黒尾達との飲み会当日、女の子1人だと不安
だろうから友達も連れておいでと言われ、仲の
良い女友達を誘って当日を迎えようとすれば、
残念なことにその友人は熱を出してしまい、
結局美琴1人が参加をすることに。
集まる店は、美琴に配慮して神戸にある個室の
居酒屋で、そこで現地集合する予定となって
いた美琴は、1人店の前に立って待つと、面倒な
ことに見知らぬ男3人のグループに声をかけられ
てしまった。
「お姉さん、1人?」
『いや、今は人を待ってます。』
「へー。その間でええから一緒に俺らと飲まん?」
『ごめんなさい、そろそろ来ると思うから。』
「まぁまぁ。俺らと飲む方が楽しいで?」
美琴がやんわり断っても彼らは食い下がって、
寧ろ先程よりも積極的に彼女を誘って来る。
困り果てて黒尾に到着を知らせたメッセージを
送ると直ぐにそれは既読がついて、もうすぐ
着くと返信も来たので、彼女は助けを求める
ようにキョロキョロ辺りを見回すと、遠くに
らしき人物の姿を見つけた。
黒尾が見えると少し安心をして、絡まれてます と助けを求めるメッセージを再度送れば、彼も
彼女を見つけたのか、笑の一言だけメッセージ
を送り、歩くペースは変わらずゆっくりで、
彼女はそれに少しだけ苛立ちを見せた。
『あぁ、もう。早うしてください!』
「え、本当に待ってる人おるの?」
「なんなら、その待ってる人も一緒にどう?」
この人達はどんだけ図々しいねん。
頭の中でそう考えながら、美琴は黒尾に急かす
ように手招きをすると、声をかけていた男達は
どの人?と聞いてくるので、彼女は近づいて
来る方向へ指をさす。
近寄ってきた人物の体格の良さに、え?まじ?
意外とそれぞれが一言だけ発した後に『ほら、
いたでしょ?』と彼女が誇らしげに声をかけ
ようとしたところ、彼らは既にいなくなって
いた。
「会って早々、早速ナンパされてるし…!」
そのかわり爆笑しながら自分の頭を撫でている
黒尾の姿があって、美琴は『黒尾さん酷い!』
と怒り出したので、黒尾はその彼女の反応を
面白がって、余計に腹を抱えて笑い出す。
「焦ってる小狐ちゃんがおかしくてつい!」
『もー!私は小狐やのうて美琴です!』
「はいはい、美琴ちゃん。」
『黒尾さんがニヤニヤしとったん、知ってます
からね!』
「美琴ちゃん、遅くなってごめんね!」
笑う黒尾の反対方向には、絡まれていた美琴を
助けようとした赤葦が息を切らしながら彼女の
肩をぽんと叩き、申し訳無さそうに彼女に謝る
ので、彼女はそんな!と首を必死に横に振る。
『赤葦さんがまともで安心や。』
「美琴ちゃん、残念だけどそいつも猫被ってん
だからな?」
「黒尾さん、余計な事を言わないでください。」
黒尾の言葉にジロリと冷たい視線を送る赤葦を
美琴が不思議そうに首を傾げると、ふわりと体
が浮き、彼女は驚いて思わずきゃっと小さく
悲鳴が漏れる。
「美琴ちゃん、みーっけ!」
それもそのはず、彼女の視界が一気に高くなる
のは美琴達を見つけた木兎が駆け寄って、嬉し
そうに彼女を抱え上げたからで、目立つ行動を
避けたい彼女は下ろしてください!と彼に必死
に叫ぶのだった。
「お前、まだそんな事やってんの?」
「彼女に会う度に毎度ですよ?」
「…へー。」
「美琴ちゃん、私服もやっぱ可愛いー!」
『木兎さん、やっぱり高いです!!
あと、恥ずかしいです!!!』
自分の行動は棚に上げ、黒尾は木兎の彼女への
コミュニケーションの取り方を1歩引いた目で
見るので、赤葦も呆れるようにため息を吐く。
時間だから行きますよと赤葦が上手く促して、
美琴は再び赤葦に感謝をするのだった。
「んじゃ、せっかく会えたって事で。」
グラスがカランとぶつかる音が響き、いつもと
違う顔ぶれが新鮮で、普段のメンバーとはまた
違ったオーラに少しだけ緊張を見せ、彼女の
表情を見て、向かいにいる木兎は半分面白がり
ながら、彼女の頬を両手で解すように触れた。
「美琴ちゃん、リラーックス!」
『ふにゅっ。すみません、何でやろ?
