侵入者発見
1週間というのは早いもので、つい先だと思って
いたOBとの練習試合はすぐに迎え、いつもより
人数の多い空間に美月は慌ただしく動いていた。
金田一や国見にも手伝いをお願いして、スコア
ボードを持ってきてもらっている間に、彼女は
ビブスやその他の必要なものを準備する。
合宿中とはまた空気が違い、自分の学校にいる
と迫力が増すのか、後輩達の行動が堅く見え、
彼女もいつも通りの気持ちで動こうとはして
いたのだが調子が狂うのか、『しまった。』と
いつもより自分の行動を嘆く言葉が多かった。
『金田一達大丈夫かなぁ?』
「俺、声掛けてきますよ?」
『矢巾助かる、ありがとう。』
美月がなかなか戻って来ない金田一と国見の心配
をしていると、矢巾はそう言って倉庫の方へと
向かっていくので、彼女は準備したものと時計の時間と見合わせた。
「美月、ちゃんと水分取りなよ。もうあの人達
はいないし、気楽にやればいいんだからね。」
すると、及川がずっと動きっぱなしの彼女の
体調を心配して、彼女が自分に準備したボトル
を差し出すので、及川の言葉に素直に頷き
ながら、緊張で少し乾いた口を潤した。
そうしているとスコアボードがやってきて、
彼女がお礼を言いながら、セッティングを
後輩と一緒になって手伝う。
『持ってきてくれて、ありがとう!
大丈夫だった?』
「はい!なんか変な気配を感じてしまって。」
『ええっ!?それって…おばけ?』
「馬鹿、美月さん怖がらせるなよ。」
倉庫から何かしらの気配を感じたと、金田一が
美月に説明をしたら、幽霊を真に受けた彼女は
驚きの声を上げるので、そのやり取りを聞いた
国見は、余計なことをと悪態を着く。
その話を聞いて怯える美月と、緊張から顔が
強ばる金田一の表情を見兼ねた及川が声を
張った。
「はーい、呑まれないよ。」
金田一の緊張を解すように声をかけて、締めの
美味しい部分は岩泉が持っていくので、その
いつも通りの空気に彼の緊張が解れている横で、
花巻はお前の顔も堅いぞ?と物理的に美月の顔
を解していた。
「違うとこも解したろか?」
『花巻のその手付き、なんかイヤ。』
「最近、美月のそのバナナで釘が打てそうな
冷たい目で見てくるのが癖になるんだよな。」
「お前、日に日に変態味が増してきたな。」
ニヤつく花巻から逃げるようにささっと美月が
松川から隠れていると、及川は女子からの視線
を感じると言いながらいつもの様におちゃらけ
るので、それに岩泉は一括をして先輩達のやり
取りを見た金田一は呆れた顔を隠し、大学生も
複雑そうな顔をして彼らを眺めるのだった。
そして試合が始まると空気は一変して、及川が
上手く仲間を活かして攻撃を仕掛ける。
ゲームの空気がいい方向へ流れた所で区切りを
つけると、今度は及川が大学生チームに合流を
して、試合は再開され、国見と金田一が点付け
に回ってくれたので、美月はノートを持って
少し仲間から離れた窓際に経つと、そのまま
データを取るのだった。
及川は絶好調だった。
初めての組み合わせにも関わらず、相手の欲しい
所へ調整をして、大学生の特徴を活かす。
それは初めての試みで、後輩は尊敬の眼差しを
向け、先輩は一目置き、美月もその好調ぶり
を満足そうに眺めていた。
コートの向こう側では、金田一と国見が何やら
こそこそと会話するのが見えたので、美月は
それを不思議に思い、首を傾げる。
もしかしたら必要な備品が足りなかったのかも
しれないと心配をしていると、背後から気配を
感じて、ふと後ろを振り返ると黒い影と目が
合い、先程の金田一の話を聞いていた彼女は
驚きから声が出ないまま、喉がひゅっと鳴って
しまった。
だが、彼女がそこに見えた姿は見知らぬ物体
ではなく、よく知っている人物の姿。
今、飛雄が見えた気がしたんですけど!
