彼女に頭があがらない日と
なり、そうこうしていると美月を見つけた
美月のクラスメイトが彼女を奪うように連行
して、及川も後輩女子に捕まって、そこから
はそれぞれがバラバラに行動し始めた。
「何か、こうゆうの見ると学校始まったー!
って感じだな。」
「あー、確かに。
ずっと練習あると一緒だったから、離れる
って感覚が久々だよな。」
「美月と同じクラスのお前が羨ましいわ。」
「いいだろ。」
「何だよ、素直に自慢かよ。ムカつくな。」
挨拶をしてくる女子に向かって、へらっとした
表情を見せる及川は完全に無視をして、3人は
楽しそうに友人と笑う彼女を見届けて、そこで
やっと新学期というものを実感する。
そして思い出したように鞄から荷物を確認して、
あ。と言葉を小さく吐いて頭を抱える花巻と岩泉
を松川はいつも通りねと呆れたように見るの
だった。
「やっべ、英語の提出ノート忘れてやがる。」
「あーあ。…まじか、俺もプリントねーかも。」
「お前ら美月が聞いたら、せっかく服装検査が
クリアしたのに!てカンカンに怒るぞ?」
「岩ちゃん、どうしよ!俺、数学のノートを
家に忘れちゃってる。」
「いや、もう知らねえからな。」