皆さん、言葉も標準語やから、それも少し
緊張します。』
「あー。そういや、そうだな。」
「方言の女子いいですよね。」
「美琴ちゃん、やわらかい喋り方するから
俺も好き。」
褒められてもそんな!と謙遜する美琴を見て、
黒尾は大丈夫?とりあえず食っとく?と言って
彼女を気にかけながら、ポンポンお皿につまみ
を乗せていく。
どこの主将も同じなのかと、彼女は誰かと重ね
て思わず目が点になっていた。
「肉も食っとけな!肉!」
「黒尾さんも木兎さんも美琴ちゃんが困ってますよ?」
それに便乗して木兎も更に乗せ始め、ペースに 追いつけない彼女を助けるように、 赤葦が隣
から食べるのを手伝うので、彼女はそれも誰か
と重ねて見えてしまう。
『ふふっ、大丈夫ですよ。
よく知ってる人達みたいやから、安心します。』
段々とその場の空気に慣れ、嬉しそうに頬張る 彼女を見れば、まったりとした空気に癒され、 黒尾も気がつけば自分の胸元をギュッと掴んで
いた。
「ねぇ木兎、この子飼ってもいい?」
「俺もさ、久しぶりに会った時にツムツムに
そう聞いたら、めっっちゃ怒られた。」
『赤葦さん、次は何飲まれます?』
「あ、メニューありがとう。」
なるほどと彼女の周りのガードを理解した黒尾 は相槌を打ち、酒が入ったからか段々と気分も
良くなり、黒尾と木兎の2人がバレー界隈の話で
盛り上がっている向かいでは、美琴と赤葦は
本や料理の話で盛り上がる。
『赤葦さんは、料理は自分でするんですか?』
「んー。それがなかなか時間が取れなくて、
外食が多かったりするんだよね。」
『東京は美味しそうなごはん屋さんが多そう
ですもんね。』
「本当、美琴ちゃんもまた遊びにおいで?
良かったら、案内するから。」
『ほんまですか!まだ夏休みやし、旅行がてら
行きたいです。』
「あらあら、勇者な赤葦君ったらもうお泊まり
のお誘い?」
「美琴ちゃん、食べられないように気を付けなよ?」
お互いにスケジュールを確認して、ピッタリ
都合が合う日にちを見つけると、話には入って
いなかったはずの2人が、東京というワードを
耳にした瞬間、揃ってニヤつきながら頬杖を
付くと赤葦を茶化し始めたので、彼の口からは
思わず小さく舌打ちが出る。
お泊まりという言葉で変に意識をしてしまった
美琴はあの…そういうつもりはと口をパクパク
させながら縮こまってしまうので、せっかく
近づけた距離が台無しになったと、赤葦は頭を
抱えていた。
『すみません、私にそんな卑しい気持ちはない
です。ご飯食べたいだけなんです。なんなら、 治さん連れていきます。』
「うん。わかってるし、大丈夫だし、不機嫌な
君の先輩の顔しか浮かばないから、連れて来る
のは止めよう。」
「なんか、赤葦VS宮治とか楽しそうだな。
2人とも玉砕しろよ、そのまま俺が貰うし。」
『あれ、これは何の話になっとるんですか?』
「うーん、俺もわかんなくなっちゃったけど、
黒尾が人としてどうかと思う発言しているのは
わかる。」
必死に謝りすぎる美琴に、逆に赤葦はそこに
少し傷つきながらも彼女を宥める。
黒尾はそれを楽しみながら、自分もあやかろう
とするので、話の意図が分からなくなった彼女
に珍しく木兎の方がまともな言葉を吐いていた。
『楽しかったです、今日はありがとう
ございました。あと…あのご馳走になって
しもうてすいません。』
「いーのいーの!元々誘ったからには奢る予定
だったし。」
「美琴ちゃん、また遊ぼーね!」
店を出て駅で彼女が別れようとしたら、赤葦は
美琴を1人で歩かせるのは心配だったのか、
ホームまでは送るよと彼女に並んで歩けば、
木兎と黒尾は彼を見て、再びニヤついて見て
いた。
「赤葦、なんか今度よろしくな。」
「はぁ、わかりましたからお引き取り下さい。」
「つれねーなー、美琴ちゃんまた会おうね!」
手をひらひらと振って、先輩達は2軒目へと突入
するのか、再び飲み屋街の方向へと歩き出す。
行こうかと背中に触れられ、美琴は少し恥ずか
しくなって俯くと彼に名前を呼ばれ、彼女は
彼を見上げた。
「出来ればさっきの遊びに来てくれる話、
なかったことにしないで欲しい。」
『赤葦さん…?』
「君に見せたいものが沢山あるから。」
赤葦の笑顔からは疚しさを感じない気がして、
美琴はわかりましたと微笑み返す。
それじゃあと彼が少しだけ喜ぶのも束の間、
遠くから美琴の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「美琴!!!」
『あれ…、治さん?』
ホームに着けば、そこに入るはずのない治が
彼女を待っていて、赤葦から奪うように彼女の 手を引いて自分の元へと引き寄せる。
「ウチのがお世話になったようで。」
「美琴ちゃん、会えて嬉しかったよ。」
ウチのを強調する治の言葉を無視して、赤葦は
彼女にだけ言葉を向けると背を向ける。
店にいる時に2人で決めた東京行きの日程は、
どうかご内密にと彼女にメールをして、次に
会う時は…と彼は胸の中に秘める思いを馳せるのだった。
『治さん、どうしてここに?』
「んー、なんか美琴が危ない目に合わんか
心配になって…野生の勘。
(この前友達とのメールがたまたま見えたんは、
黙っとこうか)」