突然の煩悩
白布が目が覚めるそこには、気になるあの子しか
いない謎の空間、向かい合わせで座るその場所は
何故かベッドの上で、何故か美月の胸元にリボン
が付いていた。
「お前、これは何だよ?」
『プレゼント。』
「…は?」
『賢二郎へのプレゼント、受け取って欲しいな
…って。』
頬を赤く染め、彼女は彼の手に自分の手を添え
ると、ゆっくりと首元のリボンに持っていき、
そのリボンを解くように促された。
「ちょっと待て、それを解いたら!」
白布が動揺する理由は、目の前の彼女はまさか
のベビードール姿。
それを解いてしまったら、見てはいけない部分
が露になって、でも2人はまだそれを見せて貰う
中では無くて。
『賢二郎、私は大丈夫だから。』
「いや、アウトだろ!」
シュルッと時間を掛けて緩むその箇所に、彼は
慌てて見てはいけないとぎゅっと目を瞑る後に
名前を呼ばれて、ゆっくりと瞼を開ける。
「珍しい、お前がアラームで起きないなんて。」
「…あー、うん。…まあ。」
川西が目を丸くして、白布を見ているのが紛れ
もない現実。
スマホの画面と日付を確認して、本日が何の日
であるか知った彼は、自分の腕で目を覆う。
もう少し続きを…、いや何を考えているんだ。
夢の中で美月にとんでもない姿をさせてしまった
罪悪感と、それが結構似合っていて目の保養と
なった幸福感。
複雑な気持ちを抱く、白布の動きはフリーズ中
だったが、世間はゴールデンウィークと呼ばれ
るその日も、インターハイを控えるバレー部は
練習があり、その夢を振り返る時間なんてもち
ろんあるはずが無い。
「何、嫌な夢でも見たのか?」
「うん、まあ…そんな所。」
ゆっくりと身体を起こし、疚しい自分を知られて
なるものかと顔を顰めていると、川西に寝起きの
機嫌が悪いのだと勘違いされていた。
「なーんか、誰かしらがどこかにお出かけして
いる日にこの体育館で練習ってのは、乗らない
よねー。どうせなら、県外に合宿とかならまだ
楽しいのに。」
「まあ、気持ちはわからんでも無いが。別の場所
で練習していたにしても内容は同じだろ。」
「気分が違うよ、気分が!」
数日目となるゴールデンウィークの部活に若干
飽き始めていた天童は、変わりもしない風景を
休憩の度につまらなそうにして、それを宥める
大平の言葉にも天童は退屈な反応を見せていた。
「合宿なら美月ちゃんだって同じ屋根の下で夜も
一緒だし、ドキドキのハプニングが待ってるかも
しんないでしょ?」
「お前、言い方。」
「何だよ、そのドキドキハプニングって。」
『天童先輩の言うハプニングは置いといて、
皆さんの中に混ざる事が出来るのはちょっと
嬉しいですよね。』
勝手に話を進める天童に、大平と共にその場に
いた瀬見は呆れた顔を見せて、彼らのドリンク
を回収に来た美月も会話を聞くと、彼らに笑って
そう答える。
「ハプニング欲しいじゃん。目が覚めたら布団
の中に美月ちゃんがいて、きゃっ!?的な。」
『天童先輩はまたそうやって揶揄う。』
「美月さんと同じ屋根の下…?」
「いや、部屋とかはもちろん別だぞ?」
一部のフレーズだけを耳にした五色は、慣れない
その単語達に立ち止まって考え込み、すかさず
大平が五色に指摘する。
そんな中、彼らの会話をシャットアウトするか
のように、少し離れた場所で静かに白布は水分
を補給していて、五色が少しでも彼女に疚しさ
を見せたら注意をする彼が大人しいので、それ
を川西は珍しく思い、首を傾げた。
「お前、朝から様子がおかしいけどなんかあった
わけ?」
「いや…何でも無いから、気にするな。」
いつもと調子の違う白布を心配して、川西は彼に
尋ねてみたが、その返答は淡々としたいつもの
口調。
川西には上手く誤魔化せた事に胸を撫で下ろし、
