変わり目の憂鬱



春休みも個性豊かな先輩達に振り回されはする
ものの、何とか平穏に過ごし以前まではそれ程
クラスがどうなるかは気にならなかった新学期。


バレー部はいつも通りに朝練を終わらせ、その
張り出された紙を見つめ、ごくりと唾を飲み込む
白布は、自分のクラスを確認すると小さく呟く。


「4組か。」


『4組だね。』


「…5組。」


白布、美月、川西の順番で自分のクラスの数字
を読み上げて、わっと白布と美月と再び同じ組
だと顔を見合せれば、隣で違うクラスになった
川西は屈み込んでいた。


「クソ、俺だけまた仲間外れかよ…!」


『惜しい!でも、お隣同士だから近いよね。
困ったら教科書は貸し合えるし!』


「そこは、たしかに助かるけど。」


この一年間、白布と美月が楽しそうに自分達の
クラスでしか分からない話を楽しそうにしていた
のを見ていたからか、川西はまたこの1年もそれ
を羨ましく思うのかと肩を落とし、美月は落ち
込む川西の背中を撫でていた。


「そうだな、困ったら助け合えるって事で。」


何より川西が引っ掛るのは、コホンと咳払いを
して目を逸らす白布は素直に喜ばず、あたかも
彼は平然を装う。


『これでまた、賢二郎と隣の席だったら面白い
よね?』


「そうだな。」


嬉しそうに笑う美月に、白布は口元が緩みそうに
なっていて、むずむずと動かし誤魔化している
のは、川西にお見通し。


「その目は、何だよ。」


「素直に喜べばいいものを…。」


『連絡事項は伝えに行きやすいから楽かな?』


彼女の前ではクールに見せようとする白布に川西
はじっとりと冷たい視線を送り、気に入らないと
いった表情で、呑気な彼女の頭をくしゃりと
撫でて寂しさを紛らわせた。


『太一のせいで髪の毛グシャグシャじゃん!』


「似合ってるけど?」


「お前こそ、寂しいなら寂しいって素直に言えば
いいだろ!」


クラス替えを確認する前は、神妙な顔をしていた
白布も放課後には元通りで、それを面白がって
様子を見届けていた先輩達も部室内での彼らの
結果を想定し始める。


「あの様子だと、美月ちゃんと同じクラスに
なれたカンジかな?」


「川西はあからさまにテンション低いな。」


白布と顔を合わせれば、再び朝の悔しさを思い
出す川西は深いため息を一息吐いて、その姿を
先輩達にバッチリと見られ、哀れみの目を送ら
れる。


「美月ちゃんと同じクラスって、すごく楽しそう
だよね?ほらほら、今年は修学旅行だって一緒
だろうし。」


「天童さんは一生一緒になれないですもんね。」


「そうだよ?だから、修学旅行俺もついて行こう
かな。」


「マジなトーンで言うのやめて貰えますか?」


果たしてこれは励まされているのか、それとも
揶揄われているのか。


適当にあしらってはいるが、眉間に皺を寄せる
川西に同情する大平は、それ以上後輩で遊んで
やるなと背中を押してウォーミングアップへと
向かう。


出席番号のせいで前の席になってしまったのも
あって、今日はイマイチ調子が上がらない川西
はなかなかコースの決まらない自分のスパイク
に軽く舌打ちをする。


「美月、ボサっとせんと動かんか!」


『はい、すみません!』


川西が顔を顰めるのが見えて、それを心配して
彼をじっと見つめれば、美月の手が止まっていた
模様で、鷲匠からは注意される。


「なんで美月まで怒られてんだよ。」


『ごめん、太一の調子が良くなさそうだから
気になって。』


「あー、その…悪い。俺は大丈夫だから。」


それが視界に入った川西は、美月がタオルを渡す
タイミングで彼女に声を掛け、その返答に川西
は彼女に謝った。


「今の太一は甘えんぼさんだから、美月ちゃんが
ハグしたら治るかもよ?」


「天童は、また余計な事を。」


「ちょっと、何を言ってるんですか!?」


ドリンクを口にしている時に、2人の会話が耳に
入って来た天童は、もどかしい川西の動きを見て
いると、どうしても後輩を茶化したくなる天童
はそう口を挟み、川西はそれに慌て始める。


「て、お前も何やってんだよ!」


そして、その言葉を大真面目に捉える美月は両手
を広げ、自分の方向を向いて待ち構えるその姿
に川西の方が顔を赤くしていた。


『太一にエネルギーを送ればいいんですよね?
いつでも大丈夫です!バッチコイです!』


行くわけねーだろ!と狼狽える理由は、自分の
気になっている子と抱擁出来るチャンスが訪れ
てしまったから。


「美月ちゃん、本当に最高!」


そんな川西の心情も把握済みの天童はゲラゲラと笑い出し、先輩とは違って全く恥じらいを見せ
ない彼女に、大平は苦笑いを浮かべる。


『あれ、甘えんぼさんじゃないの?』


「違うって、天童さんが勝手に言い出しただけ
だから!」


「えー、太一がいかないなら俺が行こうかな?」


川西がなかなかその厚意を素直に受けとらずに
いると、首を傾ける美月にじわじわと近づく天童
の動作に白布がすぐに気が付いた。


「先輩、おふざけはそこまでにしてください。」


そう言って、血相を変えてこちらへと向かって
来た白布によって両手を下ろされ、川西の絶好
のチャンスは残念な事にその場で終了。


「ほら、お前もまた先生に怒られるぞ?」


『うん、そうだね…作業に戻ります。』


美月は白布にそう促され、川西にも困らせて
ごめんねと小さく謝るとタオルや空のボトルを
回収していき、その場で彼女とハグ出来るわけ
は無かったが、それを止めた人物が白布だった
為、彼の中に少しだけもやもやは残ってしまう。


「困ってはねえけど、タイミング!」


その言葉の証拠に、全てを終えて帰るだけの時
に背を向ける彼女をおどかすように、背後から
思い切りむぎゅっと包み込んでみた。


『わっ、ちょっと…太一!』


「こっちの方がエネルギー補給になるかも。」


予想を上回る抱き心地の良さと彼女の反応に、
やはり、堂々とされるよりもこうして恥じらい
から困った顔を見せる彼女の方が自分は好きだ。


『もう、ビックリするじゃん!』


驚きからジタバタと暴れて、怒りながらポカポカ
と自分の胸を叩き始める美月に川西は満足そうに
笑い、こうでなくちゃと好きを実感する。


その可愛い反応は、先輩には見せたくない。
彼の中にはそんな独り占めの気持ちも浮かび、
わしゃわしゃと彼女の髪の毛を撫でて、わざと
意地悪をしてみせる。


「だから、小学生かよ。」


どうも美月の周りには、やはりそんなメンバー
が多いらしい。


白布は2人のやり取りを見て、また始まったと
ため息を吐き、今日は3人でまだ薄暗い彼女の
家までの帰り道を歩き出そうとした。


「ほら、賢二郎も疲れてるらしいからハグして
やれば?」


『ハグって、こう?』


「…太一、お前!!!」


「お前ら、仲良いな。」





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