試合を終えたら
牛島が最後の一点を決めた時、一気に歓声が沸き
上がり、今年もインターハイ出場が決まった事を
ベンチに座っていた美月も静かに喜んだ。
ライバルと握手を交わし、2階から聞こえる声援
に頭を下げた後で、白布や川西と密かにタッチを
交わすと美月も片付けに入り、その場から抜け
出そうとする。
『やっぱり、皆凄かった。』
この度も青城相手でも1セットも取らせずに試合は
終了して、先程のプレイを思い出すと胸が熱く
なる美月つい口元が緩みそうになる。
許されるのなら、もう少し仲間達と勝利の喜びを
分かちあっていたかったが、あくまで自分は裏方
の仕事がメイン。
彼女にはここから忙しくなる時間が待っている
為、気持ちを引締め直して荷物を纏めた。
『もう、ここの荷物はバスに積んじゃって大丈夫
だから行こうかな。横断幕も片付いたね。
ごめん、ボールもお願いしていいかな?』
「分かりました。」
『ありがとう。後はこっちで何とかするね。
…それにしても、いつもよりも静かな気が。』
片付けはスムーズに進み、いつもなら一番に自分の元に来る後輩の姿が無いので、静かすぎるそれ
を不思議に思う美月は残りの荷物を持ち、つい
後ろを振り返る。
「お前、それ一人で持つ量じゃねえだろ。」
『あ、賢二郎!』
「半分貸せ。」
『これくらい余裕だから大丈夫。賢二郎こそ
もう少し身体休めてなきゃ!』
するとそこには五色ではなく白布が現れ、美月は
手を差し出す白布を疲れているからと断ったら、
無言で彼女から取り上げて歩き出すので、申し訳
なさそうにお礼を行って、先に歩く白布を追い
かけて隣に並んだ。
『五色君がいつもよりも大人しいから、やっぱり
初めてのインターハイ出場に感極まってるのかな。』
「いや、さっき天童さん達に絡まれてた。」
『それ、助けてあげなくて大丈夫?』
「自分で蒔いた種だからほっとけばいいって。」
美月が自分の仕事に集中している間に、どうやら
五色は天童に揶揄われていた模様で、白布の説明
を聞いて心配する彼女がその方向へ視線を向ける
と引き攣った顔をする五色が目に入る。
見兼ねた彼女が白布にそう声を掛けたが、白布は
冷たい態度のままで、面倒事に巻き込まれる前に
彼女を連れて体育館を後にした。
「白布先輩、後は自分がやりますから!」
荷物を持つ白布を見た後輩が、慌てた様子で彼の
持つ物をすぐに預かって、勢いよく奪われてしま
った彼が呆然と持っていたはずの手を見つめるの
で、彼女はそれをクスクスと楽しそうに笑った。
『ふふっ、賢二郎にこっちの荷物はあげない。』
「もう運ばねえ。」
『それで良し、セッターは休んでください。』
「・・・・・。」
『そんな顔しても賢二郎が優しいのは分かって
ますから。』
格好がつかないままの白布に美月がはにかむと
白布は不服そうに彼女を見て、美月は彼に構わず
最後の荷物も運び込むと、先輩達がバスに乗り
込むのを待つ間に、先にこちらにやって来た五色
が少し泣きそうな顔で彼女の元に駆け寄った。
「美月さん、ここにいらっしゃったんですね!!?」
『うん、片付けでバタバタしちゃってて。声を
掛けてあげれなくてごめんね。五色君も凄く
頑張ってたね。今日も綺麗なストレート決まって
たね!』
「うう…、これです。これが安心するというか。
心のオアシスというか。」
『うんうん、よしよし??』
その褒め言葉を待ってましたと嘆く五色に戸惑う
美月は、とりあえず彼を宥めようと背伸びをして
頭を撫でて、その仕草すらも眩しいと震える五色
は先程まで天童からプレッシャーをかけられて
いたらしく、すっかりと疲れ切っていた。
『もちろん、しっかり五色君の攻撃は見てたよ?
次の試合も期待できるね。』
「ありがとうございます!もしよろしければ、
今日は美月さんが俺の隣に…」
「お前、美月に甘えすぎんなよ?自業自得だろ。」
「白布さん、いつの間にこちらに!!?」
「ずっと美月の隣にいただろ。どんだけ周りが
見えなくなってるんだよ。」
『まあまあ、先輩は落ち着いて…。』
あわよくばとお願いする五色に制止の声をかける
白布の姿は五色の視界には入っておらず、突然の
冷たい発言が聞こえた彼は目を丸くさせ、深い
ため息を吐く先輩は先輩達が乗り込んだ後に容赦
無く後輩をバスに押し込む。
「で、今回はポジションキープって訳かよ。」
「別に、一番騒がしくならない場所を選んだ
だけだろう。朝は天童さんが騒がしかったし。」
「それはそうだろうけど。」
そして川西が呆れた視線を向ける前には、苦笑いを浮かべる美月と腕を組んで座る白布が並んで
バスに乗り、用心深く天童や五色から離れた場所
を確保する彼は「何か?」と言葉に出さずに目だけ
で川西に訴えて、川西もそれ以上は言葉を噤む。
『だ、大丈夫!今日は私もテンション上がった
ままだし、さすがに2度も賢二郎にも迷惑はかけ
られないよ!』
「一昨日のは、迷惑ってわけじゃ…。」
『逆に眠たくなったら賢二郎に肩も貸すし!』
「それこそ美月、潰れるだろ。」
『これでも力持ちだからへっちゃらだと思う。
遠慮なくどうぞどうぞ!』
何故か張り切り始める美月にまたしばらく黙って
見つめ、仕方ないと彼女に甘えて隣の肩に軽く
もたれる彼は、ゆっくりと目を伏せた。
試合後だから汗臭くないだろうか、実は重いの
では無いだろうか。
それよりも自分とは全然違った、隣の甘い香り。
気になるその子に身を寄せるのは、やはり気に
なる点がぽつりぽつりと出てきて、彼には落ち
着く行動ではなかったようで、胸の鼓動が段々と
早くなり、徐々に顔が熱くなる白布は逆に眠れ
なくなってしまう。
「美月、これ食う?」
『わっ、太一ありがとう。』
「・・・・・。」
「賢二郎も起きてるならコレ食う?」
「・・・食う。」
白布が持った時間は約5分。
それはルームメイトには想定内だったのか、後ろから伸びた二人の間から割り込む手からお菓子を
受け取る白布は納得いかない様子でそれを口に
して、冷静さを取り戻そうと鞄からペットボトル
を取りだした。
『賢二郎、眠れそう?』
「大丈夫、お前のせいじゃないから心配すんな。」
「美月ちゃんの太腿をクッション代わりにしたら
よく眠れるんじゃない?」
「ぶふっ!!!」
『わっ!賢二郎、タオルタオル!!!』
「天童さん、何故そこから見えてないのにわかるん
ですか?」
『…使う?』
「馬鹿、しなくてい!!!」
結局バスの中で騒がしくなる事に変わりはなく、
鷲匠の怒鳴る声が聞こえてくるのも時間の問題。
その声に「太腿の方がリラックス出来るのか」と
アイマスクを付けていた牛島がぽつりと零し、
それを聞き逃さなかった大平は牛島を三度見
した。