新しい風



何となく先輩という響きがまだ照れ臭く、この
場では初めての作業に緊張を見せる新入生を
可愛らしいと思う彼女は、丁寧に自分の分かる
範囲で先輩らしく指導し、必要な道具を持って
きて貰う。


それは昨年の自分と重なるところもあって懐か
しく、だけど今年は女子マネージャーは過酷だ
という噂でも流れているのか、なかなか集まら
ない。


それを少し寂しいと思う美月は表情に出ていた
のか、彼女を気にかけた瀬見が声を掛け、彼女
の手には一粒のキャンディが乗せられていた。


「ほら、落ち込んでるのが顔に出てたぞ?これ
で元気出しなさい。」


『瀬見先輩、どうしたんですかこれ。』


「頑張るマネージャーへのご褒美。」


『そのご褒美、凄く嬉しいです。』


たまたまポケットに忍ばせていたものを彼女に
渡し、キラキラと輝く彼女の目は何とも眩しく
隣にいる後輩達に負けないくらいに純粋だった。


「うんうん、美月はそのままでいてくれよ?」


『先輩?』


そしてそんな可愛らしい後輩に心が洗われた気分
になる瀬見は頷いて彼女にそう願い、ぽんぽんと美月の頭をあやすように叩く。


今の自分の周りは純粋な人間ばかりなのでは?
と疑問を浮かべる美月は首を傾げ、彼がそう言う
理由は分からないまま、彼にキャンディのお礼
を言った。


「餌付けですか?」


「…餌付けですね。」


そこへ2人のやり取りが見えた、美月の同級生、
そして瀬見の後輩にあたる川西と白布の2人は、にこりと愛想笑いも見せず、どちらかといえば
目の座った可愛くもない視線を先輩に送って、
一言だけ発した彼らは美月達の横を通り過ぎる。


「アイツら、かっわいくねぇ!!!」


本音が耐えきれず声に出る瀬見は、しれっと一言
吐いた後輩に表情を歪ませ、美月は瀬見の言い
たい事がそこでやっと少し理解して、苦笑いを
浮かべていた。


『後輩が伸び伸び出来るのは、先輩達のお陰
ですから。』


今のはさすがに伸び伸びし過ぎだがと冷や汗を
かいて、1年生の頃の2人の初々しさを懐かしく
思い、一生懸命動いている1年生の方へと走って
いく。


「今年の1年生は、割と大人しめだよな?」


「獅音君、よく見て。あそこに闘志剥き出しの
おアツい子がいるじゃない。」


新入生をだいたい把握した大平が、天童にそう
声を掛けると、天童はその先にいた他とは別格
の人物を指して、山形もそれに納得したのか、
確かにと天童の発言を肯定していた。


『五色君、もし設備で分からないことあったら
いつでも言ってね?』


「もう、大体把握してます。」


『スゴい!覚えるの、早いね?』


「これくらい、次期エースには当たり前の事
です!」


何故か口調はマネージャーと張り合う期待の新人
に美月は温かい笑顔をにこにこと見せて、尊敬の
言葉を彼女の方が向けていたりもして、傍から
見たらやはり彼女の方が大人な対応。


入部早々、牛島若利を超えてみせると断言した
その男、五色工は暑苦しい程に熱血な部分を先輩
達にも見せているのだが、それを他の仲間達は
揶揄ってみたりあしらってみたりする中、彼女
はやる気満々の彼を頼もしいと思っていた。


「美月、あまり後輩を甘やかすなよ?アイツら
の為にならねえ時もあるんだから。」


『うん、そこはちゃんと肝に銘じてる。先輩
って響きに浮かれないようにしないとだ。』


性格上、どうしても柔らかい物言いをしてしまう
美月を白布は心配して、五色の彼女に対する接し
方も気になっていたのか、彼は彼女に一応そう
指摘して、彼女もそこは頭にきちんと入れていた。


「そこまで甘やかしてる風には見えねえけど?」


「いや、油断したら危険な気がする。」


少し厳しめの白布の注意に、川西も気にし過ぎ
なのでは?と思ったが、彼がそれを口に出せば
白布はそう答えて、五色の方へちらっと視線を
向ける。


美月が褒めるたび、五色は突っかかった物言い
をして素直には喜ばないが、口元は嬉しそうに
むずむずと動かす瞬間を白布は見逃さなかった。


「確かに、何だかんだアイツって美月に懐いて
はいるよな。」


川西も白布ほどの敏感さは無いが、五色のあまり
にも分かり易過ぎる反応を見て、彼女に好意を
抱くことには気がついているのか、後から彼も
白布の意見に納得していた。


『なんか、2年生には無いカラーの子だから
面白いよね、五色君。』


「あんな暑苦しい奴が同級生だったら、たまった
もんじゃねえよ。」


『んー、結構可愛いと思うけどな。』


白布の嫌な予感はまさに的中なのか、それから
数日が経過すると彼はすぐに美月に懐き、遠慮の
ない彼は気がつけば下の名前で彼女を 呼んで
みたりもして、可愛い後輩という名の五色の
ポジションが正に厄介で、白布は頭を悩ませる。


「美月さん、今日も期待していてくださいね!」


『うんうん、ちゃんと見てますよ。』


「お前、先輩だぞ!?」


『みんなそう呼んでるから、そっちの方が私も
仲間って認識出来て嬉しいから。』


「だとしてもお前、美月だって忙しいんだから
あまり無茶な事は言い出すなよ?」


「おー、先輩らしい事言ってんな。」


『瀬見先輩みたいに、公私混同せずに上手く
サポートしなくちゃですよね。ついお世話を
余計にしたくなるんですけど。』


「あっ…!うん、そうだよな!!!」


確かに五色もまだまだ幼い部分が見え、微笑ま
しく思うのだが、瀬見は意味合いが違う部分も
あったりする為、複雑な心境で目を泳がせる。


「はーん、ここでやっと英太君の疚しさが垣間
見えたカンジだよね?」


楽しそうにそれを見届ける天童は、先輩が彼女
に向ける好意を疑うと疑われた彼の声は裏返り、
白布はもしかすると先輩達の方がまだマシかも
しれないとそこで考え始める。


『賢二郎や太一も褒められたかったりする?
よしよし、偉いぞーって。』


「…なっ、そんな事しなくていいって!」


『太一、届かない!』


「お前が小さ過ぎんだっての。」


『太一がわざと背伸びしてるんでしょ!?』


「白布さんも川西さんも子供っぽいところがある
んですね?」


「「五色、後で覚えとけよ?」」


「ひっ…!!?」


2人の先輩から睨まれ、さすがにそれに怯える
五色は反射で美月の後ろに隠れ、怖い形相の
白布達に脅さない!と怒り出す。


『五色君は大丈夫でも、他の後輩達が怖がる
からその顔はダメ!』


「え、俺は大丈夫なんですか?」


「ぶはっ、さすが美月ちゃん!」


彼女の注意は少しずれていたりもするが、その返答は今度は先輩が気に入ったりもして、部内
は一気に賑やかに。


そこは強豪といえど他の学校と何ら変わりない
高校生らしい部分も見えて、しばらく騒がしい
やり取りは続いていた。


「五色は、美月と打ち解けるのが早かったな。」


「若利君、美月ちゃんと普通に会話するの、
やっとだもんね?」


「何なら、部活の最低限しかしてなくないか?」





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