キミと駆け抜ける
『ハジメ、頼りにしてるから。』
「おう、任せろ。」
天候にも見事に恵まれ、これから行われる競技
の準備をするその男女の気迫は、他とは少し
だけ違って見えていた。
男女でペアで組むその競技は、それぞれが恥じ
らいながら紐を結ぶ中、この2人だけは周りと
少し空気が違い、それぞれ片方の足を差し出し、
1つの紐でぎゅっと縛る。
この距離なんてとっくの昔に慣れていて、今は
目の前の優勝という言葉しか頭になく、2人の
目からは、闘志が剥き出しになっていた。
「何さ何さ。同じクラスだからって、仲良く
引っ付いちゃって。」
「あれ、及川君チームが違うんじゃない?
あっちじゃないの?」
「こっちの方が美月や岩ちゃんよく見えるから
いいの!」
「寂しいなら寂しいって素直に言えよ。」
端で軽く練習をしている2人を遠くから見ていた
及川が、自分がそのペアにならなかったことが
気に入らないのか、つまらなそうにしていた。
今日は、学生最後になる体育祭。
学生最後だからこそ、彼女と楽しくイベントを
過ごせる事を望んだが、残念ながらチーム分け
は、クラスの偶数と奇数で分けられ、バレー部
のいつもの仲が良いメンバーは、及川だけが
違うチームとなってしまった。
彼は不服そうにしているが、1人だけ断トツで
人気があるせいか、声援ではチームバランスは
丁度よく、寧ろキャーキャー黄色い声援が
凄まじいせいか、岩泉の闘志に火をつけた。
そして、美月は最初は彼を宥めていたが、悪ノリ
をした花巻や松川にアイス奢ってやるよと餌を
吊るされ、只今の競技ではこの状態となって
しまった。
その間、彼女や岩泉のクラスメイトが違う
チームだろ!と注意をし、自分のチームに戻る
ように指示されたが、それを無視して居座って
いるので、花巻も松川もそれには苦笑い。
及川と同じチームには、後輩では渡と国見が
いて、国見も及川同様、彼女と同じチームに
なりたかったのか、不貞腐れた顔を金田一の
横で見せていた。
「お前、俺と変われよ。」
「いや、クラスなんだから無茶を言うな。
たまには俺にだって美味しい思いをさせろ。」
先程すれ違った際に、美月が金田一に頑張ろう
と声を掛けた所が早速気に入らなかったのか、
及川さんと一緒はちょっと…と初っ端の入場の
時の他校の女子の声援で、更にやる気を削がれ
たのか、不服そうに金田一を見る。
そして、岩泉との二人三脚を見て気分が上がる
どころか、下がる一方でへそを曲げた国見に、
金田一がそんなの知らねーよと、助けを求める
ように先輩達を見れば、2人は金田一に向けて、
任せろと伝えるように、頼もしく親指を立てて
いるのだった。
「牧野さんが元気そうなら、いーじゃねーか。」
それぞれの仲間達が見守る中、ピストルの合図
と共に、2人は息を揃えて走り始めると、周り
の男女を気にかけることなく、早いペースで
ゴールまで駆け抜けて行った。
「え、紐の意味…ある?」
「この前の走るの禁止にして、練習ほぼ無し
でもこのペースか。」
「及川よりも息ピッタリなんじゃない?」
「ちょっとやめて、余計に置いてけぼり感!」
走る間の実況も「おしどり夫婦、容赦ない!」と
彼女達のクラスメイトなのか、お似合いを意味
する言葉を並べられる。
そして1番にゴールをして、嬉しそうに微笑み
合う姿を目にしたら、やはり羨ましくなったの
か、3人は一気に無言になり、クラス一緒って
いいよなと松川がポツリと一言吐いた。
「まっつん、チームが違う俺の前ではそれは
禁句!」
勿論、その言葉に1番に反応を見せたのは及川
で、めんどくせーと花巻が欠伸をしそうになる
頃には、岩泉だけが戻ってきた。
「おかえり岩ちゃん。見せつけてくれて、
どうも…って、あれ。美月は?」
「この後のリレーも参加なんだよ。」
「めっちゃ、走んじゃん。」
美月はアンカーらしく、タスキをかけて最後尾に
並ばされ、楽しそうに友人に声援を送っていた。
すると及川と目が合って、及川が彼女に手を
振ろうとすれば、「ちょっと。」とピリッとした
厳しい女子の呼び掛けが聞こえてきて、及川は
恐る恐る後ろを振り返った。
「アンタね、全校が見てるんだから無闇矢鱈に、
美月に手を降らないでよ。
せっかく、美月がチャラ川のファンに気をつけ
てるってのに。」
「それでなくても他校の女子も来てんのよ。
美月を困らせたいわけ?
別チームなのにそこに居させてもらえるだけ
でも有難く思いなさいよ。」
「えっ…、はい。
…クソ、お前らに何も言い返せないとは。」
「おっと、警備がお強い。」
及川が手を振る前に女バレの彼女と仲良い友人
が目を光らせていたのか、鋭く及川に指摘して、
及川も言い返せずに固まっているので、花巻が
その恐ろしさに他人のフリをして、1歩下がる。
「岩泉も、ちゃんと及川見張ってて。」
「お、おう。すまんかった。」
腕を組んでダメ出しをする彼女達には、圧力で
岩泉もタジタジで、松川は安心だなと1人だけ
楽しそうに傍観していた。
「美月、走って走って。」
「お、抜いた抜いた!!!」
「美月さん、頑張って!!!」
バトンを受け取った彼女は、相手チームが先頭
を切って押され気味だった現状を覆すように、
綺麗なフォームで掛け出すと、何とか相手に
追いついて、抜かそうと頑張っている。
するとみんな彼女への応援に熱が入ったのか、
後輩達や友人の嬉しい声援が混ざっている中
に、敵チームのはずの及川も先程の注意を
忘れて1番必死に応援をし、ゴールテープを
嬉しそうに切った彼女を見たら、よっしゃ!と
阿吽の2人が拳を握ってガッツポーズを見せる。
『よし、1番取ったぞー!』
立て続けにトップを勝ち取った美月は、嬉し
そうに友人達にピースをして、退場をしたら、
笑いながら色んな女子と抱擁をしていた。
「ああ…混ざりたい。」
「1歩でも近づいてみろ、殺されるって。」
「さーて、次は俺が出るわ。」
「松川は、何に出るんだ?」
「玉入れ。」
及川が指を咥えて、女子同士の戯れを眺めて
いたら、花巻は諦めろと諭すように肩を叩き、
次の競技に赴くのに肩を伸ばす松川を見て、
岩泉はチートかよと確実に有利な彼を羨まし
うな顔で見ていた。
お楽しみはこれからと言ったところか、及川達
を見つけた彼女は、満面の笑顔で皆の元へと
走って向かう。
「美月凄かったね!」
両手を広げてそんな美月を待ってましたと、
及川が喜んで迎えて待てば、彼女はきょとんと
した顔で驚いて首を傾げ、その反応にまた彼は
少しだけ傷つくのだった。
『え、及川がなんで喜ぶの?チームが別の
はずなのに。』
「ああ…名前の距離感!!!
美月の全力疾走に感動しただけなのに。」
『ふふっ、ごめんごめん。徹ありがとう。』
「あ、ハグはやめとけ?そこの女子達に締め
られるって。」
「そう言いながら、マッキーは美月の肩に
易々と触れないでください!」
「あー、うるせぇ。誰かコイツ向こうに連れて
ってくれ。」