内心は同じ布団と聞いただけで、口に含んでいた
ものを吹き出しそうなくらいには敏感になって
いて、正直、彼はまだ夢の中で見た美月の姿を
忘れていない。
もちろん、今朝から彼は一日中そんな状態なので
上手い具合に別の一年生からドリンク等を受け
取ったりして、彼女とまともに顔は合わせて
いない。…否、合わせられない。
「外泊したいならインターハイがあるだろう。」
「今年は富山だったな?」
『富山でしたね、名物調べなきゃ。』
「俺がちゃんと美月さんをインターハイに連れて
いきますから!」
『ふふっ、頼もしい約束だね。』
「そうやって五色を褒めたら、調子に乗るから
止めとけ。」
牛島の一言で話の流れは徐々に変わっていき、
山形が開催地を思い出せば、彼女はそこの名物
を頭に浮かべるのか、目を輝かせる。
それを微笑ましく見る瀬見にも、今日の白布は
何も反応を見せないので、あまりにも大人し
過ぎる後輩に天童も違和感を覚えたのか、天童
の頭にもクエスチョンマークが浮かんでいた。
「どうしたの、賢二郎。今日はやけに大人しい
じゃん?」
「別に…。いたって普段通りですけど。」
がっしりと肩を組んでくる先輩に、白布は視線
を逸らし、また面倒臭い人に絡まれてしまった
と眉を顰める彼の隙を観察力の優れる天童には
すぐに見つかってしまう。
「そういえば、今日は美月ちゃんとあまり話して
無いみたいだけど何かあったの?」
「そんな事は。アイツも今日は忙しそうにして
るし、たまたまですよ。」
「ふーん、たまたま…ねえ。」
ニヤニヤと笑いかけてくるその笑みを白布は厄介
に思っていると、あんな夢を見てしまった原因
を天童を見て思い出した。
「賢二郎、フライングだけど誕生日プレゼント
持ってきたよー。」
それは昨夜、突然自室に突撃してきた時の事。
一冊の本を満面の笑みで押し付けてくる天童は、
白布がそれを「結構です。」と突き返したが、
彼はまあまあとそれを再び白布の手に持たせる。
「でもこのページの写真の子が、美月ちゃんに
似てるよ?」
「・・・・・・。」
結果的にいうと、それは白布からすれば美月とは
全く似ていなかった。
「そもそも、もっとアイツは上品だよ。」
一応ページを捲り、彼女に似ていると言われた
その写真を確認して、頬杖付いた白布は小さく
舌打ちをする。
そして川西が部屋に入ってくる前に、慌ててそれ
を机の引き出しにしまった彼は、すぐにベッド
に入り込むと明日に備えて眠りに付いて、自分
の記憶の中にあった衣装を夢の中では彼女が身
に纏っていた。
「元を辿れば天童さんのせいじゃないですか!」
「もしかして、アレ見てくれたの!?
賢二郎もしかして…、想像力豊かだね。」
「違います!…あんなくだらないものの処分は
あなたが何とかしてくださいよ!!?」
「じゃあ、太一にでもあげる?」
「あげるわけ無いじゃないですか。」
「じゃあ、気に入ってるんだ。」
「そうじゃなくて!!!」
煽るその言葉にムキになる白布の反応を天童は
面白がって、会話の内容までは聞き取れないが
白布の怒った口調は聞こえてきた美月は彼を気
にして視線を向ければ、白布とパッチリと目が
合う。
やっぱり今日はまともに彼女の目を見るのが辛い
彼は、せっかくの誕生日なのにと天童を恨み、
次に彼から渡された本を恨む。
その数時間後に、ちゃんとプレゼントを用意して
いた彼女から2人きりの帰り道に受け取り、そこ
でやっと彼の中にある妙なモヤモヤとした気持ち
は薄くなった。
「今日はごめん、美月。」
『どうして賢二郎が謝るの?改めて、誕生日
おめでとうございます。』
彼の中で、今はその笑顔を超えるものは無い。
彼はその一瞬をしっかりと目に焼き付けた。
「ありがとう、美月。」