その手はあなたに
クラブ対抗リレーで温まった空気の中で、続け
て行われた騎馬戦も盛り上がっていた。
「嘘でしょ、アレは無いって!!!」
1つだけ、体格のいいメンバーで構成されたその
グループに、同じく体格の都合上、騎馬役へと
まわっていた及川が、それを見て青ざめる。
松川が覚えてろよと言っていたのは、この事か
と思い出し、彼らとの真っ向勝負を避けようと
別ルートを促そうとしたのだが、残念な事に
そこからは抜け出せなかった。
「残念だったな、クソ川。」
女子達の声援も無視して、彼のグループの騎手
の鉢巻きを容赦なく剥ぎ取り、及川のいたその
組は、呆気なく崩れてしまった。
岩泉を騎手にして、松川と花巻、そして矢巾が
組んでいたそれは、まさに最強。
横で松川が指示をして、次々と相手の鉢巻を
奪っていき、見事に岩泉達のチームの完全勝利
で、先程負けていた松川も満足そうな顔を見せ
ていた。
『皆、迫力が凄かったね!』
「どう、惚れた?」
「マッキーは、後ろで言われた通り動いてた
だけじゃん!」
そして、応援していた美月が興奮気味でカッコ
よかった!と褒め言葉を送りながら迎えてくれ
たので、彼らもそれが嬉しくなり、楽しくハイ
タッチを交わす。
そしてやたらとこの空気にあやかって、彼女の
肩を組んでスキンシップを取ろうとする花巻を
及川が注意して、松川がさり気なく避難させる
ように自分の元へと引き寄せるので、岩泉が
「おい。」とそれに突っ込んだ。
その後も色々な競技が行われ、そうしていると、
残る競技は借り物競争となった。
もちろん話題性のある阿吽の2人は、参加する
ことになっていて、全ての参加競技を終えた
美月は、同じく参加を終えた花巻や松川と一緒
に、応援席でのんびりと観戦側にいた。
「うっわぁー、岩ちゃんとかぁ。」
「お前のその台詞、そっくりそのまま返す
からな。」
及川は言われた通りに並ぶと、その隣には岩泉
がいて、相手が幼なじみだと分かると、互いに
相手が悪いと考えたのか、全く同じタイミング
で眉間に皺を寄せていた。
一方その頃、美月達は及川達が競って走ること
がわかると、笑ってそれを楽しみにしながら、
そのお題を考えていた。
『2人共、どんなお題引くんだろう。』
「ベタなの引いたりして。」
「校長とスキップとか?」
『それは、可愛いかもしれないね。』
花巻の予想に美月も声を出して笑い、そんな
会話をしていると、美月に助けを求めた声が
聞こえてきて、彼女は呼ばれて、その場から
席を立つ。
『ごめん、ちょっと行ってくる。』
「美月、行く前にちょいゴム貸して。
…あ、これ、2個あったりしない?」
『ん、ポケットに予備あるよ?はい。』
「お前、何してんの?」
「念の為。」
ピストルの合図とともに全力で走り抜けると、
お題が書かれたメモの入る箱をそれぞれが手を
突っ込んで取り出し、それを読めばお目当ての
所に一目散に向かって行く。
「「おい、ベタの中のベタ!!!」」
2人共がそこでまさかの王道のネタを引き上げ
て、「気になる異性をお姫様抱っこ」と書かれた
メモを手に取り、顔を引き攣らせる。
岩泉も及川もお題を見たら、円満に済ませるに
は1人しかおらず、向かうその方向は全く一緒
で、互いに譲らず、その方向を変える事無く、
一目散に走って向かう。
「お前、他にも行くとこあんだろ!他所
行けよ!!」
「岩ちゃんこそ、何でこっちくるわけ!」
「うるせーよ、こっちに用があるんだから仕方
ねーだろ!」
言い争いをしながら、2人は同じ方向へ向かう
足は止めず、目印にしていた松川と花巻を見つ
けると、すぐにその足を止めた。
「美月、来い!」「美月来て!」
考えることは同じだった模様で、美月を連れて
走ろうと必死に2人は呼んでいたのだが、残念
ながら、その場にはいなかった。
その代わりに、彼女の髪ゴムを借りて髪の毛を
無理矢理に結んでいた、松川と花巻がそこには
現れて、「花子でーす。」「松子でーす。」と2人
が及川達に少し古風なピースサインを向けて、
その見苦しい風貌に、及川も岩泉も思わず
「は?」と引き気味の声を上げていたが、2人は
彼らに構わずに言葉を続けた。
「美月ちゃんは別用で呼び出されて、
私達しかいませーん。」
「どちらか好きな方を選んでねっ。」
選ぶも何もと2人が顔を青くして、言葉を詰ま
らせていると、花巻こと花子は痺れを切らし、
「徹は私でしょ?」と言いながらオネエ口調で
両手を広げ、及川は自分の頭を抱えながらも
花巻を持ち上げ、岩泉もうわぁと眉間に皺を
寄せたが、今は何せ勝負事。
背に腹は変えられず、松川を抱えれば、「ハジメ
も頼もしい」と全く嬉しくない褒め言葉を彼から
貰い、審判からもOKを貰えば周りからは大ウケ
で、女子の悲鳴と爆笑の声が混ざる中、2人は
ゴールを目掛けて走り切った。
「徹、すっごくカッコよかったよ!」
「ちょっとマッキー、美月のマネしながら
喋らないでっ!」
「松川抱えたら、腕が痛えよ。」
「美月も急遽出る事になったっぽいな。」
「「は!?聞いてねーし!!」」
突然の選手交代で少しだけ周りがバタつく中、
後から女子は参加するようになっていたので、
美月は入場門からその合間合間を見届けて、
まさかの仲間達が大爆笑の渦中にいたので、
目を丸くして、バレー部いいぞー!と飛び交う
野次を聞きながら、その流れを見届ける。
『ちょっと待って、クラブ対抗リレーよりも
目立ってるし、ウケてない!?』
阿吽の2人の嘆きは露知らず、楽しそうに首に
手を回して抱えられている花巻や松川を見て、
写真に撮ればよかったと呑気に後悔している と、今度は自分の出番がやって来る。
「いちについて、よーい…ドン!」
スタートラインから合図と共に走り出せば、
予想通りのベタなお題を聞いてしまった松川や
花巻も、やっぱり美月が気になるのか、お題を
引いたり彼女に注目して、黙ってしまう。
メモを呼んで頷くと、迷うことなく走り出した
彼女は、真剣な顔で自分達の方向へ向かって
行くので、つい4人は鼻を膨らませて興奮気味
になり、俺か?いや俺だろと彼女に向けて、
それぞれが自然と1歩ずつ前進して行く。
待ちに待った彼女は、自分達の目の前を通り
過ぎ、差し伸べられるはずだったその手は、
可愛い可愛い後輩へと向けられる。
最後のお楽しみは、残念ながらもう間もなく、
岩泉達のチームの優勝と共に、終わりを迎え
ようとしていた。
『矢巾、こっちきて!』
「えっ、ちょっと美月さん!?」
「え、矢巾なの…?」
「多分、頼りになる後輩とかそっち系?」
「おお、だとしたら間違い無い回答だな。」
「岩ちゃん、そこは感心するんじゃ無くて、
落ち込むところだから。」
「うわぁ、矢巾嬉しすぎて泣いてるわ。」
「そしてまさかのおんぶするんだな。
ぶっ、アイツ美月に背負われて慌ててんぞ?」
「俺らだと、すげぇ絵面だったな。」
「え。俺と岩ちゃんにお姫様を抱っこさせて
おいて、それ言っちゃう?」