二度あることは三度ある
恋は盲目といったところか、自分がずっと会い
たかった人物が目に入ると、迷うことなく、
とある人物は一目散に彼女の元に駆け寄って
いく。
『美月さーん!』
そして仲間達のガードもその予測不可能な突撃
には間に合わず、他校の…よりによって今すぐ
にでも倒してやりたい相手チームの人間が現れ
て、彼女以外の周りは鋭い視線を送るものの、
彼は全く周りの目を気にすることなく、美月の
手を興奮気味で強く握り、ぶんぶんと上下に
振っていた。
「今日は、牛島さんよりも点をいっぱい取る
ので、俺の活躍をしっかりと目に焼き付けて
おいてくださいね!」
『う、うん、いい心掛けだね!…でもね、
みんな怖い顔してるから、落ち着いてね!
あ、ちょっと、五色君…五色君!!?』
周りの視線が痛く、美月は顔見知りを困った顔
で宥めていたが、滅多に会えない彼は、その顔
も眩しく見えて、思わず彼女を思い切り抱き
しめる。
「本物の…美月さん!」
『うんうん、本物ですからね。』
「何なの、今日は1年に好かれる日?さっきは
チビちゃんが美味しい思いしてたけど。」
第1試合は、自分達の反対側のコートで白鳥沢
も試合の為、鉢合わせの覚悟はしていたが、
まさかここまで早いとは。
及川はそんなことを考えながら眉を顰め、先程
のハプニングも重なって、更に機嫌は悪くなる。
美月もキラキラと輝かせた五色の目には弱いの
か、五色に圧倒されてされるがままとなり、
とりあえず落ち着かせようと五色の背中を撫で
ていると、その光景を見て気に入らない国見
が、五色の腕を解いて、彼女に助け舟を出した。
「ウチのマネージャーが困ってるんだけど。」
「あ?何だよ、お前。」
『あっ英、穏便にねっ!』
インターハイでの睨み合いの記憶がまだ残る
2人は、そこでもまた火花を散らし、トラブル
を避けて、松川が手を出そうとすれば、血相を
変えてこちらに向かう白布と瀬見、そして後
からゆっくり歩いてくる、天童の姿があった。
「お前はまた、牛島さんの牧野さんに失礼な
ことを…!」
「は?いつから牛島の美月になったんだよ。」
「美月わりぃ、また迷惑かけちまって。」
『あ、うん、私は大丈夫!元気な後輩君で
何よりで。』
「…そうだな。ホント、元気過ぎるくらい。」
『悪気は無さそうだから、怒ってあげない
でね?瀬見君も元気そうで良かった。』
「ねぇ。何、仲良くしゃべっちゃってんの?
美月って…、さりげなく君も呼び捨て?」
先程の牛島の発言も引っかかっている最中に、
更に白布の発言が気に入らない岩泉は、ピクリ
と頭に血管を浮かべ、容赦無く白布を睨むが、
さすがは彼の後輩といったところで、彼は
何か?と怯むことなく、首を傾げた。
そして、瀬見はトラブルを起こした事を美月に
詫びているだけなのに、2人の会話の距離感が
気に入らない及川は、瀬見の前に立つと、そう
文句をつける。
「相変わらず、工は突っ走るねー。」
「じゃあ、しっかり監視しておきなさいよ。」
ポケットに手を突っ込んで、呑気に現れた天童
は、馴れ馴れしくその後に美月に「久しぶり、
今日も可愛いね。」と手を振り出すので、松川
は彼女をガードして、彼から近づかせまいと
すれば、天童もニヤリと彼に嫌な笑みを返した。
どうやら彼は、松川達の苛立つ表情を楽しんで
声をかけた模様。
予想どうりの反応に、これは本心だがと思い
ながら、煽り文句を重ねた。
「本当、美月ちゃんは水色よりも紫が似合うと
思うんだけどなー。」
「あ?水色一択に決まってんだろ。」