彼女は心の中だけでそう叫んで、仲間とは反対
側にいたことにホッとしながら、大学生にも
届かない大きさで、彼にこそっと窓際に近づいて、尋ねてみる。
『…何してるの?』
なんとなく理由は先日会った時の様子から把握
済みだか、一応形だけでも聞いておく。
そこに返事はもちろん無くて、誰にも見えない
ようにポケットにあった塩飴を窓の隙間から
ポイッと投げるように渡したら、影山はそれを
しっかりとキャッチしたのか、落ちる音は無く、
幽霊では無いことにそこで安心をした。
『暑いから程々にね。』
見られて困るものなんてないと思った美月は、
大騒ぎにならないように来客者にそう告げ、
彼女は休憩に入るとドリンクを配りに自分の
持ち場へと戻る。
そして、何食わぬ顔で仲間と会話をしていると、
倉庫から騒がしい物音がするので、その音に
驚いて及川と岩泉と一緒に彼女も向かえば、
金田一がマットを広げて焦る様に彼女達の方を
見ていたので、美月は困った笑顔を見せるの
だった。
美月よりも先に人の視線を感じていた金田一。
彼もその原因不明の影に怯えている事に気が
ついた彼女は、その答え合わせをしてあげる
訳にはいかず、彼女は罪悪感を感じながら、
どう誤魔化そうか悩み、ごめんねと心の中で
金田一に謝罪をするのだった。
「もしかして…俺のための花道とか?」
同じくどうしたの?と金田一の様子を伺う及川
は、いつもに増して饒舌で、どうすならレッド
カーペットがいいなと言いかけた所で、我慢の
限界を迎えていた岩泉が彼の鼻に自分の指を
引っ掛け、見事な鼻フックを決めた。
「あ?ハナがどうしたって…?」
「岩ちゃん、鼻はヤメテ!
ちょっと、美月も見ないで。」
痛がる及川を苦笑いで見届けていると、彼女に
みっともない姿を見られたくなかった彼は、
必死にそれを止めようとするが、岩泉は気に
かけることも無く、鼻血で染めるか?と物騒な
言葉を続けた。
「お前がチャラチャラしてっから、後輩が
訳のわかんないことをするんだよ!」
「それは、さすがに、言いがかり!!」
『はいはい、ハジメも気持ちはわかるけど、
そろそろ落ち付きなさいね。』
鼻血が出たら試合出来ないでしょと岩泉を
宥め、オロオロする金田一の肩をぽんと叩き、
先輩もああだからリラックスねと声をかけ、
落ち着きのない後輩のフォローは謎の言い争い
を始めた2人に任せ、彼女はその場から去った。
「ちょ。岩ちゃん!美月がいなくなったから
って遠慮なく鼻フックもう1回仕掛けないで!」
美月はまた試合が再開された途中で少しだけ
抜け出し、こら!とボトルを差し出しながら、
幽霊では無かったもう1人の後輩に声を掛けた。
『どうせ、集中し過ぎて水分取ってないん
でしょ?』
「美月さん。」
抜け出して自分に会いに来てくれた彼女に驚き
ながら、影山は彼女が用意してくれたボトルを
受け取って、身体を潤わせると、その冷たさが
心地好くて、思わずふうっとため息が出た。
『もう、ゆっくり飲みなさいね。』
その震えは試合を見た興奮なのか、体に冷たい
ものを入れた反射からか、ぶるっと武者震いを
見せるので、このバレー馬鹿は…と美月は半分
呆れ顔で笑っていた。
予想通り、よく見れば蚊にも数箇所噛まれて
いたので、彼女は用意周到に虫刺されの薬も
塗って上げて、彼はすんませんと小さく謝った。
でも、彼の表情をみたら責めれずで、体育館の
中の方から誰かいるのか?と見つかりそうな
会話が聞こえたので、つい反射で彼女も影山と
一緒に隠れてしまった。
「何で、美月さんも隠れるんすか?」
『何となく、今こっそり抜け出したんだよね。』
すると、そこには運がよく及川のファンが彼の
写真を撮りにやって来ていて、彼女達が謝り
ながら、駆けて行ったので2人が見つかること
はなく、2人して安堵の息を漏らす。
『校門まで送るから。そしたら他校だって
わかりにくいでしょ?』
校門までの道中で、美月のクラスメイトが
見知らぬ生徒に驚いて彼女に声をかけるが、
弟!と言い切ってその場から上手く去って
行けば、ぎこちない動きを見せていた影山は、
少し不服そうに口を尖らせていた。
「そこは彼氏とかじゃダメなんすか。」
『もう、それこそ大騒ぎじゃ済まなくなるん
ですけど。このまま私も烏野行ってもいいなら
するけど?』
澤村君に挨拶行くよ?と美月が言葉を続ける
と、彼はすいませんしたと先程の言葉を訂正
するように頭を下げて謝るので、彼女は声を
出して笑った。
目立たないと思い込んでいた彼女達はのちに
高身長のイケメンと美月が校内を歩いていた
と話題になり、彼女は誤魔化すことに苦労する
羽目になるのだが。
今は滅多に出来ない、自分の学校を歩く時間
を僅かな間だったが、楽しんでいるのだった。
「美月、おかえり…なんかお前から男の臭い
がする。何?さっき誰かに抱きつかれた?」
『べっ、別にな、何も無かったよ!!!
さっき部室に忘れ物取りに行ったら、他の部
の子と少しだけ会話したくらいからかな。』
「は、どこの奴?バスケ部?テニス部?」
『(もう!帰りにいきなり抱きつくから、勘の
いい徹にバレそうじゃん、飛雄の馬鹿馬鹿!)』
「及川、お前ニオイで察知とか変態味増して
ねーか?」
「マッキーには言われたくないね!」