繋いで走る

昼休憩が済むと、競技の箸休めといったところ
か、クラブ対抗リレーが始まった。

箸休めといっても、1位には自分達の希望する
新しい備品の支給と豪華な景品が待っており、
体を休めるどころか、本気を出さなければ
ならない競技となっていて、美月は参加する
仲間のコンディションをチェックしていた。


『金田一が第1走者だから、これ渡しとくね。』


「はい!…て、バトンじゃないんすね。」


『対抗リレーは、バトン代わりにその部の道具
なんだよ。だから、部によって渡し易さも
違うし、タイムロスも計算しなきゃだから…』


バトンの代わりとなるバレーボールを倉庫から
持ってきていた美月が、金田一に渡して説明を
していると、背後からちょこんと誰かに顎を
乗せられて、彼女の説明を聞いて頷いていた
金田一が、それを見て顔を顰めた。


「お前な、それ牧野さんに失礼だろ。」


『ん、英はどうしたの?』


美月にぴっとりと引っついてきた犯人は国見で、
彼女のお腹の前に手を回し、抱きついている
状態で、つんと拗ねた顔をしていた。


珍しく、人前で甘えてくる後輩に驚く美月は、
くるっとその向きを変えて、体調が悪いのかと
心配をして、彼の顔色を伺って向かい合う。


すると彼は、すぐにそれは否定をして首を振り、
不思議そうに首を傾げる美月を見て、口を尖ら
せているので、その理由をわかっていた金田一
は、ため息を吐いた。


「コイツ、この体育祭で牧野さんと違うチーム
だったのが、納得いかないみたいなんスよ。」


「美月さんとは、戦いたくなかったです。」


『そっか国見はクラスが偶数だったもんね。
来年は…ってわけにはいかないし。』


「今年が最初で最後なのに。」


国見らしくない、子供っぽい理由で臍を曲げて
いたことが、美月には可愛く見えてしょうが
なかったらしく、くしゃくしゃと呆れること
なく、国見の頭を笑いながら撫でていた。


『次の競技は、仲間なんだから頑張ろうね。
私は英とチーム違っても、ちゃんと応援してる
から、安心して欲しいな。』


「それは…はい、見えてました。」


ちゃんと自分にも気にかけてくれているのは、
わかっていた事なのだが、学年も参加人数も
違うと、彼女を何処か遠くに感じて、彼は先輩
と後輩という距離感が、嫌になっていた。


国見も美月に頭を撫でられていると、段々と
機嫌が戻ってきたのか、表情が柔らかくなって
いき、彼女もその様子に安心をすると、行って
らっしゃいといつもの試合みたいに、同じく
金田一の頭も笑顔でわしゃっと撫でて、彼らの
背中を優しく押した。


すると、今度はそれを羨ましがる矢巾の姿を
見つけ、彼女は平等に彼や渡達にもしっかりと
エールを送る。


後輩達を見送ったら、皆がよく見える位置へと
移動してカメラを構え、メガホンを持つ湯田達
がいたので、応援を励む決意をしながら、互い
を見合わせて頷くのだった。


ちなみに、花巻と松川はバトンパスのコツを
後輩に伝えるだけで、今回は不参加で後輩達
に託し、後輩自慢を野球部やバスケ部と行って
いた。


「野球部は、走り込みなら負けねえよ?」


「ウチの1年2人を舐めないでくださる?」


「バスケ部の瞬足舐めんなよ?」


「いやいやいや。今回のウチはエースだけじゃ
なくて、秘密兵器もあっから。」


金田一から国見と矢巾、そして渡に繋ぎ、京谷
が周りをぶっちぎると、及川が女子の声援に
答えて軽くファンサービスをして、少しだけ
失速する。


「秘密兵器が無駄になってんじゃねーかよ。」


「うわぁ、さすがにお前らに同情するわ。」


「「おい、何でだよクソ川!!!」」


それには見ていた花巻と松川も怒りの声を上げ、
その中でも1番鬼の形相をしていたのは、
彼からバトンを受け取ろうとした岩泉だった。


『ちょっと及川、走って走って!』


「え、美月が応援してくれてる!?」


『違う!前を見て、まーえっ!!!』


「クソ川ああぁ、真面目に走れー!」


「岩ちゃん、ごめんって!!!」


悲鳴を上げ、恐ろしさから投げて逃げ出すよう
に、及川は岩泉にバトンという名のボールを
投げるので、美月は落としてしまうのではと
慌てたが、そこはちゃんと岩泉が無事にボール
をキャッチしたので、彼女は胸を撫で下ろす。


『もーっ、2人見てたらほんとヒヤヒヤする。
ハジメ、あと少しー!抜けー!!』


「これも毎度お馴染みの光景だよな。
…って、ハジメが抜きよったー!!」


『やった!ハジメ、行け行けっ!!!』


その後をアンカーの岩泉が尻拭いをして、2人
の声援を受けながら、彼は目の前の相手を追い
かけてると、更に彼はそこからペースを再び
上げる。


2人もその姿に興奮して応援に熱中し、美月は
写真を撮る手を止めて、必死に岩泉を応援し、
岩泉もそれに応えて、2位の野球部とはしっかり
差をつけ、この勝負は見事1番を締めくくり、
湯田と美月は嬉しそうにハイタッチを交わすの
だった。


「よっしゃ、今年も1位だな!」


『湯田、終わったら備品の会議しなきゃだよ。
どうする?楽しみだね!』


リレーが終わったらすぐに2人で仲間の元へと
駆け寄り、怒りのローキックを及川目掛けて
蹴りあげようとする岩泉を湯田が勝ったんだ
からと止めて、そんな3人を美月は器用にするり
とすり抜け、頑張った後輩を褒めに行く。


『皆、お疲れ様!』


頑張ったねと満面の笑みで、また彼らの走りを
褒めて、彼女の労いの言葉を聞いた後輩は笑顔
を返す。


『京谷もさすが、やっぱり速かったね。』


「おい、お前は美月さんを無視してんじゃ
ねーよ。」


『私は大丈夫だから、矢巾は落ち着いて。』


京谷が美月と目が合い、パンのお礼も彼女は
言っていたのだが、どの言葉も慣れないのか、
そっぽ向いてその場を去ろうと歩き出し、矢巾
がその態度が気に入らなかったのか、注意を
するので、彼女は穏やかにねと彼を宥める。


『ちょっと、及川!ハジメ!!次は騎馬戦
だからあっちいかなきゃ!!!』


友人から美月へ合図があったのか、及川と岩泉
を次の競技へ行くように誘導をすれば、湯田が
2人を引っ張って連れて行き、国見は彼女の
声援が目の前で聞ける唯一の競技が終わって
しまい、名残惜しい気持ちで矢巾達のやり取り
を眺めていると、金田一から俺達もそろそろ
行くぞと声が掛かった。


『英、まだまだ楽しんでいこうね。』


そして美月にはお見通しだったのか、この後は
また退屈な時間が訪れると考えていた国見に
声を掛け、彼が振り返る頃には次の競技の準備
があるのか、忙しく動いた彼女の後ろ姿だけ
だった。


「忙しいのに、気にしてくれてんだよな。」


振り返った彼女が、小さく自分に手を振って
くれていたので、彼も小さく振り返す。
次の競技も少し頑張ってみようかなんて、柄に
もなく考えてみたりして、遠くに行く彼女を
目を細めて見守るのだった。




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