天童の嫌味には、カチンときた花巻も釣られて
しまい、今にも彼らが喧嘩をしそうな空気に、
美月はため息を吐きたい気持ちになるが、両者
の監督の姿が見え、その気配を察知すると、
息ぴったりに先程まで何事も無かったかの
空気に戻る。
「あー、マジでむしゃくしゃする。」
『いっぱい試合にぶつけて下さい。』
及川は未だに怒りを引き摺って、不貞腐れた顔
で会場に入ろうとするので、美月は彼の醜い姿
を見せるのはいかがなものかと考えたのか、
『この状況で、サーブ決めたらカッコイイと
思う』とこっそり及川に耳打ちして、彼のモチ
ベーションを上げることを心掛ける。
「工、見て欲しいって彼女に伝えてたけど、
あっちだって試合なんだから、お前のこと
見れる訳ねーじゃん。」
「なっ!!美月さんは優しいから、きっと
見てくれますって。」
「工のそのポジティブな所、嫌いじゃないよ。」
一方、白鳥沢サイドは及川に駆け寄る美月を
ちらりと見て、常にそばに居る及川や離れて
いても堂々としている牛島を羨やんだのか、
五色は恨めしそうに2人を交互に見て、足取り
の重たくなる彼を大平が、宥めながら引き摺る
形となっていた。
「始まった、行くよ。」
Aコート、Bコート共に入場の合図がかかり、
美月はボールの入ったカゴを押し出すと、ふと
誰かからの視線を感じて、自分の視線を動かせ
ば、牛島と目が合った。
言葉を交わさず互いに励む事を誓って、こくん
と牛島に頷けば、彼も頷き返して、その意味は
しっかりと伝わる。
それに安心をした美月は振り返ることは無く、
仲間達の方しか向くことはなかった。
「美月ちゃん、また明日ねー!」
『んん?!うん、また…。』
「だから、お前は素直に返してあげなくていい
っての!」
『もう、今日は終わりだからいいかなと。』
「お人好しもここまでくれば、悩ませものだな。」
白鳥沢、青城、共に相手にセットを取らせる事 無く、勝利をして、明日の対戦相手を確認する
為にも、彼女達は観客席側へと移動をすると、
懲りずに声を掛けてくる天童に、手を振り返そ
うとする美月を及川は怒る。
「ほら、また手を振った!」
『今のは、潔子。』
「紛らわしい!けど、相変わらず可愛いね。」
『でしょ?ふふん、知ってる。』
「いや、もうちょっと妬いてよ。」
『隣にいる後輩の女の子可愛いのは悔しい。
私もあんな可愛い後輩が欲しかった…。』
「…美月さん?」
『わかってますよ、国見さん!』
扉を出た後の小さな口論は、勝利をした事に
対する安堵からか、少し楽しそうで、第2試合
が始まれば、その顔つきはすぐに元に戻る。
『やっぱり、明日の相手はそっちになるか。』
明日の対戦相手には、また顔見知りが登場する
ので、複雑な気持ちで目が合った主将となった
彼と目が合って、最初に彼を知った時の意地悪
だった姿が既に懐かしい。
連絡を取っていると彼の真面目な部分も見えて
いて、今となっては彼女の中では侮れない人物
という認識に変わっていた。
『二口君も立派になっちゃって。』
手を振り返せば、また仲間が怒り出すと予測
したのか、以前より大きく見えた彼に、美月は
優しい笑顔を返す。
「伊達工の主将、美月の知り合いか?」
「岩泉レーダー、久しぶりに来たな。」
その笑顔を見て、二口の口元も少し緩んだ。
「あ、美月ちゃん笑ってくれた。」
「誰ですか、美月ちゃんって…。」
「ん、俺のカノジョ。」
「ええっ、二口さんに彼女!?マジですか!?」
「…嘘は、良くない。」
「青根が喋った!!!」