偶然からの予定変更



優勝してもそれはただの通過点であるバレー部の
激しい練習は引き続き行われ、彼らに休む暇など
もちろん無かった。


暑さも厳しくなる程に練習にも熱が入り、部員や
自分がバテないように体調管理を徹底する美月
も一緒になって忙しく走り回り、やっと彼女が
息を抜くのは、体育館の点検で練習が休みの時。


「美月、久しぶりに駅寄って帰らない??」


『わー、気になる!行きたい!そうだ、ちょうど
本屋にも寄りたかったんだ。テストも近いし、
きっと範囲は今回も容赦ないよね?』


「なるほど、参考書ね。私も一緒に選ぼうかな。」


「美月がいるのレアだし、私も一緒に行きたい!」


教室で女子同士で話す美月を教室で見かけた白布
も彼女が楽しそうに会話している様子に優しく目
を細め、上手く気分転換ができている彼女に安心
したのか、そこから視線を外すと彼も別行動で、
クラスメイトと会話をする。


『賢二郎、また明日ね!』


「ああ、またな。」


一緒に帰らない日が久しぶりで、たった一日なのに寂しさを感じる自分を不思議だと思いながら、
嬉しそうに女子達と歩き出す美月の背中を目で
追う白布は、心の中に妙なざわつきが彼の中に
残っていた。


「まあ、考え過ぎだろ。」


女子3人で出掛けたのなら、気にする必要ないと
自分の過保護過ぎる面が出ただけだと考える彼は
帰る支度を整えるとそのまま寮へと直帰して、
先程感じた気持ちを口に出せば同室の川西には
呆れられるからと、気を紛らわせる為にも机に
そのまま伏せた。


「あ、小鳥ちゃんだ。やっほー!」


彼の嫌な予感が的中となり、本屋へ到着していた
美月が固まっている目の前にはひらひら手を振る
先日の対戦相手の主将が声を掛けてきていて、
何故こんなところで!?と驚く彼女は、返す言葉
を迷っていた。


「美月ちゃんとこんな所で会うなんて、やっぱり
俺達は運命の何かしらで結ばれているのかな?」


「美月、青城の及川さんと知り合いなの?」


「そうそう、そこにいる美月ちゃんとはあんな約束
やこんな約束までしちゃう仲でね…。」


『お願いですから、友達に誤解を招く言い方は
止めてください!』


「いつの間に?」「良かったね!」と興奮気味で、
美月と及川との仲を勘違いをして喜び始める友人
に美月が必死に弁解しても、すっかりその状況を
楽しんでいる彼女達は美月の言葉は入ってこない
様子だった。


なので、及川が「この子ちょっとだけ借りても
いいかな?」と首を傾けて尋ねれば簡単に彼に差し
出し、美月の待ったの声も聞かずに彼女達は邪魔
をしてはいけないとそこから去ろうとする。


「私達は、また明日会えるので!」


「美月…こんなチャンス滅多に無いし、ウチらの
事は気にせず楽しんで!」


『え、待って!私もそっち行く…!』


それを追いかけようとしても、ニコニコと笑顔を
向けている及川に肩をガシッと掴まれて、逃げ
出すタイミングをすっかり失ってしまい、見事、
及川に掛かってしまった。


『及川さん借りるって言ってましたけど、私
なんかに何の用が…?』


諦めた彼女がぎこちなく首を動かして、及川と
渋々向かい合うと、今度は美月の投げかけた疑問
に、彼は不満そうに口を尖らせる。


「小鳥ちゃん、あの時の約束を本当に覚えて無い
んだね?」


『約束…?あっ。』


それはインターハイ予選の時に出会って交わした
約束。


青城が勝ち抜いたら連絡先を交換するといった
もので、及川のその言い方とポケットからスマホ
を取り出す動作で思い出した彼女が口元を抑える
と、彼はホッとした表情に変わり、深いため息を
吐き出した。


「よし、場所変更しよっかな。」


『あの…私、参考書買わなくちゃで!』


「じゃあまた後で戻ってくるとして、とりあえず
こっち!」


そしてそう言って彼女の手を引いて本屋から連れ
出されると、場所は人気のドーナツ屋へと移動
され、戸惑う美月にお構い無しに食べたい物を
聞いてくる及川はご機嫌状態。


「美月ちゃん、苦手なものある?」


『いや、特には無いですけど。』


「OK、じゃあこれとこれ下さい。」


『えっ、及川さん!?』


「うん大丈夫、このドーナツは及川さんが奢る
から。」


『いや、そうじゃなくて!』


「カフェオレ?それともオレンジジュース?」


『及川さん、あの、聞いてますか?』


「うん、とりあえずデートしよっか!」


強引なのに、無邪気に笑う試合とは違った表情を
見せられると断れずに『カフェオレで』と返事を
返してしまい、及川に流されるがまま、テーブル
に座る美月はお礼を言って頭を下げると、ぽつり
と呟いた。


『これがモテる人間のエスコート…。隙を全く
与えてくれないのが凄い。』


「ん?何だか褒められてる気がしないけど、
ありがとう?」


及川からご馳走になってしまったドーナツを齧ると、しばらくご無沙汰だったその味に思わず彼女
は感動の声を上げて、それを見て面白がる彼は
満足そうに微笑む。


「うんうん、しっかりお食べ。」


『及川さん、もしかして私を太らせて動けなく
する作戦ですか?』


「そんな裏なんて無いって。ほら、美月ちゃん
このドーナツ可愛くない?写真撮る?」


『あ、可愛いですね。ちょっと撮りたいです!』


及川が美月にドーナツを向けると、彼女も鞄から
スマホを取り出して、彼女が写真を撮った後に
さりげなく取り上げる彼は、自分の番号を押して
電話を掛け始める。


『え、待っていつの間に…!』


「また忘れられちゃう前に、登録しとこうかな
って。」


『そんな回りくどい事しなくてもちゃんと交換
しますってば!』


「美月ちゃんのリアクションこっちのが面白い
かなって。オロオロしてるとこ、可愛いから。」


『お願いですから普通に対応してください。』


慌てて登録をすると、ついでにメッセージアプリ
もと彼に促されて、連絡先を無事にゲット出来た
及川はご満悦の様子でスマホを眺める。


「これで気軽に会話出来るね。」


『えっと、そうですね。』


「もうちょっと嬉しそうにして欲しいな。」


以前感じた緊張感は飛んで、まだ帰して貰えそう
には無いと諦める彼女は、再びドーナツを齧る。


今食べているドーナツに罪はないと表情を緩める
美月に及川は興味深そうに眺めて、自分もそれを
口にすると、目を丸くさせて彼女の方向を見る。


「これ、本当にウマイね!」


『及川さん、食べたことあるのかと思って
ました。』


「いや部活もあるし、滅多に来ないよ!」


『そうなんですか?動きが慣れていらっしゃった
から、てっきりよく来るのかと思ってました。』


「野郎と行くといったらラーメン屋ばっかり
だよ?」


まだまだ読めない男、及川徹はそう言ってまた
子供っぽい反応を見せて、それに付き合う美月
は彼の頬に付いていたチョコレートを指で取ってあげた。





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