一緒がよかった

この体育祭という名のイベントは、どうも人を
熱くさせてしまうのか、珍しく苛立つ素振りを
見せる松川が、玉入れを終えて戻ってきた。


あと僅かで勝てそうな所までは行ったのだが、
なんと相手チームが主にバスケ部で固めており、
籠に目掛けてシュートに関しては、向こうの方
がどうしても上手で、惜しくも負けてしまう。


それは、どうやら及川のクラスメイトだった
らしく、うちの仲間強いっしょ?と誇らしげに
ピースサインで迎えるので、その態度が余計に
松川をイラッとさせた。


「騎馬戦の時、覚えとけな。」


普段は冷静な態度の松川なのだが、やはり全国
を狙うだけあり、負けず嫌いな部分はもちろん
彼だってある。

及川の様子から、松川達はこの人選は彼の策略
だったとわかったのか、無駄に松川を煽る様子
から、花巻は呆れて目が座っていた。


「何気にやる気満々かよ。」


「だって。やる気出して、女の子達の期待には
ちゃんと応えてあげなきゃ!」


及川のその発言に、岩泉もさすがに腹が立った
のか、指2本を構えて、彼の鼻に差し込む。
すると鼻だけは!と嘆く及川に構うことなく、
彼は怒声を上げるのだった。


「そのチャラチャラした態度が腹立つ!」


「ありがとう岩泉、少しスカッとしたわ。」


『松川お疲れ様、惜しかったね。
でもバッチリ良い写真は撮っておいたよ。』


競技が始まると用事を頼まれて、彼等とは離れ
た場所で、女友達と楽しく応援をしながら、
写真を撮っていた美月が3人の元に走ってきて、
穏やかな空気はすぐに戻った。


「あ、ホント。体育祭っぽいわ、ありがとね。」


彼女は、写真を撮ることを手伝うように頼まれ
ていたらしく、松川は少しそれに小っ恥ずかし
さがあったのだが、自分をちゃんと探してくれ
た事が嬉しくなって、思わず目を細める。


そして、カメラの画面を楽しそうに見る2人を
目にしたら、羨ましくなった及川がまた拗ねて
しまい、次に同じ競技に出る花巻がずるずると
彼を引き摺り、入場門へと向かうのだった。


「俺も写真撮ってもらいたい…。」


「お前のファンが嫌って程撮るだろ。」


「美月がいいの!」


「こちとらお前の声援聞きながら走るんだから、
同情なんて絶対にしねーぞ!」


2人が参加する競技は障害物競走で、出場前に
軽く足をストレッチするだけで、キャーキャー
言われる及川の横に立つのは、やはりやり辛い
のか、花巻は顔を歪ませる。


しかし今回は、『花さん、ファイト!』と楽し
そうにカメラを構えて笑っている美月が見えた
ので、勝ち誇った顔を見せると、及川が女子に
笑顔で振る手を止め、悔しそうに下唇を噛むの
だった。


「こっちの方が、何倍も嬉しいよな。」


「マッキーは、煽るのやめてください!」


学年混合で行われたその競技は、自分達の後輩
も参加していたようで、列が変わった花巻は
安心した表情を見せ、及川と並んで走る予定
となってしまった京谷が、あからさまに嫌そう
な顔を見せた。


「京谷、先輩後輩関係ねーからな!叩き潰せ!」


「岩ちゃん、俺たち友達だよね!?」


「うわっ。あのレーンじゃなくて、本当に
よかった。」


岩泉の野次に素直に京谷は頷き、隣で見ていた
美月は、及川を可哀想に思っていたのか、怪我
をしないことを願いながら、控えめな声援を
2人に送る。


松川は何も言わずに手を振っていたが、手を
振る反対はちゃっかり彼女の腰元に添えていた
ので、それを目にした及川と花巻は揃えて、
「松川さん、手!」と大きな声を出していた。


ピストルの弾く音と共に走り出せば、京谷には
岩泉に言われるがまま、物凄い脚力でコースを
駆け抜けて行った。


「何でそこは素直なんだよ!」


『2人とも凄い凄い!!』


京谷は、及川の声援を完全無視して走っていたが、及川にも先輩の意地というものがあるので、
大きな差は付けさせないように、ペースを保つ。

そして、網をくぐり抜けて飛び箱をひょいっと
飛び越し、平均台を通るところで、勝ち目が
見えたのか、及川はニヤリと笑った。


「へっへーん!及川さんに勝とうだなんて、
まだ早いよ狂犬ちゃん。」


京谷の方が先に到着していたが、及川がすぐに
追い越すように、小さな三輪車をキコキコと
足早に器用に漕ぎ始め、最後にパンをくわえる
と嬉しそうにゴールテープを切り、彼に憧れる
女子からは黄色い声援が飛び交うが、仲間達は
複雑そうな表情で、彼を見届けた。


「勝ったとこが三輪車って…。」


『どっちが大人なのか、わかんなくなっちゃ
ったね。』


「・・・・・・。」


その次にゴールした京谷も、決して悔しそうな
素振りを見せておらず、松川と美月の言葉に
返事をしないまま、岩泉は無言で腕を組んで
いた。


そして、次に走った花巻は楽々と1番を取って、
競技から戻って来ると、袋に入っていたパンを
彼はやる!と言いながら、美月に笑顔で渡し、
彼女も嬉しそうに受け取った。


『わーい、ありがとう。でも、お昼ご飯あるし
食べ切れなくなるから、半分こ一緒に食べよ。
せっかく、花巻が出たんだし。』


「俺、美月のそうゆう所好きだわ。」


笑顔でパン2人で仲良く分け合って口にして、
花巻にも自分の撮った写真を見せていると、
突然、ガサッ美月の首の後ろの隙間にはパンを
詰め込まれ、彼女がびっくりして振り返ると、
京谷がそのまま彼女の横を通り過ぎていた。


『京谷!!?もう、ちょっと!』


「おっと、新手の餌付けだな。」


戸惑う彼女の呼び掛けは完全に無視をして、
自分の定位置へと戻って行き、なかなか素直に
なれない後輩の態度を先輩達は面白がる。


「え。俺は狂犬ちゃんにさっき、軽く舌打ち
されたんだけど、この差は何?」


通り去った辛辣な態度の後輩を見届けた及川は、
2人のやり取りを目にして、少し寂しそうに
戻ってきたので、松川は憐れむように彼の肩を
叩いた。

『おやつまで出来ちゃったね。』


「しっかり食えってことだろ。」


すると岩泉はごく自然に、隙を狙って及川から
パンを奪うと、受け取ったパンと睨めっこを
している美月の頭をぽんと叩き、奪ったパンに
遠慮なく齧り付く。


「何で岩ちゃんは俺のパン食べちゃうの?」


「あ?腹減った。」


「狂犬ちゃんのパンを貰えばよかったじゃん!」


「あれは、美月が貰ったやつだろ。
お前のなら誰も悲しまねー。」


「俺が悲しむでしょ!」


『まぁまぁ。今日のお弁当は、及川さんの分も
ちゃんと作ってあるから。』


もぐもぐと我関せずで咀嚼をする岩泉に及川は
怒り出して、返してよ!と彼の体を揺らし、
美月は、そのよくある喧嘩の間に慣れたように
入り込んで、お昼は仲間外れじゃないよ!と、
さらっと笑って言いのけた彼女に、思わず及川
は、嬉しさから言葉を失う。


「え…今なんて?」


『徹ママからもリクエストがありまして。』


美月は、昼の休憩の合図と共に待ってるからね
と手をひらひら振りながら、岩泉と先に歩き
出して、花巻や松川もみんなで食うぞと及川
に向けて、部室に集まるサインを送る。


及川の待ったの声も虚しく、気がつけば自分の
周りには差し入れを準備した女子達が集まって
いて、その姿は遠くなり、どうしても時間が
惜しくなった彼は、彼女達には謝りながら、
今日だけは絶対にと部室に向かって走って行く。


息を切らして部室へ着けば、弁当を3個持って
いた美月が及川を笑顔で迎え、彼は愛しさから、
思い切り彼女を抱き締めた。


「弁当を開けて早々、お前らは俺のオカズを
取ろうとするなー!」


「抱きつき料な。」


「対価が大き過ぎる!!!」


「はい、美月あーん。」


『松川ママの卵焼きは、やっぱり最強。』


「おぉ…、相変わらず唐揚げうめぇ。」





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